↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋愛推理ゲーム  作者: SSS
七人目

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
116/117

特別編 恋愛推理ゲーム・完全版(後編)

====================

特別編 恋愛推理ゲーム・完全版(後編)

====================



  ◇



開始から、二十分。


まだ、クリアしたのは東海林だけだった。


……そして、東海林は、静かに全員を観察していた。


……こいつ、こういうとき、怖いんだよな。



  ◇



「――ねえ、不破くん」


ミライが、突然、不破のほうを向いた。


「なんだ」


「ちょっと、聞いていい?」


「なんだ」


……。


ミライは、少し身を乗り出して。


それから、言った。


「――東海林さんのこと、どう思ってる?」



  ◇



……。


空気が、止まった。


……。


不破が、明らかに動揺した。


「……は?」


「どう思ってるの?」


「……なぜ、今、その話を」


「気になるから」


……。


東海林は、本から顔を上げなかった。


でも、明らかに、聞いていた。


……というか、気まずそうだった。



  ◇



……。


俺は、思った。


……ああ。


ミライは、不破から「好き」を引き出そうとしてるのか。


……わかりやすいな。


でも、それはそれで、まずい。


……こんなにわかりやすいと、脱落するぞ。



  ◇



「……答えん」


不破は言った。


「なんで」


「答える必要がない」


「照れてる?」


「照れていない」


……。


「じゃあ、言えるよね」ミライは言った。「――東海林さんのこと、どう思ってる?」


……。


不破は、しばらく黙っていた。


それから、言った。


「――同じクラスだったこともある、知人だ」


……。


「うわ、逃げた」


「逃げていない」



  ◇



「――じゃあ、質問を変える」


ミライは言った。


「なんだ」


「不破くんって、好きな食べ物ある?」


……。


……ん?


「……なぜ、そんなことを」


「いいから」


「……」


不破は、少し警戒していた。


……そりゃそうだ。


明らかに、「好き」と言わせたい流れだ。



  ◇



「――嫌いではないものなら、ある」


不破は言った。


……。


……あ。


避けた。


「肉は、嫌いではない」不破は言った。「魚も、嫌いではない」


「好きなものは?」


「――嫌いではない、と言っている」


……。


ミライが、少しむっとした。


「……面倒くさいな」


「そちらの意図が透けている」不破は言った。「――『好き』と言わせたいのだろう」


……。


……あ。


バレた。



  ◇



「――そうだね」


ミライは、あっさり認めた。


「認めるのか」


「認める」ミライは言った。「だって、バレてるし」


……。


「では、お前は脱落だな」


「え?」


「言葉がバレた」不破は言った。「――ルール上、脱落だ」


……。


ミライは、少し笑った。


「――そう?」



  ◇



「……なんだ、その顔は」


「別に」ミライは言った。「――じゃあ、確認しよっか」


……。


ミライは、不破のほうに、身を乗り出した。


そして、言った。


「――ねえ、不破くん」


「なんだ」


「私のこと、好きでしょ?」


……。


……は?



  ◇



……。


不破は、一瞬、固まった。


それから、即答した。


「――好きじゃない」


……。


……。


ミライが、ゆっくりと、笑った。


「――はい、クリア」


……。


……え?



  ◇



ミライは、紙を見せた。


そこには、こう書いてあった。


『不破楓也から「好きじゃない」を引き出せ』


……。


……。


全員が、動きを止めた。


「……は?」


「『好き』じゃなくて、『好きじゃない』」ミライは言った。「――最初から、そっちだよ」


……。


不破が、真っ赤になった。


「……はめたな」


「はめたよ」



  ◇



「――ずるいだろう!」


「ずるくない」ミライは言った。「あんたが、勝手に『好き』を狙われてると思っただけ」


……。


「東海林さんの話を出したのも」ミライは言った。「――そう思わせるため」


……。


「絶対に『好き』と言わないようにさせて」ミライは言った。「――そのまま『好きじゃない』を言わせた」


……。


……こいつ。


えげつない。



  ◇



「……見事です」五百旗頭が言った。


「でしょ」


「二重の誤誘導ですね」五百旗頭は言った。「――ターゲットも、言葉も、両方偽装した」


……。


「まあね」


……。


不破は、まだ真っ赤だった。


「……納得がいかん」


「ルール通りだよ」


「……ふん」



  ◇



……。


で、そこで。


東海林が、本から顔を上げた。


「……不破」


「なんだ」


「……さっきから」


「……なんだ」


……。


東海林は、少し首をかしげて。


それから、言った。


「……御手洗のこと、ずっと褒めてた」


……。


……あ。



  ◇



「……もしかして」


東海林は言った。


いつも通り、無表情で。


でも、はっきりと。


「……不破って、御手洗のこと」


……。


……。


不破が、椅子から立ち上がった。


「――ちが!」


……。


声が、裏返っていた。


不破は、一瞬だけ、東海林を見た。


……ほんの、一瞬。


でも、俺は、見逃さなかった。


「……違う!」不破は言った。「これは、ゲームだ!」


「……そう?」


「そうだ!」


……。


顔が、真っ赤だった。


手が、震えていた。


……完全に、動揺していた。


……そうだよな。


聞いてるのが、東海林じゃ。


――言えるわけ、ないよな。



  ◇



……。


……あ。


俺は、紙を出した。


『不破楓也を、動揺させろ』


……。


「……クリア」


……。


全員が、俺を見た。


「……何もしていませんよね」五百旗頭が言った。


「してない」


「――東海林さんがやりました」


「そうだな」


……。


「それで、クリアなのですか」


「――ルール上は」



  ◇



……。


ミライが、爆笑した。


「あっはは! 森本、なんもしてない!」


「うるさい」


「いちばん働いてない!」


「うるさい!」


……。


「……ずるいな」不破が言った。


「悪いな」


「……いや」不破は言った。「――お前らしい」


……。


褒められてるのか、けなされてるのか。



  ◇



……。


開始から、四十分。


クリアしたのは、東海林、ミライ、そして俺。


残っているのは、五百旗頭、御手洗、不破、日下部。


……日下部は、さっきから静かだった。


「……日下部、まだやってるのか」


「やっていますよ」日下部は微笑んだ。「――ですが、絶望的です」


……。


「相手が悪すぎます」


「湊か」


「はい」


……。


「あの人は、褒め言葉を、自分から言ってしまいます」日下部は言った。「――こちらが引き出す前に」



  ◇



……。


で。


残る問題は、御手洗と五百旗頭だった。


御手洗は、さっきから五百旗頭に絡んでいる。


「――ねえ、五百旗頭さん」


「なんですか」


「宇宙の話をしましょう」


「いいですね」


……。


これは、御手洗が五百旗頭を狙っているのが、丸わかりだった。


……何を引き出したいんだ?



  ◇



「――宇宙は、なぜ存在するのかしら」


「難しい問いですね」五百旗頭は言った。「哲学の領域です」


「あなたは、どう思う?」


「わたしは、物理で考えます」五百旗頭は言った。「――『なぜ』ではなく、『どのように』を」


……。


「でも、最終的には、『なぜ』に行き着くでしょう?」


「行き着きます」五百旗頭は言った。「――そして、答えは出ません」


……。


「じゃあ、あなたは、何を求めているの?」



  ◇



……。


五百旗頭は、少し考えた。


それから、言った。


「――理解です」


……。


御手洗の眉が、わずかに動いた。


……惜しい、という顔だった。


「……理解」


「はい」


「――それは、何を理解するの?」


……。


「この世界の、仕組みです」五百旗頭は言った。


……。


御手洗は、少し考えて。


それから、言葉を選ぶように、言った。


「――その、いちばん奥にあるものを、なんと呼ぶの?」



  ◇



……。


五百旗頭は、しばらく黙った。


「……名前は、つけていません」


「つけるとしたら?」


「……法則、でしょうか」


……。


「もっと、根本的なものは?」


「……原理」


「もっと」


「……」


……。


五百旗頭は、少し困った顔をした。


「――なぜ、そんなことを聞くのですか」


……。


御手洗は、にっこり笑った。


「――なんとなくよ」



  ◇



……。


……あれ。


御手洗、うまいな。


自分では絶対に、その単語を言わない。


……ということは。


引き出したいのは、「法則」でも「原理」でもない。


……もっと、別の言葉だ。



  ◇



「――では、質問を変えるわ」御手洗は言った。


「はい」


「あなたが、一生をかけて、たどり着きたいものは?」


……。


五百旗頭は、少し黙った。


それから、言った。


「……宇宙の、成り立ちです」


「それに、名前をつけるなら?」


「……」


……。


五百旗頭は、答えなかった。


……。


御手洗が、小さく息を吐いた。



  ◇



……。


そのとき。


五百旗頭が、こちらを向いた。


「……森本くん」


「ん?」


「――少し、いいですか」


……。


……来た。


五百旗頭の、ターゲットは、俺だ。


……それは、なんとなく、わかっていた。


でも、何を言わせたいんだ?



  ◇



「……なんだよ」


「あなたは」五百旗頭は言った。「三年生になって、どうですか」


「どうって」


「クラスが、分かれました」五百旗頭は言った。「――前より、会えなくなりました」


……。


「まあ、そうだな」


「不便ですか」


「不便だな」


……。


「――寂しいですか」


……。


……ん?



  ◇



「……まあ、少しは」


「少し?」


「うん」


……。


五百旗頭は、少し、間を置いた。


それから、言った。


「……では、どうしたいですか」


……。


「どうしたいって」


「――これから、どうしたいですか」


……。


……あれ。


なんか、様子が変だ。



  ◇



……。


五百旗頭の顔が、少し赤かった。


……。


いつもの、探偵の顔じゃない。


「……五百旗頭?」


「……はい」


「なんか、変だぞ」


「……変ではありません」


……。


声が、少し、上ずっていた。


「……あの、その」五百旗頭は言った。「――つまり、ですね」


……。


「うん」


「――その」



  ◇



……。


五百旗頭は、しばらく、口を開いたり閉じたりしていた。


……。


……こいつ。


何を言おうとしてるんだ。


「……森本くん」


「なんだよ」


「……あの」


「うん」


……。


五百旗頭は、机を見ていた。


耳が、赤かった。


……。


そして。


小さく、言った。


「……いえ」



  ◇



「……いえ?」


「……なんでもありません」


「なんでもなくないだろ」


「……なんでもありません」


……。


「言えよ」


「……」


五百旗頭は、首を振った。


……。


……こいつ。


顔、真っ赤だぞ。



  ◇



……。


そのとき、タイマーが鳴った。


『――一時間、経過しました』


……。


ゲーム、終了。


「……終わりましたね」


「終わったな」


……。


「――では、答え合わせをしましょう」五百旗頭は言った。


早口だった。


……こいつ、逃げたな。



  ◇



全員が、紙を出した。


『御手洗澪から「ありがとう」を引き出せ』――東海林。達成。


『不破楓也から「好きじゃない」を引き出せ』――ミライ。達成。


『不破楓也を、動揺させろ』――森本。達成。


『御手洗澪から「照れ」を引き出せ』――不破。失敗。


『湊ミライから「可愛い」を引き出せ』――日下部。失敗。


『五百旗頭伊織から「真理」を引き出せ』――御手洗。失敗。


……。


「……真理か」


「言わなかったわね」御手洗は、少し悔しそうだった。「あと少しだったのに」


「言いそうだったのか」


「――『理解』のあと、続けてくれれば」御手洗は言った。


……。


「わたし、絶対に『真理』とは言わないようにしたのよ」御手洗は言った。「言ったら、バレるでしょう?」


「……よく我慢したな」


「大変だったわ」



  ◇



……。


そして、最後。


「――五百旗頭さんは?」


御手洗が言った。


「……」


「見せてください」


「……いえ」


「なぜですか」


……。


五百旗頭は、紙を握りしめていた。


……。


「――五百旗頭」


俺は言った。


「……なんですか」


「見せろよ」


「……嫌です」



  ◇



……。


結局、ミライに取り上げられた。


「わ、返してください!」


「いやー、どれどれ」


……。


ミライが、紙を開いた。


そして。


……。


全員に、見えるように、掲げた。



  ◇



『森本基成から「一緒にいたい」を引き出せ』



  ◇



……。


……。


図書室が、静まり返った。


……。


「……あー」


ミライが、紙を下ろした。


「……これ、無理だわ」


……。


五百旗頭は、机に突っ伏していた。


耳まで、真っ赤だった。



  ◇



「……なんで言わなかったんだ」


俺は言った。


「……」


「言えば、クリアだっただろ」


「……」


……。


五百旗頭は、顔を上げなかった。


……。


やがて、机に突っ伏したまま、小さく言った。


「……言えるわけ、ないでしょう」



  ◇



……。


……。


御手洗が、小さく笑った。


ミライが、天井を見上げた。


東海林が、少しだけ、口の端を上げた。


不破は、なぜか腕を組んで頷いていた。


日下部は、いつも通り、微笑んでいた。


……。


俺は。


……何も、言えなかった。


(特別編 了)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。