『恋愛推理ゲーム 2 ―きみを見ていたのは、誰?―』 第1話 第七役職のゆくえ
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『恋愛推理ゲーム 2 ―きみを見ていたのは、誰?―』
第1話 第七役職のゆくえ
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あの、長い、閉じ込めから。
数週間が、経った。
学校は、すっかり、いつも通りの、日常に、戻っていた。
あの、密室も。恋愛推理ゲームも。学校の、秘密の、伝統行事も。
まるで、全部、夢だったみたいに。
誰も、表立っては、口にしない。
……でも。
一枚だけ。
夢じゃ、なかった、証拠が。残っている。
◇
放課後。図書室。いつもの、漫画コーナー。
俺――森本基成は、一枚のカードを、テーブルに、置いた。
《第七役職》。
あのゲームの、あと。誰にも配られていなかった、七枚目の、カード。
「……で、五百旗頭。何か、わかったのか」
「いいえ」
向かいで、五百旗頭伊織が、宇宙の本から、顔を、上げた。
「何も。……この数週間、調べましたが。手がかりゼロです」ため息。「カードの、素材。印刷。書体。……どれも、市販のもの。指紋も、出ない。誰が、いつ、これを、紛れ込ませたのか。まったく、わかりません」
「行き詰まり、か」
「ではでは、正直に言うと」五百旗頭は、頬杖を、ついた。「わたし、ちょっと、飽きてきました」
「探偵が、それ言うなよ」
「だって、進まないんですもの」
◇
「――何、二人で、こそこそ、してるの」
声が、して。
御手洗澪が、世界史の、資料を、抱えて、やってきた。今日の、私服は、蛍光ピンク。相変わらず、網膜に、痛い。
「例のカードだよ」俺は、言った。「進展、なし」
「あら。……まるで、ロゼッタストーンが、見つかる前の、エジプト学ね」
「出た」
「出た、じゃ、ないの」
「たとえが、世界史なんだよ、やっぱり」
「わかりやすいでしょう」
「わかりにくいって」
……なんか。
この、やりとりも。すっかり、板についてきた。
あの、ゲームのあと。俺たちは、なんだかんだ、また、この図書室に、集まるように、なっていた。
五百旗頭は、宇宙の本を、読みに。御手洗は、世界史の、資料を、めくりに。俺は、漫画を、読みに。
相性最悪だと、思っていた、面子が。今じゃ、放課後の、定位置みたいに、なっている。
人生、わからないもんだ。
◇
「……森本」
窓辺から、東海林四季が、ぽつり、と、言った。剣道部の、練習前。竹刀袋を、肩に、かけて。
「なんだよ、四季」
「……そのカード」
「ん?」
「……あんまり、深入り、するな」
「なんで」
「……勘」
東海林は、それだけ言って、また、黙った。
……こいつの、「勘」は。だいたい、当たる。
一年、いや、保育園から、幼馴染だ。表情は、乏しいし。無口だし。キレると、怖いけど。
なんだかんだ、俺のことを。いちばん、見ている、やつ、だと思う。
「わかったよ。ほどほどに、する」
「……ん」
東海林は、少しだけ、頷いて。練習に、行った。
◇
「――やっほー」
と。
入り口から、ひょこっ、と。
小柄で、目の大きい、女子が、顔を、出した。
湊ミライ。
あの、ゲームの、七人目。御手洗に、そっくりで。でも、口の悪い。……隣の、クラスの、女子。
「げ。湊」俺は、顔を、しかめた。
「げ、って何。ひっどいなー」ミライは、けらけら、笑いながら、入ってきた。「せっかく、遊びに、来たのに」
「お前、二年三組、だろ。なんで、いつも、こっちに、いんだよ」
「いいじゃん、別に。……あ、それ」ミライは、テーブルの、カードを、目ざとく、見つけた。「まだ、調べてたんだ。第七役職」
「知ってるんだろ、お前」俺は、じとっ、と、睨んだ。「なんか。知ってる、顔してる」
「さあ?」
――出た。
その、はぐらかし。
「まあまあ」ミライは、勝手に、俺の隣に、座った。「そのうち、わかるって。……それより、森本。あんたさ」
「なんだよ」
「最近、五百旗頭さんと、仲いいよね」
「……は?」
◇
ぴく、と。
五百旗頭の、肩が、揺れた。
「な、なにを、いきなり」五百旗頭が、本で、顔を、半分、隠した。「わたしと、森本くんは。ただ、カードを、一緒に、調べているだけで」
「ふーん」ミライは、にやにや、した。「一緒に、ねえ」
「そういう、意味じゃ、ありません!」
「べっつにー。なにも、言ってないけど?」
……こいつ。
相変わらず、人を、からかうのだけは、天才だ。
「湊」俺は、言った。「変なこと、言うな。誤解される、だろ」
「誤解?」ミライは、こてん、と、首をかしげた。御手洗と、同じ、仕草で。「誤解って、なに。付き合ってない、のに、付き合ってるって、思われること?」
「そうだよ」
「ふーん」ミライは、にやり、と、笑った。「でも、それって。案外、簡単に、起こるんだよ。……誤解って」
その、笑い方が。
なんだか、少しだけ。
いつもの、からかいとは。違って、見えた。
まるで――何か、知っている、みたいに。
◇
でも。
そのときの、俺は。
深く、考えなかった。
だって。平和だったから。
事件も、ゲームも、終わって。図書室で、くだらない話をして。東海林が、部活に、行って。御手洗が、世界史の、たとえを、して。五百旗頭が、赤く、なって。ミライが、からかって。
そういう、日常が。ただ、続くんだと。思っていた。
――でも。
この、数日後。
学校中に。
ひとつの、噂が、流れ始める。
「森本と、五百旗頭が、付き合っている」。
たった、それだけの、噂が。
やがて。
誰にも、止められない、事件へと。
変わっていくことを。
このときの、俺は。
まだ、何も、知らなかった。
(第1話 了)




