第15.5話 三人の、夜
====================
第15.5話 三人の、夜
====================
正解を、出したのに。
出口は、開かなかった。
五百旗頭は、端末の、前で、うなだれていて。
俺は、それを、どう、慰めれば、いいのか、わからなくて。
東海林は、いつものように、黙って、いた。
……とはいえ。
人間、ずっと、絶望しては、いられない。
腹は、減るし。眠くも、なる。
だから、この夜も。
俺たちは、漫画コーナーの、床に、なんとなく、集まって、いた。
三人で。
◇
「……森本くん」五百旗頭が、ぽつり、と、言った。「ひとつ、聞いても、いいですか」
「なんだよ」
「さっき、わたしが、『全部、役割だった』と、言ったとき。あなた、何か、言いかけて、やめましたね」
「……」
「あれは、何を、言おうと、したんですか」
……うっ。
鋭い。こういうとき、こいつは、本当に、鋭い。
「……別に」
「またまた。ごまかさないで、ください」
「ごまかしてない」
「ごまかしています」
隣で。
東海林が、ちらり、と、俺を、見た。
なんか。
二人に、挟まれて。
やりにくい。
◇
「――じゃあ、逆に、聞くけどさ」俺は、話を、逸らそうとした。「五百旗頭は、どうなんだよ」
「わたし?」
「俺のこと、ずっと、観察してた、だろ。あれ、役割、だったのか?」
「……それは」五百旗頭が、言葉に、詰まった。「攻略役を、特定する、ためです。あなたが、わたしを、攻略する役か、確かめるための――」
「四六時中?」
「……」
「寝相まで、観察して?」
「……あれは」五百旗頭の、顔が、赤く、なった。「あれは……その。……観察の、範囲、です」
「ふうん」
「な、なんですか、その、目は」
「いや、べつに」
五百旗頭が、真っ赤に、なって、うつむいた。
……あれ。
もしかして、こいつも。
役割、とか、言いながら。
半分は――
いや。深読みは、やめておこう。このゲームは、たちが悪い。何が、本心か、わからないんだ。
◇
「……森本」
それまで、黙って、いた、東海林が。
ぽつり、と、口を、開いた。
「なんだよ、四季」
「……五百旗頭のこと」
「ん?」
「……好きなの?」
ぶっ、と。
今度は、五百旗頭が、むせた。
「な、なぜ、そこで、その質問、なのですか、東海林さん!」
「……気になる」東海林は、無表情で、言った。「……森本が、誰を、好きか」
「そ、それは、わたしも、気になりますが……! でも、直球すぎます!」
……なんだ、この、状況。
女子二人に。
「誰が好きか」を。
詰められて、いる。
地獄か?
「……えーと」俺は、頭を、かいた。「好きとか、そういうの、よく、わからん」
「でた」東海林が、ぼそっと、言った。「……森本の、『わからん』」
「本当に、わからんのだよ! だって、考えたこと、ないし!」
「……逃げてる」
「逃げてない!」
「森本くん」五百旗頭が、赤い顔のまま、でも、まっすぐ、言った。「ひとつだけ。……このゲームが、終わったら。ちゃんと、聞かせて、ください。あなたの、本心を」
「……」
「役割じゃ、なくて。演技でも、なくて。あなたが、本当は、どう、思っているのか。……それを、知りたいんです」
五百旗頭の、その言葉に。
東海林も、こくり、と、頷いた。
二人が。
まっすぐ、俺を、見ていた。
◇
……参った。
俺は、天井を、見上げた。
好き、とか。本心、とか。
正直、俺には、まだ、よくわからない。
でも。
ひとつだけ、わかることが、ある。
この、二人と。
御手洗や、日下部や、不破と。
この、変な、図書室で、過ごした、時間が。
ゲームとか、役割とか、関係なく。
……嫌いじゃ、なかった。むしろ。
わりと。
好きだった。
「……なあ」俺は、言った。「このゲーム、終わったら、さ」
「はい」
「……なんだ?」
「みんなで、また、集まらないか。ここに。図書室に」俺は、言った。「御手洗も、日下部も、不破も、呼んで。……くだらない、話でも、しようぜ」
しん、と、なった。
五百旗頭が。
ふ、と、笑った。
「……ではでは。それは、いい提案ですね」
「……うん」東海林も、小さく、頷いた。「……いい」
三人で。
静かに、笑った。
出口は、まだ、開かない。
謎も、まだ、解けていない。
でも。
この夜だけは。
なぜか。
少しだけ。
あたたかかった。
――嵐の、前の。
静けさ、だとも。
知らずに。
(第15.5話 了)




