第19話 七人で、クリアした
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第19話 七人で、クリアした
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ホールの、ざわめきが、少し、落ち着いた、頃。
一人の、年上の、人が。オッズ表らしき、紙束を、めくりながら。
首を、かしげた。
「……おかしいな」
「どうしました」担任が、聞いた。
「いや。参加者の、役割判定だが。……計算が、合わない」
その、言葉に。
五百旗頭が。
びくり、と、肩を、震わせた。
――合わない、計算。
五百旗頭が、ずっと、悩んでいた、あれ。
◇
「参加者は、六人。役割も、六つ。脱落者、三人。クリア者、三人。……数字は、合っている、はずだ。なのに」その人は、紙を、睨んだ。「観戦記録と、照合すると。行動の、数が。ひとつ、多い。まるで――」
「誰か、もう一人、いたみたいに」
俺が。
言った。
全員が。
俺を、見た。
「……森本くん?」五百旗頭が、かすれた声で、言った。「あなた、何を」
「五百旗頭」俺は、言った。「お前の、計算は。合ってたよ。ずっと」
「え……?」
「余りが、出たのは。お前の、ミスじゃ、ない」俺は、続けた。「本当に――もう一人、いたんだ。最初から。ずっと」
◇
しん、と、なった。
誰も、言葉を、発しなかった。
「……嘘」五百旗頭が、つぶやいた。「だって、わたし、何度も、数えました。ここに、いたのは、六人。日下部くん、御手洗さん、不破くん、東海林さん、あなた、わたし。……六人、です」
「そう、思うだろ」俺は、言った。「でも、思い出してみろよ。御手洗が、時々、変だったこと」
「御手洗さんは……いつも、変です」
「いや。そういう、変じゃ、なくて」俺は、言った。「たとえが、世界史じゃ、なくて、日本史のとき、あったろ。応仁の乱、とか。文学のとき、あったろ。ロミオとジュリエット、とか。……あれ、御手洗じゃ、なかったんだ」
「……え?」
◇
「――そろそろ、いいかしら」
声が、した。
御手洗の、声で。
でも。
御手洗じゃ、なかった。
御手洗の、隣に。
いつの間にか。
もう一人。
御手洗に、そっくりな、女の子が。
立って、いた。
小柄で。目が、大きくて。声も、そっくりで。
でも――よく、見ると。違う。別人だ。
「はじめまして。……いえ、ずっと、ご一緒して、いたのだけれど」
その子は、こてん、と、首をかしげた。御手洗と、同じ、仕草で。
「湊 ミライ。……日本史専門よ。世界史は、少し、苦手なの」
◇
「二人……いた……?」五百旗頭が、呆然と、した。「御手洗さんが……二人?」
「別人よ」本物の、御手洗が、ぷう、と、頬を、膨らませた。「わたしと、みらいさんは、別人。ただ、ちょっと、似ているだけ。……というか」
御手洗は、俺を、じろっと、睨んだ。
「森本くん。あなた、わたしと、みらいさんを、わざと、混ぜたわね?」
「……まあ」俺は、頭を、かいた。「そういうこと、だ」
「森本くん!」五百旗頭が、叫んだ。「説明して、ください! 一体、どういう――」
「落ち着けって」俺は、言った。「順番に、話す」
◇
「このゲーム、始まって、すぐ。俺は、気づいたんだ」俺は、言った。「メンバーの中に、一人。名簿にも、オッズにも、載ってない、やつが、いる、って」
「みらいさん、ですか」
「ああ。こいつは、学校の、選抜が、選んだ、参加者じゃ、ない。どこからか、紛れ込んだ、"七人目"だった」俺は、言った。「で、俺は、考えた。……このゲーム、観戦者が、いる。オッズを、賭けてる、やつらが。そいつらは、俺たちの、役割を、当てようと、してる」
「ええ」
「だったら」俺は、にやり、と、した。「一人、隠せば。観戦者は、絶対に、全部は、当てられない。人数すら、把握できない。……勝てる、と、思った」
五百旗頭が、はっと、した。
「まさか。あなた、それで――」
「みらいを、御手洗に、化けさせた」俺は、言った。「幸い、こいつは、御手洗に、そっくりだった。声も、背格好も。あとは、口調を、真似させて。御手洗の、隣に、置いておけば。……みんな、一人だと、思う」
「でも、それは」五百旗頭が、言った。「御手洗さんが、脱落した、あとも――」
「御手洗が、消えても。みらいは、残った。だから、御手洗の、発言が、まだ、続いてるように、見えた。……お前の、計算が、合わなかったのは。そのせいだ」
◇
「待って、ください」五百旗頭が、混乱した。「なぜ、他の、みんなは、気づかなかったんですか。同じ、部屋に、いたのに」
「気づいてたよ。みんな」俺は、言った。「東海林も。不破も。日下部も。……薄々、『御手洗、二人、いないか?』って」
「そう、なんですか!?」
「でも、言わなかった」俺は、言った。「だって、これは、チーム戦だろ。観戦者を、出し抜くのが、勝ち。だったら、七人目を、隠したまま、口裏を、合わせたほうが、いい。……みんな、わかってて。黙ってて、くれた」
「……」
「五百旗頭。お前にだけ、言わなかったのは」俺は、少し、申し訳なさそうに、言った。「お前が、いちばん、正直だから。お前が、知ったら、絶対、顔に、出る。観戦者に、バレる。……だから、お前には、隠した。悪かった」
「……」
五百旗頭は。
しばらく、口を、ぱくぱく、させて。
それから。
「……信じられません」と、つぶやいた。「あなたが。そんな、大それたことを。……あの、何をやっても、平均点の、あなたが」
「まあ、面倒くさかったけどな」俺は、言った。「でも、報酬、出るって、言うし。みんな、消えてくし。……ちょっとだけ、本気、出した」
ちょっとだけ。
本気を。
◇
ホールが。
静まり返って、いた。
さっきまで、俺を、「番狂わせの、無印」と、見ていた、大人たちが。
今は。
別の、目で。
俺を、見て、いた。
畏怖、みたいな、ものすら。
混じった、目で。
「……七人目を、隠し通して」年上の、人が、つぶやいた。「観戦者、全員を、欺いた。……オッズを、賭けた、我々を。まるごと」
「本命の、五百旗頭くんに、探偵役を、やらせて。自分は、凡庸な、脇役の、ふりを、して」
「その、裏で。盤面を、完全に、支配していた……」
ざわ、と。
ホールが、どよめいた。
でも。
そのとき。
その、緊迫した、空気を。
ぶち壊す、声が、した。
「――ちょっと! 待って!」
御手洗だった。
ぷんぷん、と、怒りながら。
俺を、指さして。
「森本くん! あなた、さっきから、聞いてれば! わたしのこと、『いつも変』とか、『不思議ちゃん』とか、言ってるけど!」
「え、いや」
「わたし!」御手洗は、腰に、手を、当てて、叫んだ。
「言うほど、変じゃ、ないから!」
◇
しん。
と、なった。
それから。
……ぷっ、と。
誰かが、噴き出した。
日下部だった。
続いて、五百旗頭も。東海林まで、口元を、隠して。
みんな、笑って、いた。
「な、なんで、笑うの!」御手洗が、真っ赤に、なった。「わたし、真面目に!」
「いや、御手洗」俺は、笑いながら、言った。「お前、けっこう、変だよ」
「変じゃ、ないもの!」
「たとえが、いつも、世界史なのは」
「わかりやすいでしょう!」
「わかりにくいって」
……ああ。
なんだ、これ。
学校の、秘密が、暴かれて。七人目が、明かされて。俺が、黒幕だ、なんて、大ごとに、なって。
なのに。
御手洗が、ひとこと、「変じゃない」と、叫んだだけで。
全部、いつもの、図書室の、空気に、戻って、しまった。
――そうだ。
御手洗は。
別に。
そんなに、変じゃ、なかったのかも、しれない。
「不思議ちゃん」って、思ってたのは。
案外。
俺、だけ、だったのかも、な。
(第19話 了)




