↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋愛推理ゲーム  作者: SSS
きみを見ていたのは、誰?

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
44/116

第15.5話 将来の、話

====================

第15.5話 将来の、話

====================


(※箸休め回。本筋は、あまり進みません)



事件が、終わって。


学校は、すっかり、元通りに、なった。


そして、元通りに、なると。


今度は、別の、面倒くさいものが、やってくる。


――進路希望調査。



◇



放課後。図書室。


テーブルの、上に。


三枚の、プリントが、並んでいた。


俺と、五百旗頭(いおきべ)と、御手洗《みたらい》の、分。


「……はあ」


俺は、ため息を、ついた。


「三年の、クラス編成、ですものね」五百旗頭が、言った。「今の、二年は。文系にも、理系にも、行ける、国公立型の、オールマイティな、編成ですが。……三年からは、分かれます」


「そうなんだよな」


「つまり」御手洗が、こてん、と、首をかしげた。「わたしと、五百旗頭さんは。……別々の、クラスに、なるのね」


……あ。


そうか。


五百旗頭は、理系。御手洗は、文系。


三年に、なったら。


この、面子で、集まるのも。


難しく、なるのか。


なんだか。


少し。


さびしい、気が、した。



◇



「森本くんは」五百旗頭が、聞いた。「どちらに、するのですか」


「……未定」


「未定?」


「うん。決めてない」俺は、正直に、言った。「文系も、理系も、別に。……やりたいこと、ないし」


「では、将来の、夢は?」


「ない」


「ないって、あなた」


「ないもんは、ないんだよ」俺は、頭を、かいた。「……でも、ひとつだけ、決めてることは、ある」


「なんですか」


「……うちの、親みたいには、なりたくない」


五百旗頭と、御手洗が。


顔を、上げた。



◇



「うちの、親父さ」俺は、言った。「サラリーマン、なんだけど。……家で、電話してるとき。頭、下げてるんだよ」


「頭を?」


「そう。電話の、相手、見えてないのに」俺は、言った。「『申し訳ございません』って。何回も、何回も。……頭、下げながら、謝ってる」


「……」


「別に、親父が、悪いことしたわけじゃ、ないと思う」俺は、言った。「たぶん、仕事って、そういうもんなんだろ。……でも」


俺は、窓の外を、見た。


「見てて、なんか。……嫌だった」


五百旗頭も、御手洗も。


何も、言わなかった。


「だから、まあ」俺は、話を、軽くした。「将来は、棚上げ。とりあえず、適当な、大学でも、行くかな、と。……Fランでも、いいや」


「……いいのですか、それで」


「よくないけど。……他に、思いつかないし」



◇



「まあ」五百旗頭は、少し、うつむいた。「……わたしも、人のことは、言えません」


「え? お前、目標、あるだろ」


「明確な、進路先が、あるわけでは、ありません」五百旗頭は、言った。「ただ……願望なら、あります」


「願望?」


五百旗頭は。


少し、恥ずかしそうに。


でも、まっすぐ、言った。


「数式を、解く、仕事が、したいんです」


「……数式を?」


「できれば」五百旗頭の、目が、きらきら、し始めた。「素粒子物理を、やりたい。……この宇宙が、何で、できているのか。なぜ、こんな、法則で、動いているのか。……その、いちばん、底のところを、突き詰めたい」


……出た。


こいつの、スイッチ。


「だから、わたし。……大学に、行って。そのまま、研究室に、残りたい」五百旗頭は、言った。「一生、数式を、解いていたい」


「……なるほど」俺は、納得した。「つまり、大学いって、そのまま、研究員で、残る、ってことか」


「そう、なりますね」


「すげえな。ちゃんと、考えてるじゃん」


「……考えている、というか」五百旗頭は、赤く、なった。「……好きなだけです」



◇



「御手洗は?」俺は、聞いた。


「わたしは、世界史ね」御手洗は、あっさり、言った。


「まあ、そうだろうな」


「でも」御手洗は、指を、立てた。「世界史って、広すぎるの。だから、どこか、ひとつの、ジャンルに、絞って。……深く、掘り下げたいわ」


「ジャンル?」


「わたしはね。……オーストリアと、ドイツの、あたり」御手洗は、言った。「大学に、行ったら。留学したいの。ウィーンか、ベルリンに」


「留学!?」


「ええ。だって、英語だけじゃ、資料が、読めないもの」御手洗は、けろっと、言った。「ドイツ語を、勉強して。現地の、文書館で。……一次資料を、読みたいの」


……こいつ。


とんでもない、こと。


さらっと、言うな。


「それで、将来は?」


「その、あたりの、歴史を、研究する、仕事」


「……それって、どんな、職業なんだ?」


「さあ?」御手洗は、こてん、と、首をかしげた。「なんて、言うのかしら。……大学の、先生? 研究者? 学芸員?」


「わからんのかい」


「わからないけど」御手洗は、にっこり、笑った。「やりたいことは、決まってるもの。職業の、名前は、後から、ついてくるわ」


……。


かっこいい。


なんだ、こいつら。


二人とも。


かっこよすぎるだろ。



◇



で。


俺は。


静かに。


落ち込んで、いた。


五百旗頭は、宇宙の、底を、見に行く。


御手洗は、ドイツ語を、覚えて、資料を、読みに行く。


俺は。


……Fランでも、いいや。


「……はは」


乾いた、笑いが、出た。


「森本くん?」


「いや。……なんでもない」俺は、プリントを、見た。「なんか、俺だけ。……なんも、ないな、って」


空白の、進路希望欄が。


やけに、白く、見えた。



◇



「――なに、辛気くさい、顔してんの」


と。


いつの間にか。


湊(みなと)ミライが。


テーブルの、隣に、座って、いた。


「湊。お前、いつから」


「さっきから」ミライは、俺の、プリントを、のぞきこんだ。「あー。進路希望。……森本、空欄じゃん」


「うるさい」


「べつに、いいじゃん」ミライは、あっさり、言った。「わたしも、空欄だし」


「……え?」


俺は、顔を、上げた。


「お前も?」


「うん」ミライは、頬杖を、ついた。「わたし、将来の、目標なんて、ないよ。……全然」


「でも、進学は?」


「するよ。……親が、望んでるし」ミライは、肩を、すくめた。「あと、わたし。……働きたくないもん。大学、行けば、四年、延ばせるでしょ」


「……身も蓋も、ねえな」


「そういう意味では」ミライは、俺を、見た。「……あんたと、一緒」


……。


なんだろう。


その、一言で。


少しだけ。


気が、楽に、なった。


「……そっか」


「うん」


「……お前も、なんも、ないのか」


「ないない。まったく」ミライは、けらけら、笑った。「だからさ。……そんな、落ち込むこと、ないって。目標なんて、ないやつのほうが、多いよ」


……こいつ。


なんだかんだ。


慰めて、くれてるのか。


「……お前、優しいな」


そう、言った、瞬間。


ミライの、顔が。


ぐにゃっ、と、歪んだ。



◇



「……うわ、出た」


「なんだよ」


「それ」ミライは、心底、嫌そうな顔で、言った。「ちょっと、優しくされたら、すぐ、好きになっちゃう、男子の、やつ」


「なってねえよ!」


「なるって! そういうタイプ、いるもん!」ミライは、俺を、指さした。「言っとくけどね。……それくらいで、わたしのこと、好きに、ならないでよ?」


「ならねえよ!」


「ほんとに?」


「ほんとに!」


「……ふーん」


ミライは。


じとーっ、と、俺を、見て。


それから、ぷい、と、そっぽを、向いた。


……なんだ、こいつ。


慰めたり。突き放したり。


忙しい、やつだな。



◇



でも。


その、あと。


ミライは。


誰にも、聞こえない、くらいの、声で。


ぽつり、と、言った。


「……目標なんて、なくても」


「ん?」


「……いいんじゃない。……ちゃんと、生きてれば」


「……なんか、言ったか?」


「べっつにー」


ミライは。


立ち上がって。


図書室を、出て、いった。


空白の、進路希望欄は。


まだ、白いまま、だったけど。


なんだか。


さっきより。


少しだけ。


気が、重く、なくなって、いた。



(第15.5話 了)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。