特別編・後編(第20.6話) 湊ミライは、口が悪い
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特別編・後編(第20.6話) 湊ミライは、口が悪い
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(※第1巻・本編後の、巻末特別編です)
通学路の、途中に。小さな、公園が、ある。
なんの、流れか。俺と、湊ミライは、そこの、ベンチに、腰を、下ろして、いた。
帰る、はずだったのに。
なぜか、こいつの、ペースに、巻き込まれて。
缶ジュースまで、奢らされて。……いや、奢らされたのは、俺のほう、なんだけど。
「んー、うまっ」ミライは、俺の、奢った、ジュースを、ぐびぐび、飲んだ。「あんた、話しやすいわ。なんか」
「そうかよ」
「うん。……ってか、あんたさ」
ミライが。
じとっ、と、俺を、見た。
やたら、意地の悪い、目で。
「なに? もしかして、五百旗頭のこと、好きなの?」
◇
「――は?」
俺は、ジュースを、噴き出しそうに、なった。
「なに、言ってんだ、いきなり」
「だってー」ミライは、けらけら、笑った。「昔っから、いおきべのこと、ずーっと、見てたでしょ。……なに? 好きなの?」
「……なんで、知ってんだよ」
「あ、否定、しないんだ」
「いや、まあ。……憧れてた、けど。それだけで」俺は、口ごもった。「てか、なんで、お前が、そんなこと、知ってんだよ」
「やっぱ、好きなんじゃん」ミライは、勝ち誇った。「あのねー。いおきべって、ちょっと、可愛いでしょ。だから、男子から、けっこう、羨望の、まなざし、向けられてんの。本人、全然、気づいてないけど」
「……へえ」
「で、わたし、その、見つめてる、男子どもを。『きっしょ』って、思いながら、観察してたわけ」ミライは、にやり、と、した。「そしたら、その、視線の、先に。……あんたが、いたんだよね。森本」
……うぐ。
「ち、違うって」
「違わないでしょ」
「……違わないけど」
「いくら、お年頃だからってさ」ミライは、あきれた顔で、言った。「女子のこと、じーっと、見つめてたら。……気持ち悪いよ」
「うっせーな!」
◇
「だいたい、あんた」ミライは、缶を、ぶらぶら、させながら、言った。「五百旗頭には、もったいないくらいの、幼馴染、いるじゃん。東海林さん」
「あいつとは、そういうんじゃ、ねーよ」
「またまた」ミライは、五百旗頭の、口癖を、真似た。「あの子、絶対、あんたのこと、好きでしょ。見てれば、わかるって。……鈍感、なのは、あんただけ」
「そういうんじゃ、ないっつーの」
「ふーん。……あ、わかった」ミライは、ぽん、と、手を、打った。「もしかして、あんた。もう一人の、御手洗さんまで、狙ってたり、して」
「違うよ!」
「えー、ほんとにー?」
「……いや。御手洗は。……可愛いとは、思うけど」
「うっわ」ミライは、露骨に、顔を、しかめた。「なに、御手洗も、好きなの? 森本って……やらしい」
「やらしくねえよ!」
……こいつ。
言いたい、放題、言いやがって。
丁寧語で、日本史の、たとえ、してた、あの、猫かぶりは。
どこ、いったんだ。
◇
「だいたい」俺は、反撃を、試みた。「お前だって、どうなんだよ」
「わたし?」
「そうだよ。……もしかして。イケメンの、不破とか。好きだったり、するんじゃ、ねーの? お前、いかにも、イケメン好き、そうだもんな」
我ながら、下手くそな、反撃だ。
でも。
ミライは。
一瞬、きょとん、として。
それから。
にやーっ、と。
これ以上ない、くらい、意地の悪い、顔に、なった。
「……へえ。そういうこと、言っちゃう、んだ」
「な、なんだよ」
「あーあ。言っちゃった。……じゃあ、わたし、いおきべさんに、言っちゃおーっと」ミライは、スマホを、取り出す、ふりを、した。「『森本が、あなたのこと、好きだって』」
「――は!? やめろ!」
「なんでー? 事実でしょ?」
「事実じゃ……いや、事実かも、しれないけど! やめろって!」
「あははっ! 焦ってる、焦ってる!」ミライは、腹を、抱えて、笑った。「っていうかさ。あんた、ほんとは。……自分で、言いたいんでしょ? いおきべに」
「……は?」
「でも、言えない。……面倒くさい、とか、言って。逃げてる。だから」ミライは、にやり、と、した。「わたしに、言ってほしいんでしょ。……代わりに」
……こいつ。
なんで。
そういう、ところだけ。
鋭いんだ。
◇
「……ほんと、まじで、やめろよ」俺は、げんなり、して、言った。
「言わないよ」ミライは、けろっと、して、言った。「面倒くさいもん」
「……お前も、面倒くさいのかよ」
「あんたと、一緒。……ここで、聞いて、からかうのが、いちばん、楽しいの」ミライは、ジュースを、飲み干した。「わざわざ、告げ口とか。しないって。だるいし」
「……そうかよ」
俺は、ほっと、した。
と、同時に。
なんか。
力が、抜けた。
……こいつ。
口は、悪いし。ぐいぐい、来るし。人の、痛いところ、ばっかり、突いてくるけど。
なんか。
悪い、やつじゃ。
……ないのかも、しれない。
いや。
悪い、やつだな。うん。口は。
◇
「じゃ、わたし、こっちだから」
公園を、出た、ところで。ミライは、そう、言った。
「おう」
「森本」
「なんだよ」
ミライは。
少しだけ。
振り返って。
いつもの、意地の悪い、笑みじゃ、なくて。
ほんの少し、真面目な、顔で、言った。
「……あのカード。第七役職。ちゃんと、追いなよ」
「……お前」
「わたしは、たぶん」ミライは、言った。「そのうち、また、あんたたちの、前に、出てくる。……敵か、味方かは。わかんないけど」
「敵か、味方か、って」
「さあ?」ミライは、にっ、と、笑った。「そのときの、気分、かな」
そして。
ミライは。
ひらひら、と、手を、振って。
夕暮れの、道を。
歩いて、いった。
その、後ろ姿は。
やっぱり。
御手洗に、そっくりで。
でも。
御手洗とは、まったく、違う、何かを。
背負って、いる、気が、した。
◇
その、夜。
俺の、スマホに。
知らない、番号から。
一通の、メッセージが、届いた。
《今日は、ごちそうさま。またね、森本》
《P.S. いおきべさんへの、告白、応援してるよ(笑)》
「……なんで、俺の、連絡先、知ってんだよ」
俺は。
思わず。
声に、出して、しまった。
……ほんと。
底の、知れない、やつだ。
でも。
その、メッセージを。
消す気には。
なぜか、ならなかった。
――湊ミライ。
隣の、クラスの。口の悪い、七人目。
こいつが、これから。
俺たちの、物語に。
どう、絡んでくるのか。
まだ、何も、わからない。
でも。
ひとつだけ。
確かなことが、あった。
……退屈は。
しなさそうだ。
(特別編・後編 了)
(――第1巻+特別編・完。第2巻へ、つづく)




