第4.5話 アガサみたいで、かわいい
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第4.5話 アガサみたいで、かわいい
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事件だ、なんだと、五百旗頭は、息巻いていたけど。
それはそれ、これはこれ。
人間、四六時中、推理ばかりは、していられない。
だから、その日の、放課後も。
俺は、いつも通り、図書室で。漫画を、読んでいた。
……そして、気づいた。
御手洗の、様子が。
いつにも、増して。おかしい、ことに。
◇
御手洗澪は。
本棚の、前で。
じーっ。
と。
一冊の、本を。
睨んで、いた。
微動だに、せず。
何分も。
「……御手洗?」俺は、声を、かけた。「何、してんだ」
「しっ」
御手洗は、俺を、手で、制した。
「今、いいところ、なの」
「いいところ?」
「この本が。……逃げるか、どうか」
「本は、逃げない」
「わからないわよ」御手洗は、真剣な顔で、言った。「昨日、この本を、戻したとき。背表紙が、一ミリ、ずれたの。……誰かが、動かした、証拠だわ」
「お前が、ずらしたんだろ」
「わたしじゃ、ないわ」
御手洗は、そう言って。
そーっ、と。
本に、手を、伸ばし。
びくっ。
と、手を、引っ込めた。
「……今、動いた」
「動いてない」
……こいつ。
相変わらず、何を、考えてるのか。
さっぱり、わからん。
◇
それから、しばらく。
御手洗は、図書室の、あちこちで。
意味不明の、行動を、続けた。
窓際で、日向ぼっこを、するみたいに、目を、細めたり。
誰も、いない方向を、じーっ、と、見つめたり。
かと、思えば。急に、トトト、と、小走りで、本棚の、陰に、隠れたり。
「……御手洗さん、今日、特に変ね」
通りかかった、五百旗頭も、首を、かしげていた。
でも。
俺は。
その様子を、見ているうちに。
だんだん。
……なんか。
むずむず、してきた。
◇
だって。
そうだろ。
日向で、目を、細めて。
意味もなく、小走りで、隠れて。
誰もいない、方向を、じっと、見て。
それ。
完全に。
猫の、動きなんだよ。
俺は。
昔、猫を、飼っていた。
アガサ、っていう、名前の、三毛猫だ。
気まぐれで。急に、走り出して。日向で、寝て。誰も、いない、方向を、じっと、見て。
……御手洗の、動きが。
そのアガサに。
あまりにも。
そっくり、なんだ。
「――あー、もう」
気づいたら。
俺は。
御手洗の、頭に。
手を、伸ばして、いた。
◇
わしゃわしゃ。
「……ふぇ?」
御手洗が。
きょとん、と、した。
でも、俺は、止まらなかった。
わしゃわしゃ、わしゃわしゃ。
「アガサみたいで、かわいいなー、お前」俺は、デレデレ、しながら、言った。「よしよし。ほんと、猫みたいだなー。よーしよし」
「あ、アガサ?」
「昔、飼ってた、猫。お前、そっくりなんだよ、動きが。……よーしよし、いい子いい子」
「ちょ、ちょっと」御手洗の、顔が、みるみる、赤く、なった。「な、なれなれしい、わよ! やめ……やめなさい!」
「よしよしよし」
「ふにゃっ……や、やめ……!」
……あ。
やば。
なんか。
めちゃくちゃ、かわいい。
◇
「――うわっ」
と。
背後から。
心底、引いた、声が、した。
湊ミライだった。
入り口で。
ドン引きの、顔で。
俺を、見て、いた。
「な、なにこれ……森本、あんた……」ミライは、後ずさり、した。「うわっ……きもちわる……」
「き、キモくねえよ!」
「キモいって! めっちゃ、キモいって!」ミライは、鳥肌を、さすった。「女子の、頭、いきなり、撫でて。『よしよし』って。『かわいいなー』って。……うわ、思い出しても、無理。鳥肌」
「違う! これは、猫で! アガサで!」
「アガサって、誰!」
「猫! 昔飼ってた!」
「余計、こわいわ!」ミライは、叫んだ。「女子を、猫だと思って、撫でてる、男子とか! いちばん、やばいやつじゃん!」
「うっ……」
「言っとくけどね、森本」ミライは、腰に、手を、当てて。びしっ、と、俺を、指さした。「これ、一般社会なら。完全に、セクハラで、アウトだからね? 訴えられても、文句、言えないやつ」
「そ、そんな、大げさな」
「大げさじゃ、ないよ」ミライは、じとーっ、と、した。「まあ、今回は。……御手洗さんが、いいって、言ってるみたいだから。特別に、見逃して、あげるけどー?」
「――み、見逃すも、何も!」
御手洗が、真っ赤な顔で、割り込んできた。
「わ、わたしのことは! わたしが、決めるの! 湊さんに、見逃してもらう、いわれは、ないわ!」
「はいはい」ミライは、にやにや、した。「で? 御手洗さんは、撫でられて。……嫌だったの? 嫌じゃ、なかったの?」
「そ、それは……」
御手洗は。
言葉に、詰まって。
さらに、赤く、なった。
……なんで、みんな。
俺を、置いて。
勝手に、盛り上がってるんだ。
……言われて、みれば。
客観的に、見たら。
女子の頭を、いきなり、撫でて、デレデレしてる、俺は。
完全に。
不審者、だった。
◇
「……はっ」
我に返って。
俺は、手を、引っ込めた。
「わ、悪い、御手洗。つい」
「……」
御手洗は。
真っ赤な顔で。
うつむいて。
……何も、言わなかった。
あれ。
怒った、か?
いつもなら、「なれなれしい!」って、キレるのに。
「御手洗?」
「……別に」御手洗は、ぼそっ、と、言った。「……嫌じゃ、なかったから。……いいの」
「え?」
「な、なんでもない!」御手洗は、真っ赤な顔で、立ち上がって。「わ、わたし、資料、探してくる!」
ぱたぱた、と。
逃げて、いった。
その、後ろ姿は。
やっぱり、どこか。
猫みたいで。
……ちょっと、かわいかった。
「……ねえ、森本」
ミライが、じとーっ、と、俺を、見て、言った。
「あんた。……ほんと、罪な男だね」
「なんでだよ」
「わっかんないなら、いい」ミライは、ため息を、ついた。「はー。……こりゃ、噂が、立つわけだ」
ぼそっ、と。
そう、つぶやいた、のは。
俺には。
聞こえ、なかった。
(第4.5話 了)




