第14話 三人目
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第14話 三人目
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不破楓也が、静かに、なった。
いつもなら。俺の顔を、見るなり、「モブ」と、突っかかってくる、はずの、こいつが。
ここ、数日。
じっと、何かを、考えて、いた。
東海林の、ことを。
見ては、目を、そらし。
そらしては、また、見て。
そして、俺と、東海林が、話しているのを、遠くから、眺めては。
ため息を、つく。
……なんだ、こいつ。調子が、狂う。
◇
「――おい、森本」
その日。不破が、めずらしく、俺を、「モブ」じゃなく、名前で、呼んだ。
「なんだよ、不破」
「少し、いいか」
不破は、俺を、書架の、陰に、連れて、いった。東海林に、聞こえない、ところへ。
「なあ、森本」不破は、俺を、まっすぐ、見た。「東海林のことが、好きなのか」
「は?」俺は、面食らった。「いや、幼馴染だし。好きっていうか、まあ、腐れ縁っていうか」
「そうじゃない」不破は、いらだった。「恋愛感情の、話だ。貴様は、東海林を、女として、好きなのか」
「……」
俺は、考えた。
東海林。四季。
表情の、乏しい、無口な、幼馴染。剣道が、強くて、キレると、怖い、やつ。俺のことを、「本気を、出す日まで、守る」と、言った、やつ。
好き、か。
……わからない。
そばに、いるのが、当たり前すぎて。考えたこと、なかった。
「……わからん」俺は、正直に、言った。「考えたこと、ない」
「……そうか」不破は、ふ、と、笑った。さびしそうに。「貴様は、そういう、やつだよな」
◇
「俺はな」不破は、書架に、背を、預けた。「ずっと、東海林が、好きだった」
知ってた。うすうす。でも、本人の、口から、聞くのは、初めてだった。
「中学の、頃から。あいつの、あの、無表情な、横顔が。……なぜか、目で、追ってた」不破は、遠い目を、した。「告白も、した。何度も。でも、そのたびに、あいつは、言うんだ。『……ごめん』って。一言だけ」
「……」
「理由も、言わない。ただ、断る。……でも、俺は、諦められ、なかった」不破は、拳を、握った。「なんで、振られるのか。わからなかった。俺は、顔も、成績も、悪くない。なのに、なぜ」
不破は、俺を、見た。
「――でも。このゲームで。ずっと、東海林を、見ていて。やっと、わかった」
「何が」
「あいつが、見ているのは」不破の、声が、震えた。「ずっと、貴様、だった」
……え。
◇
「東海林は」不破は、絞り出すように、言った。「ずっと、貴様を、見ている。貴様が、気づかない、ところで。心配して。守ろうとして。……あいつの、目は、いつも、貴様を、追ってる」
「いや、それは、幼馴染だから――」
「違う」不破は、きっぱりと、言った。「あれは、そういう、目じゃ、ない。……俺には、わかる。だって、俺が、あいつを、見る目と。同じ、だから」
しん、と、なった。
東海林が。
俺を。
そういう目で、見ている?
……いや。まさか。
でも。
不破の、目は。
冗談を、言っている、目じゃ、なかった。
「俺の、勝利条件はな」不破は、静かに、言った。「たぶん、『貴様と、東海林を、くっつけないこと』だ。……ずっと、そう、思って、動いてきた。妨害して。突っかかって。二人を、引き離そうと、した」
「不破……」
「でも」不破は、笑った。泣きそうな、顔で。「無理だ。もう、無理なんだ。だって、あいつは。貴様しか、見てない。俺が、どれだけ、頑張っても。この条件は――達成、できない」
その、瞬間。
ピッ、と。
端末が、鳴った。
◇
《プレイヤー・不破楓也が、脱落しました》
「不破!」
俺は、振り返った。
でも。
もう、そこに、不破は、いなかった。
完璧超人の、あいつが。
東海林を、好きだった、あいつが。
――いなくなって、いた。
「……森本くん」五百旗頭が、静かに、言った。「今の、脱落。条件が、わかりました」
「……なんだよ」
「不破くんの、勝利条件は、『あなたと、東海林さんの、成立を、阻止すること』。……でも、それが、達成不可能に、なった」五百旗頭は、目を、伏せた。「勝利条件が、叶わないと、確定した、瞬間。プレイヤーは、脱落する。……それが、もうひとつの、脱落条件」
「達成、不可能に、なると……消える?」
「ええ」五百旗頭は、頷いた。「不破くんは、自分の、負けを、悟った。東海林さんの、気持ちは、変えられない、と。……その、諦めが。彼を、脱落させたんです」
俺は、不破の、いた場所を、見た。
空っぽに、なった、そこを。
あいつは。
最後まで。
東海林のことが、好きで。
でも、報われなくて。
それを、自分で、認めて。
消えて、いった。
「……ばか、やろう」俺は、つぶやいた。「最後まで、突っかかって、くれば、よかったのに」
◇
その夜。
東海林が、俺の、隣に、座った。膝を、抱えて。
いつもより、静かだった。
「……不破、消えたな」俺は、言った。
「……うん」
「あいつ、お前のこと、好きだったんだって」
「……知ってた」
「知ってて、断ってたのか」
「……うん」
東海林は、膝に、顔を、うずめた。
「……ごめんって、思う。不破には」東海林の、声が、くぐもった。「……でも。好きじゃない人と、付き合うのは。……もっと、失礼だと、思うから」
「……そうだな」
俺は、頷いた。
東海林は、しばらく、黙って、いた。
それから。
顔を、上げずに。
ぽつり、と、言った。
「……森本は」
「ん?」
「……わたしが、誰を、見てるか」
「……」
「……気づいて、ないんだ」
その、声が。
いつもの、無表情な、声とは。
少し、違って、聞こえた。
でも。
俺は。
なんて、答えれば、いいのか。
わからなくて。
ただ。
夜の、図書室の、天井を。
見つめて、いた。
(第14話 了)




