第16話 誰が、そう言った
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第16話 誰が、そう言った
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「――誰が、『役割を、全部当てれば、出られる』って、言ったんだ?」
俺が、そう、言った、瞬間。
五百旗頭が、大きく、目を、見開いた。
「……え」
「いや、だからさ」俺は、頭を、かいた。「役割を、全部当てたら、クリア。そう、思って、たろ、俺たち。でも、それ、誰が、決めたんだ?」
「それは……端末が――」五百旗頭は、言いかけて、止まった。「……いえ」
五百旗頭が、端末に、駆け寄った。最初の、ルール表示を、必死に、思い出しながら。
「ルールには……こう、書いてありました。『各人に、役割と、勝利条件を、与える』。『役割を、直接、明かしてはならない』。『クリアするまで、出られない』。……でも」
五百旗頭の、声が、震えた。
「どこにも。『役割を、全部当てれば、クリア』とは。……書いて、いなかった」
◇
しん、と、なった。
「わたしたちは」五百旗頭が、呆然と、つぶやいた。「勝手に、思い込んで、いた。恋愛推理ゲーム、だから。誰が、誰を好きな『役』か。それを、当てるのが、クリア条件だと。……でも、そんなこと。一度も、言われて、いなかった」
「じゃあ」俺は、言った。「本当の、クリア条件って、なんなんだ?」
「……」
五百旗頭は、考え込んだ。数式を、書く、あの、目で。
でも。
今度は、床に、数式を、書か、なかった。
ただ、じっと。
空いた、椅子たちを、見て、いた。
日下部の、椅子。御手洗の、椅子。不破の、椅子。
◇
「……森本くん」五百旗頭が、ゆっくりと、言った。「このゲームの、名前は、なんでしたか」
「恋愛推理、だろ」
「そう。恋愛推理。……わたしたちは、『推理』の、部分ばかり、見ていた。役割を、推理する。論理で、解く。……でも」五百旗頭は、顔を、上げた。「『恋愛』の、部分を。ちゃんと、見て、いなかった」
「恋愛の、部分?」
「考えて、みてください」五百旗頭は、指を、折った。「このゲーム、ずっと、わたしたちに、問いかけて、いました。『好き』と、言われても、本心か、わからない。役割かも、しれない。演技かも、しれない。嘘かも、しれない。……それが、たちが悪い、と。何度も、思ったでしょう」
「ああ」
「つまり、このゲームの、本当の、問いは」五百旗頭は、まっすぐ、俺を、見た。「『誰が、誰を好きな、役なのか』じゃ、ない。……『誰が、誰を、本当に、好きなのか』」
その、瞬間。
何かが。
かちり、と。
音を立てて、はまった、気が、した。
◇
「役割としての、恋」五百旗頭は、続けた。「演技としての、恋。そして――本当の、恋。この、三つは。似ているけど。違う」
「……」
「わたしたちが、当てなきゃ、いけないのは。役割じゃ、ない」五百旗頭の、声に、力が、戻って、いた。「『本当の、恋』を。見抜くこと。……それが、クリア条件、なんです」
「でも」俺は、言った。「本心なんて、どうやって、見抜くんだよ。このゲーム、嘘、ついても、いいんだぞ。好きだって、偽っても、いい。……見分ける、方法、ないだろ」
「言葉、では、ね」五百旗頭は、頷いた。「言葉では、見分けられ、ません。『好き』も。『嫌い』も。全部、嘘かも、しれない。……でも」
五百旗頭は、空いた、椅子を、見た。
「言葉じゃ、なくて。行動を、見れば。……わかるかも、しれません」
「行動?」
「思い出して、ください」五百旗頭は、言った。「消えて、いった、みんなの、こと。ゲーム上は、不可解だった、行動。勝利条件に、反していたように、見えた、選択。……自分が、不利に、なると、わかっていながら。誰かを、助けた、行動」
……あ。
俺は。
思い出して、いた。
◇
御手洗。
あいつは、五百旗頭の、役割を、暴いて、消えた。
――でも。なんで、暴いたんだ?
役割を、暴けば。暴いた、自分が、消える。それは、危険な、行為だった。
なのに、御手洗は、あえて、それを、やった。
まるで――五百旗頭に、何かを、教えるために。自分を、犠牲にして。
不破。
あいつは、最後まで、東海林を、好きだった。俺に、突っかかって、妨害して。
――でも。最後の、あの、告白。「東海林が、見ているのは、貴様だ」。
あれは。俺と、東海林を、引き離す、役割とは。真逆の、行動、だった。
自分の、負けを、認めて。俺に、東海林の、本心を、教えて。消えて、いった。
日下部。
あいつは、自分から、脱落した。「争いが、嫌いだ」と。
――でも。観戦席から、わざわざ、連絡して、きた。「ゲームが、書き換えられている」と。俺たちに、危険を、教えるために。
自分は、安全な、観戦席に、いたのに。
みんな。
役割とは。
関係のない、ところで。
誰かのために。
動いて、いた。
◇
「……そうか」俺は、つぶやいた。「みんな。役割の、裏で。本当は――」
「ええ」五百旗頭が、頷いた。「役割では、説明できない、行動。そこに、本当の、気持ちが、あった。……それを、見つけるのが。このゲームの、本当の、クリア条件」
五百旗頭は、東海林を、見た。
それから、俺を、見た。
「森本くん。わたしたちは。消えた、みんなの、本当の、気持ちを。ひとつずつ、思い出して。……それを、証明しなきゃ、いけない」
「証明、できるのか? そんなの」
「わかりません」五百旗頭は、笑った。でも、その目は、もう、絶望して、いなかった。「でも。役割を、論理で、解くだけなら。わたし、一人でも、できました。……でも、本心を、解くのは。わたし、一人じゃ、無理です」
五百旗頭は、手を、差し出した。
「森本くん。東海林さん。……力を、貸して、ください。みんなと、過ごした、時間を、いちばん、覚えているのは。わたしじゃ、なくて。あなたたち、だから」
俺は。
その、手を。
握った。
「……ああ。やろうぜ」
東海林も、こくり、と、頷いた。
三人で。
消えた、みんなの、本当の、気持ちを。
取り戻す、ために。
(第16話 了)




