第2話 噂の、主役
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第2話 噂の、主役
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その朝。
教室に、入った、瞬間。
空気が、変わったのが、わかった。
クラスメイトが、俺を、見て。にやにや、して。ひそひそ、話す。
……なんだ?
顔に、なんか、ついてる、か?
「おはよう、森本」
前の席の、男子――田口が、俺を、見るなり。
ぐしゃっ、と、顔を、歪めた。
泣きそうな、顔で。
「……おはよう、じゃ、ねえよ」
「は?」
「森本」田口は、震える声で、言った。「お前……裏切ったな」
「裏切った? 何を」
「こっち側だと、思ってたのに」
田口の、周りに。
いつの間にか。同じような、顔をした、男子が、二、三人、集まってきた。
全員、目が、据わっている。
「森本」別の男子が、肩を、掴んできた。「五百旗頭さんと、付き合ってるって、本当か」
「は? 付き合ってねえよ」
「嘘つけ!」田口が、叫んだ。「お前、前に、言ってただろ! 五百旗頭さんが、気になる、って!」
「……言ったっけ」
「言った! 一年のとき! 『遠くから見てる、高嶺の花なんだ』って! 俺、聞いた!」田口の、目から、涙が、あふれた。「信じたく、なかったよ。でも……もう、お前は、あっち側なんだな」
「あっち側って、なんだよ」
「リア充側だよ!」
うわ。出た。
◇
「くそっ……」田口は、机に、突っ伏した。「ショックで、寝れねえ……ゆうべも、寝れなかった……」
「まだ噂、昨日からだろ。一晩じゃねえか」
「一晩でも、寝れねえもんは、寝れねえんだよ!」
「勝手に、思ってろ」俺は、げんなり、して、言った。「……でも、違うけど」
「違わないだろ!」男子たちが、口々に、叫んだ。「二人で、図書室、いたんだろ! 放課後! 二人きりで!」
「二人きりじゃ、ない! 御手洗も、いたし! 湊も――」
「ハーレムかよ!!」
「そうじゃねえ!」
……だめだ。
何を、言っても。
こいつら、聞いちゃ、いない。
自分たちの、見たい、物語を。勝手に、信じている。
◇
昼休み。
廊下で、五百旗頭と、鉢合わせた。
五百旗頭は、俺を、見るなり。
顔を、真っ赤に、して。
早足で、寄ってきた。
「も、森本くん!」
「五百旗頭。お前も、か」
「聞きましたか、あの噂! わたしたちが、その、つ、付き合ってるって!」
「聞いた。さっきから、否定しても、全然、通じない」
「わたしもです!」五百旗頭は、涙目に、なっていた。「クラスの、女子に、『いつから?』って、聞かれて。『違う』って、言ったら。『またまた〜』って!」
「それ、お前の、口癖な」
「わたしの、せいじゃ、ありません!」
……こいつ。
探偵のときは、あんなに、冷静なのに。
こういうの、めっぽう、弱いんだな。
◇
「落ち着け、五百旗頭」俺は、言った。「噂なんて、そのうち、消える。放っとけば、いい」
「……そう、でしょうか」
「そうだよ。だいたい、なんで、こんな噂、流れたんだ?」
「わかりません」五百旗頭は、少し、冷静さを、取り戻して。「でも……変です。噂の、広がり方が」
「広がり方?」
「ええ。ふつう、噂って。誰かが、見た、とか。聞いた、とか。きっかけが、あるでしょう」五百旗頭は、眉を、寄せた。「でも、今回。誰も、『いつ』『どこで』を、言わないんです。ただ、『付き合ってるらしい』とだけ。……まるで、最初から、結論だけが、あるみたいに」
……ふうん。
相変わらず、細かいところに、気づくやつだ。
でも、このときは。俺も、五百旗頭も。まだ、それを。ただの、噂だと。思っていた。
◇
放課後。図書室。
逃げ込むように、来た、俺たちを。
待っていたのは。
にやにや、した、湊ミライ、だった。
「よー、ご両人」
「うるさい」
「聞いたよー。付き合ってるんだって?」ミライは、けらけら、笑った。「やるじゃん、森本」
「付き合ってねえ!」
「またまた」
「だから、それ、五百旗頭の口癖だって!」
「ではでは」
「それも!」
……こいつら。
面白がって。
「――で、ミライ」五百旗頭が、キッ、と、ミライを、睨んだ。「あなた、何か、知っているのでは?」
「え?」
「この噂。あなたが、流したんじゃ、ないですか」
ミライは。
きょとん、と、して。
それから。
心外だ、という顔で、言った。
「まさか。……わたし、そんな、面倒なこと、しないよ」ミライは、肩を、すくめた。「でも」
「でも?」
「面白いね。この、噂」ミライは、目を、細めた。「だってさ。あんたたち、二人とも、『違う』って、言ってるのに。……誰も、信じてない、んでしょ?」
「……ああ」
「なんでだと、思う?」
俺は。
答えられ、なかった。
なんで、だろう。
事実は、「付き合ってない」。当人が、二人とも、そう、言ってる。
なのに。
誰も。
信じない。
◇
「教えて、あげよっか」ミライは、にやり、と、した。「人はね。……『事実』より、『噂』を、信じるの」
「噂を?」
「そう。だってさ。『付き合ってる』って、聞いたほうが。面白いでしょ?」ミライは、言った。「面白い話は、広まる。広まった話は、本当に、なる。……たとえ、それが、嘘でも」
……なんか。
こいつの、言い方。
妙に、実感が、こもってる、気がした。
「だから、森本」ミライは、立ち上がった。「否定すればするほど、無駄だよ。……この噂、しばらく、消えない。むしろ」
「むしろ?」
「もっと、増えると思う」
その、予言は。
数日後。
最悪の形で。
当たることに、なる。
(第2話 了)




