第11話 俺じゃなくても、成立する
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第11話 俺じゃなくても、成立する
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「……たぶん、俺。……わかった、かもしれない」
俺が、そう、言った、瞬間。
五百旗頭は。
椅子から、立ち上がった。
「森本くん。……座って、ください」
「え? 俺、立ってないけど」
「わたしが、立ちました。すみません、座ります」
五百旗頭は、慌てて、座り直した。
隈の、できた、目が。
ぎらぎら、して、いた。
「話してください。全部」
◇
「うまく、言えるか、わからないけど」俺は、言った。「……順番に、話す」
「ええ」
「まず、不破のこと」俺は、言った。「あいつ、なんで、犯人扱い、されたと、思う?」
「印象です」五百旗頭は、即答した。「目立つ。背格好が、似ている。前に、あなたと、揉めていた。……全部、印象。証拠は、ゼロ」
「そう。証拠じゃ、なくて、印象」俺は、頷いた。「じゃあ、次。……俺の、モテ男の噂。あれ、なんで、みんな、信じたと、思う?」
「それも、印象……」五百旗頭が、言いかけて。
はっ、と、した。
「そう」俺は、言った。「みんな、俺と、お前が、図書室に、いるのを、見た。それだけで、『付き合ってる』と、思った。……事実じゃ、なくて。印象で」
五百旗頭の、顔から。
血の気が、引いていく。
「じゃあ、最後」俺は、言った。「……『昨日の森本を見た』って、証言。あれは?」
◇
しん、と、なった。
図書室の、時計の、音だけが。
やけに、大きく、聞こえた。
「……まさか」五百旗頭が、かすれた声で、言った。
「そう」俺は、言った。「……あれも、印象だ」
「でも、それは……!」
「五百旗頭。お前、言ってたよな」俺は、遮った。「目撃者は、誰一人、はっきり、顔を、見てない、って。『黒髪』『制服』『中背』『遠目』『たぶん、森本』……そうだろ?」
「……ええ」
「じゃあ、それ」俺は、言った。「……本当に、俺、だったのか?」
五百旗頭の、目が。
大きく、見開かれた。
「……あ」
「なりすまし犯なんて、いない」俺は、言った。「記憶操作も、されてない。……ただ、みんな」
俺は、はっきり、言った。
「――『森本らしい、誰か』を、見て。勝手に、『森本だ』と、思っただけ、なんだ」
◇
五百旗頭は。
しばらく、動かなかった。
それから。
ゆっくりと。
ペンを、取って。
紙に、何かを、書き始めた。
猛烈な、速さで。
「……そうか」五百旗頭は、つぶやいた。「そうか、そうか、そうか」
「おい、大丈夫か」
「大丈夫です。……いえ、大丈夫じゃ、ありません。頭が、沸騰しそうです」五百旗頭は、顔を、上げた。「森本くん。わたし、ずっと、間違った、式を、立てて、いました」
「間違った、式?」
「ええ」五百旗頭は、言った。「わたしは、ずっと。『誰が、森本くんに、なりすましたか』を、解こうと、していた。……でも、その式には、そもそも、前提が、入っていた」
「前提?」
「『目撃されたのは、森本くん本人か、その偽物である』という、前提です」五百旗頭は、言った。「でも、あなたが、言ったのは。……その前提そのものが、間違っている、ということ」
五百旗頭は、紙を、指さした。
「目撃されたのは。……森本くんでも、偽物でも、ない。ただの、無関係な、誰かです」
「そう。それだ」
「黒髪で。制服を、着て。中背で。夕方の、廊下を、歩いていた。……ただの、生徒」五百旗頭は、言った。「その人が、あなたである、必要は。……最初から、ゼロだった」
◇
「そうだよ」俺は、言った。「俺が、ずっと、引っかかってたの、それなんだ」
「あなたの、あの言葉」五百旗頭は、頷いた。「『俺じゃ、なくても、成立する』」
「そう。プリントを、拾う。職員室に、行く。駅まで、帰る」俺は、言った。「……全部、誰でも、いいんだよ。俺じゃ、なくていい。……なのに、みんな、『森本だ』って、言った」
「なぜ、でしょう」五百旗頭は、眉を、寄せた。「なぜ、無関係な、生徒を、見て。全員が、あなただと、思ったのですか」
「……それが、わからない」俺は、言った。「そこだけ、まだ」
二人で、黙り込んだ。
前提は、崩れた。
でも。
肝心の、「なぜ」が。
まだ、埋まらない。
◇
「――ねえ」
と。
いつの間にか。
御手洗が。
資料を、抱えて、そこに、立っていた。
こてん、と、首をかしげて。
「わたし、思ったのだけれど」
「なんだよ、御手洗」
「みんなは」御手洗は、けろっと、した顔で、言った。
「――森本くんを、見たんじゃ、なくて」
「……」
「森本くんだと、思っただけ、ですよね」
しん、と、なった。
御手洗は。
きょとん、と、して。
「あら。何か、変なこと、言ったかしら」
「……いや」俺は、言った。「今、お前。……たぶん、いちばん、大事なこと、言った」
「そう?」御手洗は、首を、かしげた。「わたし、当たり前のことしか、言ってないけれど」
……こいつ。
相変わらず。
天然のくせに。
いちばん、核心を、突いてくる。
◇
「……森本くん」五百旗頭が、震える声で、言った。「わかりました。……いえ、まだ、途中ですが。式の、形が、見えました」
「なんだ?」
「わたしたちが、解くべき、問題は」五百旗頭は、言った。「『誰が、なりすましたか』では、ありません。……『なぜ、全員が、無関係な人を、森本くんだと、思い込んだか』です」
「……ああ」
「そして、それは」五百旗頭は、目を、細めた。「偶然では、ありえない。四十七件。全員が、同じ、思い込みを、する。……そんな、確率は、限りなく、ゼロに、近い」
「じゃあ」
「ええ」五百旗頭は、頷いた。探偵の、目で。
「――誰かが。人を、そう、思い込ませる、仕掛けを。……作ったんです」
犯人は。
なりすまして、いない。
記憶も、操作して、いない。
ただ。
人が、勝手に、思い込むように。
仕掛けを、作った。
……いったい。
どうやって?
(第11話 了)




