↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋愛推理ゲーム  作者: SSS
きみを見ていたのは、誰?

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
43/116

第15話 私は、ちゃんと見てた

====================

第15話 私は、ちゃんと見てた

====================



事件は、終わった。


白瀬《しらせ》先生は、翌日、学校側に、自分から、報告した。


実習は、中止。大学にも、報告が、いくらしい。


噂は、少しずつ、消えていった。


「森本と、五百旗頭が、付き合ってる」も。「森本は、モテ男」も。


一週間も、すると。


誰も、その話を、しなく、なった。


まるで。


最初から。


何も、なかったみたいに。



◇



でも。


俺の、中には。


何かが。


残って、いた。



放課後。


誰も、いない、教室で。


俺は、窓の外を、見ながら。


ぼんやり、していた。


「……なんか、変な感じだな」


学校中が、俺の、話をしていた、あの、数週間。


俺は、たしかに、「有名人」だった。


みんなが、俺の、名前を、知っていて。


みんなが、俺を、見ていた。


……はず、だった。


でも。


違った。


みんなが、見ていたのは。


「森本らしい、誰か」だった。


黒髪で、制服を、着た、中背の、後ろ姿。


名前だけを、知っている、噂の中の、人物。


――俺じゃ、ない。


誰一人。


本物の、俺なんて。


見て、いなかった。



◇



「……森本」


声が、して。


振り返ると。


東海林(しょうじ)四季が、立っていた。


竹刀袋を、抱えて。いつもの、無表情で。


「四季。部活は?」


「……終わった」四季は、俺の、隣に、来た。「……何、してるの」


「別に。……ぼーっと」


「……」


四季は。


何も、言わずに。


俺の、隣に、立った。


二人で、窓の外を、見た。


グラウンドで、誰かが、走っている。


その、後ろ姿は。


遠くて。


誰なのか、わからなかった。



◇



「……なあ、四季」


「……何」


「あの、事件さ」俺は、言った。「……結局、みんな、俺を、見てなかったんだよな」


「……」


「名前は、知ってた。噂は、知ってた。でも」俺は、言った。「顔も、知らない。歩き方も、知らない。……何も、知らないのに。『森本だ』って、言ってた」


なんだか。


笑えて、きた。


「……俺って、なんなんだろうな」俺は、言った。「学校中が、俺の、話をしてたのに。……誰も、俺を、見てなかった」


自分で、言って。


思ったより。


こたえた。


声が。


少し、情けなく、なった。


「……ま、いいけどさ。もう、終わったし」



◇



四季は。


しばらく、黙って、いた。


それから。


ぽつり、と。


言った。


「……違う」


「え?」


「……違う」


四季は。


まっすぐ、俺を、見た。


いつもの、表情の、乏しい顔で。


でも。


その目は。


びっくりするくらい、まっすぐ、だった。


「……わたしは」


「……」


「……ちゃんと、森本を、見てた」


……。


息が。


止まった。



◇



「……あの日も」四季は、続けた。「……グラウンドで。……みんなが、『森本だ』って、言ってたとき」


「……ああ」


「……わたしだけ、違うって、わかった」


「歩き方が、違うから、だろ」


「……うん。……でも」四季は、少し、目を、伏せた。「……歩き方を、知ってるのは。……ずっと、見てたから」


「……」


「……小学生の、とき。……森本が、屋根に、登って。……先生に、怒られてた、とき」


「なんで、そんな昔の」


「……中学の、とき。……クラスが、離れて。……廊下で、すれ違うだけ、だったとき」


「四季」


「……高校で、また、同じクラスに、なって。……嬉しかったとき」


四季の、声が。


少しずつ。


早く、なって、いた。


「……ずっと」四季は、言った。「……ずっと、見てた」


「……」


「……だから」


四季は。


竹刀袋を、ぎゅっ、と、握って。


言った。


「……誰も、見てなかった、なんて。……言わないで」



◇



教室が。


しん、と、していた。


窓の外で。


グラウンドの、誰かが。


まだ、走っていた。


俺は。


何を、言えば、いいのか。


わからなかった。


だって。


こんなの。


……ずるい。


いつもは、「……」しか、言わないくせに。


こういうときだけ。


全部、まっすぐ、言ってくる。


「……四季」


「……何」


「……ありがとな」


四季は。


少しだけ。


目を、そらして。


「……別に」


と、言った。


でも。


その、耳が。


真っ赤だった。



◇



「……あ」四季が、ふと、言った。「……でも」


「ん?」


「……歩き方の、癖」


「ああ」


「……直したら、だめだよ」


「なんでだよ」


「……わからなく、なる」四季は、言った。「……森本が、どこにいるか」


……。


なんだ、それ。


なんだよ、それ。


……ずるい。


本当に。


ずるい、やつだ。


俺は。


顔が、熱くなるのを、ごまかすように。


窓の外を、見た。


夕日が。


やたら、まぶしかった。



◇



――人は、他人を、見ていない。


白瀬先生の、仮説は、正しかった。


学校中の、誰も。俺を、見ていなかった。


名前だけを、知っていて。


それらしい、後ろ姿を。


「森本だ」と、思い込んで、いた。


でも。


たった、一人。


例外が、いた。


歩き方の、癖まで、覚えていて。


遠くの、後ろ姿でも。


「あれは、違う」と、わかる、やつが。


ずっと。


見て、いた、らしい。


……小学生の、頃から。


ずっと。


……なあ、四季。


それ。


もっと、早く。


言えよ。



(第15話 了)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。