第3話 モテ期、到来?
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第3話 モテ期、到来?
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湊ミライの、予言は。
見事に、当たった。
噂は。消えるどころか。
増えた。
「ねえ、聞いた? 森本くんの話」
「聞いた聞いた。五百旗頭さんと、でしょ?」
「え、違うよ。東海林さんと、幼馴染以上らしいよ」
「はあ!? わたし、御手洗さんと、仲いいって、聞いたけど」
「どれが、本当なの?」
「全部、本当なんじゃない?」
……おい。
待て。
なんで、俺、そんなことに、なってる。
◇
気づけば。
俺は、学校中で。
「モテ男」に、なっていた。
五百旗頭と、付き合ってる。
東海林と、幼馴染以上。
御手洗とも、なんかいい感じ。
三人の、美少女を、同時に、はべらせる。
とんでもない、ハーレム野郎。
それが。
噂の中の、森本基成、だった。
「……なんで、だよ」俺は、頭を、抱えた。「俺、モテた、ことなんて、一度も、ないぞ。中学まで、女子と、喋った記憶すら、ほぼ、ないぞ」
「森本」田口が、ふらふらと、近寄ってきた。目が、死んでいる。「お前……三股って、本当か」
「本当なわけ、あるか!」
「もう、いい」田口は、俺の、肩を、掴んだ。「俺は、お前を……許さないけど、応援する」
「どっちだよ」
「幸せに、なれよ……三人と……」
「なれるか!」
◇
放課後。図書室。
俺が、逃げ込むと。
そこには、もう。ヒロイン(噂上)勢ぞろい、だった。
五百旗頭は、真っ赤な顔で、本を、読むふりを、していた。
御手洗は、いつも通り、世界史の、資料を、めくっていた。
そして、東海林が。
竹刀袋を、抱えたまま。
窓辺で。
じーっ、と。
俺を、見て、いた。
……なんか。
いつもより。機嫌が、悪い、気がする。
「……森本」東海林が、ぽつり、と、言った。
「な、なんだよ、四季」
「……モテモテ、だね」
「いや、噂だけだって!」
「……ふーん」
東海林は、それだけ、言って。
ふい、と、窓の外を、向いた。
でも。
その、竹刀袋を、握る、手が。
いつもより、ちょっと、力が、入っている、気がした。
……なんだ?
怒ってる、のか?
なんで?
◇
「――ねえ、森本くん」
御手洗が、資料から、顔を、上げた。
きらきら、した、目で。
「わたしと、あなたも、いい感じ、なんですって?」
「いや、それも、噂だって」
「あら、残念」御手洗は、けろっと、して、言った。「でも、面白いわね。噂の中の、あなたは。まるで、ルイ十四世みたいだわ。太陽王。何人もの、寵姫を、はべらせて」
「たとえが、また、世界史……ってか、それ、褒めてないだろ」
「褒めてないわ」御手洗は、にっこり、笑った。「でも、応援は、してるの」
「応援?」
「ええ。あなたが、幸せなら、いいと、思うもの」御手洗は、こてん、と、首をかしげた。「五百旗頭さんでも、東海林さんでも。誰でも。……あなたが、選んだ人が、いちばん、いいわ」
……こいつ。
なんか。
妙に、いい、やつだな。
いや。
逆に。
全然、はりあう気、ないんかい。
「な、なんですか、御手洗さん!」五百旗頭が、突然、本を、閉じた。真っ赤な顔で。「そ、そういう、話じゃ、ないでしょう! そもそも、わたしと、森本くんは――」
「あら、五百旗頭さん」御手洗が、にやり、と、した。天然のくせに、こういうときだけ、鋭い。「なんで、あなたが、いちばん、必死なの?」
「なっ……!」
五百旗頭が。
言葉に、詰まって。
さらに、真っ赤に、なった。
◇
「――あっはっは!」
と。
入り口から、大笑いしながら。
湊ミライが、入ってきた。
「いやー、面白い、面白い。噂の、ハーレム王の、図書室は、ここですかー?」
「うるさい。お前、笑いに、来ただけか」
「うん」ミライは、あっさり、頷いた。「だって、面白いもん。……ねえ、森本。気づいてる?」
「何が」
「あんた、噂の中で。三人の、美少女に、モテてる、ことに、なってる」ミライは、指を、三本、立てた。「でもさ。……その三人。誰も、あんたに、『告白』されてないし、あんたも、誰にも、『告白』してない。デートも、してない。手も、つないでない」
「……そりゃ、そうだ。噂だし」
「なのに」ミライは、にやり、と、した。「学校中が、あんたを、『三股のモテ男』だと、信じてる。……変じゃない?」
……言われて、みれば。
そうだ。
何も、起きてない。
事実は、ゼロ。
なのに。
みんな、信じてる。
「事実なんて、いらないの」ミライは、言った。楽しそうに。でも、目だけは、笑ってなかった。「人は、事実を、見てない。……『こうだったら、面白いな』って、思ったことを。事実だと、思い込むの」
「……」
「森本、あんた」ミライは、俺の、顔を、のぞきこんだ。「今、学校中の人に。……ちゃんと、『見られてる』と、思う?」
「……どういう、意味だ」
「みんな、あんたを、見てるようで」ミライは、囁いた。「……本当は、誰も、あんたを、見てないんだよ」
ぞわり、と、した。
その言葉が。
なぜか、ただの、からかいには。
聞こえ、なかった。
◇
その夜。
俺は、ベッドで、ぼんやり、考えていた。
モテ男。三股。ハーレム王。
……全部、嘘だ。
俺は、何も、してない。
なのに、学校中が、信じてる。
五百旗頭は、真っ赤に、なってて。
御手洗は、応援、してて。
東海林は、なんか、怒ってて。
そして、ミライは。
やたら、意味ありげに、笑ってた。
「誰も、あんたを、見てない」。
あいつは、そう、言った。
……なんで、だろう。
平和な、はずの、日常が。
なんだか、少しずつ。
気持ち悪い、方向に。
ずれていく、気が、した。
でも。
このときは、まだ。
ただの、噂だと。
思っていた。
――これが、「事件」の、入り口だなんて。
思っても、みなかった。
(第3話 了)




