第4話 これは、事件です
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第4話 これは、事件です
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噂が、流れ始めて。
一週間が、経った。
相変わらず、俺は、学校中で、「モテ男」扱い、だった。
もう、否定するのも、疲れた。
何を、言っても、「照れ隠し」に、変換される、んだから。
……でも。
その日。
五百旗頭が。
いつもとは、違う、顔を、していた。
探偵の、顔を。
◇
「森本くん。ちょっと、いいですか」
放課後。図書室。五百旗頭は、テーブルに、一枚の、紙を、広げた。
びっしりと、何かが、書き込まれた、紙を。
「なんだ、これ」
「この一週間の、噂を、全部、整理しました」五百旗頭は、言った。「誰が、いつ、どんな噂を、口にしたか。……聞き込んで、記録したんです」
「聞き込みって……お前、そんなこと、してたのか」
「暇でしたから」五百旗頭は、しれっと、言った。「第七役職の、調査が、行き詰まって。……退屈、だったんです。だから、この噂を、調べてみました。そうしたら」
五百旗頭の、目が。
きらり、と、光った。
「――おかしなことに、気づきました」
◇
「いいですか」五百旗頭は、紙を、指さした。「ふつう、噂には、『発生源』が、あります。誰かが、何かを、見た。聞いた。それが、広まる。……だから、たどれば、必ず、最初の一人に、行き着く」
「まあ、そうだな」
「でも、この噂は、違う」五百旗頭は、首を、振った。「わたしたちの噂を、口にした人、全員に、聞きました。『誰から、聞いたの?』って。……そうしたら」
「そうしたら?」
「全員が、こう、言うんです」五百旗頭は、言った。「『誰から、だったかな。……よく、覚えてない。でも、みんな、言ってるよ』」
……ん?
「たどれない、んです」五百旗頭は、続けた。「どこまで、さかのぼっても。『みんな、言ってる』で、止まる。……発生源が、ない。まるで、最初から、空気中に、存在していたみたいに」
ぞわ、と、した。
発生源が、ない、噂。
そんなこと、あるのか?
◇
「もうひとつ」五百旗頭は、別の、メモを、出した。「噂の、『内容』も、変です」
「内容?」
「わたしと、あなたが、付き合ってる。東海林さんと、幼馴染以上。御手洗さんと、いい感じ。……この、三つ」五百旗頭は、言った。「よく、見てください。全部、『あなた』が、中心です」
「まあ、俺の、噂だしな」
「そう。でも、ここが、変なんです」五百旗頭は、俺を、見た。「なぜ、あなた、なんですか?」
「……え?」
「あなた、失礼ですが。目立つ、タイプでは、ありません」五百旗頭は、はっきり、言った。「成績は、中。運動も、中。モテた、こともない。……ふつう、こういう、恋愛の噂は。もっと、目立つ人に、立つものです。たとえば、不破くん、みたいな」
「……ひでえ言われようだけど、まあ、その通りだな」
「なのに、噂は、あなたに、集中している」五百旗頭は、眉を、寄せた。「まるで――誰かが、意図的に。『あなた』を、選んで。噂を、流しているみたいに」
◇
しん、と、なった。
「……おい」俺は、言った。「それ、つまり」
「ええ」五百旗頭は、頷いた。低い声で。
「これは、自然に、発生した、噂じゃ、ありません」
五百旗頭は、言った。
「――誰かが、意図的に、流している。これは」
五百旗頭の、目が。
探偵の、目に、なっていた。
「事件、です」
◇
「事件、って」俺は、混乱した。「ただの、恋愛の噂、だぞ? 誰かが、面白がって、流してるだけ、じゃ」
「面白がって、流すなら。もっと、雑になります」五百旗頭は、言った。「でも、この噂は。異常なほど、統制が、取れている。発生源を、消して。標的を、あなたに、絞って。三つの、噂を、同時に、流す。……素人の、いたずらじゃ、ない」
「じゃあ、誰が」
「わかりません」五百旗頭は、首を、振った。「でも、目的は、あるはずです。……誰かが、何かの、目的で。あなたを、標的に、選んで。噂を、操作している」
俺は。
ぞくり、と、した。
平和だと、思っていた、日常。
くだらない、恋愛の噂だと、思っていた、あれが。
誰かの、仕掛けた。
「事件」、だった。
「……なあ、五百旗頭」俺は、言った。「なんで、俺なんだ? 俺を、標的にして、誰が、得するんだ?」
「それが、わかれば」五百旗頭は、言った。「犯人に、たどり着けます」
でも。
このときの、俺たちは。
まだ、気づいていなかった。
この噂が。
ただの、始まりに、すぎないことを。
そして、この事件の、本当の、恐ろしさが。
「噂」なんかじゃ、ないことを。
◇
図書室の、隅で。
湊ミライが。
本を、読む、ふりを、しながら。
こっそり、こっちを、見ていた。
五百旗頭が、「事件です」と、言った、瞬間。
ミライの、口の端が。
ほんの少し。
上がった、気が、した。
まるで――
「やっと、気づいたね」
とでも、言うように。
でも。
俺が、そっちを、見たときには。
ミライは、もう。
いつもの、退屈そうな、顔で。
本を、めくって、いた。
(第4話 了)




