第6話 なりすまし説
====================
第6話 なりすまし説
====================
まず、俺が、やったことは。
いちばん、怪しい、やつを。問い詰める、ことだった。
「――おい、湊」
翌日。俺は、図書室に、来た、湊ミライを。
まっすぐ、指さした。
「お前、だろ」
「へ?」ミライは、きょとん、と、した。「なにが」
「この、噂。証言。……全部、お前が、仕組んでるんだろ」俺は、言った。「お前、最初から、変だった。『噂は、簡単に広がる』とか。『誰も、お前を見てない』とか。……全部、知ってる、みたいな、口ぶりだった」
ミライは。
しばらく、俺を、見て。
それから。
はあ、と、ため息を、ついた。
◇
「森本。あんた、ばか?」
「ばかって、言うな」
「いい? よく、聞いて」ミライは、指を、立てた。「たしかに、わたしは、この事件の、『からくり』を、知ってる。……それは、認める」
「じゃあ!」
「でも、わたしは。噂を、流してない。証言を、仕組んでも、いない」ミライは、はっきり、言った。「わたしが、やったこと。ゼロ。……疑うなら、調べれば? わたしの、行動」
「……」
「わたしはね」ミライは、少し、遠い目を、した。「ただ、『知ってる』だけ。……こういうことが、どうやって、起こるか。昔、身をもって、経験したから」
「経験?」
「さあ?」
――出た。
その、はぐらかし。
「教えて、くれよ」俺は、言った。「知ってるなら。からくり」
「やだ」ミライは、にっ、と、笑った。「だって。……自分で、気づいたほうが。面白いでしょ?」
こいつ。
ほんと。
性格、悪いな。
でも――なぜか。
嘘を、ついてる、ようには。見えなかった。
◇
「……森本くん」
やりとりを、見ていた、五百旗頭が、言った。
「ミライの言うこと、たぶん、本当です」
「なんで、わかるんだ」
「昨日、調べました」五百旗頭は、メモを、見せた。「ミライの、行動を。……証言に、出てくる、『昨日の森本』の、目撃時刻。その全部の、時間に。ミライには、別の、アリバイが、あります。授業。部活の、見学。教室での、目撃証言」
「アリバイ、か」
「ええ。ミライを、変数に、代入しても。式は、成立しません」五百旗頭は、言った。「彼女は、解じゃ、ない」
……そうか。
じゃあ、ミライは。
シロ、なのか。
一番、怪しかったのに。
「まあ、そういうこと」ミライは、肩を、すくめた。「わたしは、ただの、観客。……面白い、事件を、見に来てる、だけ」
その、言い方が。
妙に。
引っかかった。
◇
「――で、本題です」五百旗頭が、話を、戻した。「なりすまし説を、検証しました。結果から、言うと」
「言うと?」
「行き詰まりました」
五百旗頭は、悔しそうに、言った。
「背理法で、攻めたんです。『なりすまし犯が、いる』と、仮定して。矛盾を、探した。……同じ時刻に、二か所で、目撃されていれば。犯人は、一人じゃ、証言を、こなせない。矛盾が、出る。そこから、崩せる、はずでした」
「出なかったのか。矛盾」
「出ないんです」五百旗頭は、首を、振った。「目撃時刻は、全部、バラバラ。重ならない。一人の人間が、動き回れば。……全部、こなせる、範囲なんです。矛盾が、ゼロ。だから――背理法が、使えない」
「じゃあ、なりすまし犯は、実在する、ってことか?」
「わかりません……いえ」五百旗頭は、言い直した。「現時点では、解なし、です」
◇
「でも」五百旗頭は、続けた。「気になる、証言が、ひとつ」
「なんだ」
「複数の、目撃者が。『昨日の森本』の、特徴を、こう、言うんです」五百旗頭は、メモを、読んだ。「『黒髪』『制服』『中背』『遠目で、よくは、見えなかったけど』『たしか、森本君だった』」
「……」
「気づきましたか」五百旗頭は、俺を、見た。「誰一人。……はっきり、顔を、見て、いません」
ぞくり、と、した。
「みんな、『たぶん、森本』『森本だと、思う』『よく、見てないけど、森本』……」五百旗頭は、言った。「断定してる、人が。一人も、いない」
「じゃあ、なりすまし犯は。……顔を、隠してる、のか?」
「その、可能性も、あります」五百旗頭は、頷いた。「でも、もし、そうなら。犯人は、なぜ、そこまでして。あなたに、なりすます、必要が?」
また、その、疑問だ。
なんで、俺、なんだ。
俺じゃ、なくても、成立する、のに。
◇
と。
そのとき。
図書室に、入ってきたのが。
不破楓也、だった。
「よう、モブ」
「不破」
相変わらず、いけすかない、イケメン、だ。……1巻で、失恋して、丸くなった、と、思ったけど。口の悪さは、変わってない。
「聞いたぞ。お前、また、面倒ごとに、巻き込まれてるんだって?」不破は、鼻で、笑った。「証言が、どうこう、って」
「なんで、お前が、知ってる」
「学校中の、噂だ。知らないほうが、おかしい」
……と。
そこで。
五百旗頭が。
じっ、と。不破を、見た。
「……不破くん」
「なんだ」
「あなた。昨日の、放課後。どこに、いましたか」
「は?」
五百旗頭の、目が。
探偵の、目に、なっていた。
◇
「……なあ、五百旗頭」俺は、小声で、言った。「まさか、不破を、疑ってるのか?」
「可能性の、ひとつです」五百旗頭は、小声で、返した。「考えてみてください。不破くんは、あなたと、背格好が、近い。黒髪。中背。……遠目なら、見間違える、かも」
「いや、でも、不破は、あんな、目立つ、イケメンだぞ。俺と、間違えるか?」
「遠目で。逆光で。後ろ姿で。……人は、案外、印象で、判断します」五百旗頭は、言った。「それに、不破くんには。あなたを、陥れる、動機も……」
「――おい」
不破が。
俺たちの、ひそひそ話を。
聞いて、いた。
「今、俺を、疑ったな?」不破の、こめかみに、青筋が、浮かんだ。「俺が、そんな、こそこそした、なりすましなんか、するか! だいたい、俺が、モブに、なりすます、メリットが、どこにある!」
「いや、それは、そうなんだけど」俺は、言った。
「森本! 貴様も、何とか言え!」
「不破は、やってないと、思うぞ」俺は、あっさり、言った。「こいつ、こそこそするの、苦手だし。やるなら、正面から、殴りに来る、タイプだ」
「……それ、褒めてるのか?」
「褒めてる、褒めてる」
◇
でも。
その、やりとりを、見ていて。
俺は。
ふと、思った。
五百旗頭は、不破を、疑った。
なんで?
背格好が、似てるから。目立つから。動機が、ありそうだから。
……全部。
「印象」、だ。
誰も、不破が、やった、証拠なんて、持ってない。
ただ、「怪しそう」ってだけで。
疑われてる。
……あれ。
なんか。
それって。
今、学校中で、起きてる、ことと。
同じ、じゃ、ないか?
みんな、「印象」で。俺を、モテ男だと、思って。
「印象」で、不破を、犯人だと、思って。
誰も。
事実なんか。
見て、ない。
その、考えが。
頭の、隅で。
かちり、と。
何かに、引っかかった、気が、した。
でも――まだ。
それが、何なのかは。
わからなかった。
(第6話 了)




