最終話 第七役職
====================
最終話 第七役職
====================
一週間が、経った。
あの、長い、閉じ込めが。まるで、嘘みたいに。
学校は、いつも通りの、日常に、戻って、いた。
チャイムが、鳴って。授業が、あって。給食が、出て。放課後に、なる。
誰も。あの、ゲームのことを。表立っては、口にしない。
……でも。
俺たちは。
もう、前と、同じには。戻れなかった。
◇
放課後。
図書室。いつもの、漫画コーナー。
俺は、歴史漫画を、読んで、いた。
隣で、五百旗頭が、宇宙の、本を、読んで、いた。
少し、離れた、ところで。御手洗が、世界史の、資料を、めくって、いて。東海林が、窓辺で、ぼんやり、して、いた。
日下部は、たまに、顔を、出しては、「やあ」と、笑って、どこかへ、消える。
不破は――なぜか、最近。突っかかって、こなく、なった。ただ、遠くから、東海林を、見て。それから、ふい、と、目を、そらす。
みんな。
なんだかんだ。
また、この、図書室に。集まって、いた。
◇
「森本くん」
五百旗頭が、本から、顔を、上げた。
「なんだよ」
「ひとつ、聞いても?」
「なんだよ、あらたまって」
「あのとき」五百旗頭は、少し、頬を、赤くして、言った。「ゲームの、最後のほう。あなた、わたしに、言いましたよね。……『今の、お前のほうが、いい』って」
……うっ。
覚えてた、のか。そんな、こと。
「あれ」五百旗頭は、上目遣いに、俺を、見た。「……役割、でしたか。それとも」
「……」
「本心、でしたか」
――ずるい、聞き方だ。
このゲームで、俺たちは、学んだ。言葉は、証明できない。「本心」って、言ったところで。それが、本当か、なんて。誰にも、わからない。
だから。
俺は。
頭を、かいて。
こう、言った。
「……あのとき、言ったこと、な」
「はい」
「……」
「……」
「……いや。やっぱ、いい」
「――ええっ!?」五百旗頭が、目を、丸くした。「そこで、やめるんですか!? いちばん、気になる、ところで!」
「気になるなら」俺は、漫画に、目を、戻した。「自分で、推理しろよ。探偵だろ、お前」
五百旗頭は。
しばらく、ぷんぷん、して、いたが。
やがて。
ふ、と。
笑った。
「……ではでは。いいでしょう」五百旗頭は、言った。「森本くんの、本心。……この、五百旗頭 伊織が。いつか、必ず、推理して、みせます」
「せいぜい、がんばれよ」
「ふふ。……楽しみに、していて、ください」
……なんか。
やぶ蛇だった、かも、しれない。
◇
東海林が、窓辺から。
こっちを、見て、いた。
いつもの、無表情で。
でも。
その目が。「ふうん」と、言って、いる気が、した。
「……四季」俺は、声を、かけた。「なんだよ、その目」
「……別に」
「なんか、言いたげ、だろ」
「……森本は」東海林は、ぽつり、と、言った。「……ほんと、鈍い」
「鈍い?」
「……いい。一生、気づかなくて」
東海林は、ふい、と、窓の、外を、向いた。
でも。
その、耳が。
ほんの少し。
赤かった、気が、した。
……わからん。
女子ってのは。本当に、わからん。
◇
「――ねえ」
と。
御手洗が、突然、声を、上げた。世界史の、資料から、顔を、上げて。
「わたし、ずっと、考えて、いたのだけれど」
「なんだよ」
「湊ミライさん。……あの子、結局、なんだったのかしら」
その、名前に。
全員が、少し、静かに、なった。
湊ミライ。
七人目。
御手洗に、そっくりで。どこからか、紛れ込んで。そして、あの日、人波に、消えた、女の子。
「消えたきり、だな」俺は、言った。「あれから、一度も、見てない」
「学校側も、行方を、追っているそうです」五百旗頭が、言った。「でも、記録が、ないんです。入学記録も。在籍記録も。……まるで、最初から、存在しない、みたいに」
「不気味ね」御手洗が、こてん、と、首をかしげた。「まるで、消えた、王朝の、亡霊みたいだわ」
「出た」と、俺。
「出た、じゃ、ないわよ」
「たとえが、世界史なんだよ、やっぱり」
「わかりやすいでしょう」
「わかりにくいって」
……ああ。
この、やりとりも。
久しぶり、だ。
本物の、御手洗の、世界史の、たとえ。
……そう。
本物の。
◇
その、とき、だった。
「――あら?」
五百旗頭が。
ふと、手を、止めた。
図書室の、返却された、資料の、山。その、間から。
一枚の、カードが。
はらり、と。
落ちた。
五百旗頭が、拾い上げる。
「これ……」
それは。
あのゲームで、使われた。役職カードと、同じ、形式だった。
でも。
俺たちに、配られた、六枚とは。違う。
「見て、ください」五百旗頭が、青い顔で、カードを、掲げた。
そこには。
こう、書かれて、いた。
《第七役職》
◇
「……七?」俺は、つぶやいた。
「そう」五百旗頭が、言った。「役職カードは。参加者の、人数分、しか、ない、はず。……わたしたちは、六人。カードも、六枚。だから」
五百旗頭の、指が。
かすかに、震えて、いた。
「この、七枚目は。……誰にも、配られて、いない」
六人。
六枚。
なのに。
ここに、ある、七枚目。
これは。
一体。
誰の。
役割、だったのか。
「……まさか」俺は、言った。「湊ミライの――」
「わかりません」五百旗頭は、首を、振った。「でも、もし。この、七枚目が。ミライさんの、ものだと、したら」
五百旗頭は、カードを、見つめた。
「――彼女は。あのゲームで。ちゃんと、『役割』を、持って、いたことに、なります。……つまり」
「つまり?」
「湊ミライは」五百旗頭は、言った。「たまたま、紛れ込んだ、部外者じゃ、ない。……最初から。『第七役職』を、与えられた。……正式な、プレイヤー、だった」
ぞわり、と、した。
誰が。
その、役職を。
彼女に、与えたのか。
学校でも、ない。
俺たちでも、ない。
じゃあ。
一体。
誰が――
◇
俺は。
窓の、外を、見た。
いつも通りの、放課後の、空。
あの、長い、ゲームは。終わった。
密室も。学校の秘密も。七人目の、正体も。……ほとんど、解けた。
でも。
たったひとつ。
この、カードだけが。
まだ。
何も。
教えて、くれない。
――『第七役職』。
六人のはずの、ゲームに、紛れていた、七枚目の、カード。
これは。
終わりじゃ、ない。
むしろ。
本当の、物語は。
ここから。
始まるのかも、しれない。
そんな、予感が、した。
俺は。
読みかけの、漫画を、閉じて。
立ち上がった。
「……なあ、五百旗頭」
「なんですか」
「その、カード。……調べてみるか」
五百旗頭が。
顔を、上げた。
そして。
にっ、と。
笑った。
「ではでは。……森本くんが、やる気に、なるなんて。珍しい、こともあるものですね」
「うるさい。……ちょっとだけ、だよ。ちょっとだけ」
ちょっとだけ。
本気を。
出しても、いい気が、した。
――だって。
こんなに、面白そうな、謎は。
めったに、ないんだから。
(第1巻・完)




