第16話 噂の、あとで
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第16話 噂の、あとで
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噂は、消えた。
事件も、終わった。
学校は、すっかり、元通り。
……でも。
ひとつだけ。
元通りに、ならなかった、ものが、ある。
◇
「――森本くん」
「はいっ」
「なぜ、そんなに、びくつくのですか」
「びくついてない」
放課後。図書室。
俺と、五百旗頭は。
なぜか。
微妙に。
ぎこちなかった。
だって。
数週間、ずっと。
学校中に、「付き合ってる」って、言われ続けたんだ。
二人で、否定して。二人で、赤くなって。二人で、事件を、追いかけて。
その、あとで。
急に、噂だけ、消えて。
「はい、元通り」って。
……無理だろ。
意識、するだろ。
「……あの」五百旗頭が、本で、顔を、半分、隠しながら、言った。「森本くん」
「なんだよ」
「……噂が、消えて。……よかったですね」
「……ああ。よかったな」
「……ええ。よかったです」
「……」
「……」
沈黙。
……よくないだろ、これ。
◇
「――なにやってんの、あんたたち」
湊ミライが。
呆れた顔で。
入ってきた。
「べ、別に、何も」
「めっちゃ、気まずいじゃん」ミライは、けらけら、笑った。「あー、わかった。噂が、消えて。逆に、意識しちゃってるんでしょ」
「「してない!」」
「はもった」
「……」
「……」
……くそ。
こいつの、前だと。
全部、見透かされる。
◇
「じゃあ、聞くけどさ」ミライは、椅子に、座って。にやり、と、した。「五百旗頭さん。……噂、消えて。ほんとに、よかった?」
「え?」
「ちょっとくらい、残ってたほうが。……よかったんじゃないの?」
「な、なぜ、そうなるのですか!」
「顔、赤いよ」
「赤くありません!」
「森本は?」ミライは、俺を、見た。「あんたも、どう? 噂、消えて。……せいせいした?」
「……」
俺は。
答えられ、なかった。
だって。
あの、噂の、おかげで。
俺と、五百旗頭は。
毎日、放課後、図書室で。
二人で、証言を、整理して。
頭を、突き合わせて。
……まあ。
悪く、なかった。
……いや。
悪くない、どころか。
「……まあ」俺は、頭を、かいた。「……せいせいは、してない、かな」
五百旗頭が。
ぱっ、と。
顔を、上げた。
「……え」
「い、いや! 別に、深い意味は!」
「あー、はいはい」ミライが、手を、ひらひら、振った。「ごちそうさま」
「なんだよ、それ!」
◇
「――何を、騒いでいるの?」
御手洗が。
世界史の、資料を、抱えて、やってきた。
今日の、私服は、蛍光イエロー。網膜に、痛い。
「御手洗さん。この二人、まだ、じれてる」
「あら」御手洗は、こてん、と、首をかしげた。「まるで、ウィーン会議みたいね。……何ヶ月、経っても、何も、決まらないの」
「出た」
「出た、じゃないわよ」
「たとえが、世界史なんだよ、やっぱり」
「わかりやすいでしょう」
「わかりにくいって」
……ああ。
この、やりとり。
なんか、久しぶりだな。
事件のあいだ。
みんな、ぴりぴり、してたから。
◇
と。
図書室の、扉が。
また、開いた。
「――失礼します。おや、みなさん、お揃いで」
日下部久遠、だった。
相変わらず。にこにこ、して。誰にでも、感じよく。
「日下部。お前、最近、来ないと、思ったら」
「いやあ、忙しくて」日下部は、笑った。「文化祭の、実行委員の、手伝いを、頼まれまして」
「お前、実行委員でも、ないだろ」
「頼まれると、断れない、性分でして」
……こいつ。
相変わらず、誰とでも、仲がいい。
そして。
その、すぐ後ろから。
「……ふん。なんだ、貴様ら。揃いも揃って」
不破楓也。
相変わらず、いけすかない、顔で。
でも。
なんだかんだ。
図書室に、来る。
「不破。お前も、暇なのか」
「暇では、ない。……通りかかっただけだ」
「じゃあ、通り過ぎろよ」
「……」
不破は。
何も、言わずに。
椅子を、引いて。
座った。
……座るのかよ。
◇
そして、最後に。
「……遅れた」
東海林四季が。
竹刀袋を、抱えて、入ってきた。
部活帰りらしく。少し、髪が、濡れていた。
「四季」
「……ん」
四季は。
俺の、隣に。
当たり前みたいに。
座った。
……あの、日から。
なんか。
少しだけ。
意識、してしまう。
「わたしは、ちゃんと、森本を、見てた」。
そう、言った、あいつの、顔を。
思い出して。
「……森本」
「な、なんだよ」
「……顔、赤い」
「赤くない!」
ミライが、また、にやにや、していた。
くそ。
◇
で。
気づいたら。
図書室に。
全員、揃って、いた。
俺。五百旗頭。御手洗。東海林。日下部。不破。
そして、ミライ。
誰も、集合を、かけて、いない。
みんな、勝手に、来て。勝手に、座って。
なんとなく、喋って、いる。
「そういえば」日下部が、言った。「例の、実習生の件。処分は、どうなったんです?」
「大学に、報告が、行ったそうです」五百旗頭が、答えた。「実習は、中止。単位も、出ない、と」
「厳しいですねえ」
「当然だ」不破が、鼻を、鳴らした。「人を、実験台にするなど。……許されん」
「あら、不破くん」御手洗が、言った。「あなた、いちばん、被害を、受けたものね。犯人扱いされて」
「……思い出させるな」
「ごめんなさい。……でも」御手洗は、にっこり、笑った。「あのとき、森本くんが、あなたを、庇ったのは。……よかったわね」
不破が。
ぐっ、と。
言葉に、詰まった。
「……別に。頼んでは、いない」
「素直じゃ、ないなあ」日下部が、笑った。
「うるさい!」
◇
そんな、やりとりを、聞きながら。
俺は。
ふと、思った。
一年前。
俺は、こいつらの、誰とも。
まともに、話したことが、なかった。
五百旗頭は、遠くの、高嶺の花で。
御手洗は、図書室の、変な女で。
東海林は、幼馴染だけど、疎遠で。
日下部は、有名人で。
不破は、いけすかない、イケメンで。
ミライに、いたっては。
存在すら。
知らなかった。
それが。
今。
なんとなく、集まって。
くだらない、話を、して。
誰かが、突っかかって。誰かが、笑って。
……こんなの。
一年前は。
想像も、しなかった。
……悪く、ないな。
そう、思った。
心から。
――このときは。
まだ。
この、時間が。
いつまでも、続くんだと。
思って、いた。
(第16話 了)




