第10話 不破、容疑者になる
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第10話 不破、容疑者になる
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事件が、行き詰まると。
人は。
犯人を、探し始める。
……それも、いちばん、手軽な、方法で。
◇
その、噂を、最初に、聞いたのは。
昼休みの、廊下だった。
「ねえ、聞いた? 森本君の、事件」
「うん。なんか、気持ち悪いよね」
「犯人、不破君じゃ、ないかって」
……は?
俺は、思わず、足を、止めた。
「え、なんで、不破君?」
「だって、森本君と、背格好、似てるじゃん。遠目なら、間違えるって」
「あー、たしかに」
「それに、不破君。前に、森本君と、揉めてたらしいよ」
「え、そうなの?」
「うん。廊下で、怒鳴ってた、って。……なんか、恨みが、あるんじゃない?」
……おい。
待て。
それ。
不破が、俺に、突っかかってきた、あれ、だろ。
いつもの、じゃれ合いだ。
恨みなんか、じゃ、ない。
◇
でも。
噂は。
その日のうちに。学校中に、広がった。
「不破が、犯人らしい」
「あいつ、目立つし。前から、なんか、鼻に、つく」
「イケメンだからって、調子に、乗ってたし」
「森本に、嫉妬して、嫌がらせしてる、って」
……ひどい。
何ひとつ、証拠が、ない。
なのに。
一日で。
不破は、「犯人」に、されて、いた。
◇
放課後。図書室。
俺は、五百旗頭に、詰め寄った。
「五百旗頭。お前、不破のこと、疑ってたよな」
「……ええ」五百旗頭は、気まずそうに、頷いた。「可能性の、ひとつとして」
「その話。誰かに、したか?」
「……いえ。誰にも」五百旗頭は、首を、振った。「わたしは、証拠のない、推測を。他人に、話したり、しません」
「じゃあ、なんで、学校中が、不破を、疑ってるんだ」
「……わかりません」五百旗頭も、困惑して、いた。「わたしの、推理が、漏れた、わけでは、ない。……なのに、噂だけが、勝手に」
と。
そのとき。
図書室の、扉が。
乱暴に。
開いた。
◇
「――おい、モブ!」
不破だった。
顔が、真っ赤で。息が、荒い。
「不破」
「貴様、俺を、犯人だと、言いふらしたな!」
「言ってない」
「嘘だ! 学校中の、人間が、俺を、見て。ひそひそ、話す! 『あいつが、犯人だ』と!」不破は、拳を、握りしめた。「俺は、何も、していない! なのに、なぜ――」
不破の、声が。
途中で。
震えた。
いつもの、傲慢な、イケメンが。
追い詰められた、顔を、して、いた。
「……森本」不破は、絞り出すように、言った。「頼む。……俺じゃ、ないと。言ってくれ」
……ああ。
こいつ。
本当に。
参ってるんだ。
◇
「不破」俺は、言った。「お前じゃ、ない」
「……」
「俺は、知ってる。お前は、そういう、ことを、するやつじゃ、ない」俺は、続けた。「こそこそ、噂を、流して。裏で、人を、陥れる。……そんなの、お前の、やり方じゃ、ないだろ」
「……」
「お前は、正面から、来るやつだ」俺は、言った。「腕相撲でも、勉強でも。負けたら、悔しがって、また、挑んでくる。……そういう、面倒くさい、やつだ」
「……それ、褒めてるのか」
「褒めてる」
不破は。
しばらく、黙って。
それから。
ふっ、と。肩の力を、抜いた。
「……ふん。モブのくせに。生意気だ」
「うるさい」
◇
「でも、なんで」不破は、力なく、言った。「なんで、俺なんだ。……俺は、何も、していないのに」
「それは」
五百旗頭が。
静かに、言った。
「あなたが。……目立つから、です」
「目立つ?」
「ええ」五百旗頭は、言った。「あなたは、顔が、いい。成績も、運動も、上位。目立つ。……そして、人は、目立つ人を、覚えている」
「それが、なんだ」
「事件が、起きた。犯人は、わからない。……そのとき、人は、どうするか」五百旗頭は、言った。「『いちばん、それらしい人』を、思い浮かべるんです。……証拠じゃ、なくて。印象で」
……印象で。
「あなたは、印象だけで、犯人に、されました」五百旗頭は、言った。「証拠は、ゼロです。それでも、みんな、信じている」
……あれ。
待てよ。
それって。
なんか。
聞いた、ことが、ある、話じゃ、ないか?
◇
俺の、頭の中で。
何かが。
かちり、と、鳴った。
印象だけで。犯人に、される、不破。
印象だけで。モテ男に、される、俺。
印象だけで。「森本を見た」と、証言する、みんな。
全部。
同じ、じゃ、ないか。
誰も。
事実なんて。
見て、いない。
みんな。
「それらしい」ものを、見て。
「そうだ」と、思い込んで、いる。
……なら。
もし。
もし、だ。
「昨日の、森本」を、見た、っていう、あの、証言も。
なりすましでも。記憶操作でも、なくて。
――ただ、みんなが。
「それらしい誰か」を、見て。
「森本だ」と、思い込んだ、だけ、だとしたら?
「……五百旗頭」
俺は、言った。
声が。
少し、震えて、いた。
「なんですか」
「……たぶん、俺。……わかった、かもしれない」
五百旗頭が。
顔を、上げた。
その、目が。
大きく、見開かれて、いた。
(第10話 了)




