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恋愛推理ゲーム  作者: SSS
七人目

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115/117

特別編 恋愛推理ゲーム・完全版(前編)

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特別編 恋愛推理ゲーム・完全版(前編)

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  ◇



四月の終わり。


その日の図書室は、いつもより人が多かった。


五百旗頭、御手洗、東海林、不破、日下部、ミライ、そして俺。


……七人。


全員が揃うのは、久しぶりだった。



  ◇



「――暇だね」


ミライが、頬杖をついて言った。


「勉強しろ」


「したくない」


「三年だぞ」


「知ってる」


……。


「――ねえ、何かしようよ」


「何かって」


「なんでもいい」ミライは言った。「ゲームとか」



  ◇



その言葉に、全員が一瞬、動きを止めた。


「……ゲーム」


「あ」ミライは気づいた。「いや、そういう意味じゃなくて」


「わかってる」


……。


でも、なんとなく、空気が変わった。


「――やってみますか」


五百旗頭が言った。


「え?」


「ゲームです」五百旗頭は言った。「――こちらで、作ったものが」



  ◇



五百旗頭は、鞄から封筒を取り出した。


「なんだ、それ」


「くじです」五百旗頭は言った。「七枚あります」


「準備がいいな」


「――以前から、考えていました」五百旗頭は言った。「いつか、やってみたいと」


……。


「どんなゲームだ」


五百旗頭は、少し笑った。


「――『恋愛推理ゲーム』です」



  ◇



……。


全員が、動きを止めた。


「……名前が、まずいだろ」


「そうですか?」


「一年前を思い出す」


「そうですね」五百旗頭は言った。「――ですが、内容は、まったく違います」


……。


「説明します」



  ◇



「ルールは、単純です」五百旗頭は言った。


「くじを引くと、指令が書かれています。『誰から』『どんな言葉を』引き出すか」


……。


「その言葉を、会話の中で言わせれば、達成です」


「言わせるって、直接頼むのは?」


「禁止です」五百旗頭は言った。「『この言葉を言って』と頼むのは、無効になります」


……。


「自然な会話の中で、引き出してください」



  ◇



「――脱落条件は?」


御手洗が聞いた。


「引き出したい言葉が、他人にバレたら脱落です」


……。


「言葉が?」


「はい」五百旗頭は言った。「――ターゲットがバレるのは、構いません」


……。


「なぜだ」


「絡んでいれば、わかりますから」五百旗頭は言った。「――ですが、言葉がバレると、妨害されます」


……。


……ああ。


そうか。


言葉さえ分かれば、周りが「絶対に言わせない」ように動ける。



  ◇



「達成したら、どうなる」


「その時点で、勝ち抜けです」五百旗頭は言った。「ただし、この場には残ります」


「残るのか」


「はい」五百旗頭は言った。「――そして、自由に発言できます」


……。


「つまり」五百旗頭は言った。「――他の人の妨害も、できます」


……。


うわ。


早くクリアしたやつが、有利すぎる。



  ◇



「時間は?」


「一時間です」五百旗頭は言った。「それを過ぎたら、全員終了」


……。


「――やりますか?」


……。


全員が、顔を見合わせた。


「……面白そうね」御手洗が言った。


「暇だしね」ミライが言った。


「ふん」不破が言った。「――受けて立とう」


「僕は、興味があります」日下部が微笑んだ。


……。


そして、東海林が。


小さく、頷いた。


「……やる」



  ◇



くじを引いた。


折りたたまれた紙を開くと、そこには短く、こう書いてあった。


『不破楓也を、動揺させろ』


……。


……ん?


言葉じゃない。


「――五百旗頭」


「はい」


「これ、言葉じゃないんだけど」


「――いくつか、変則的なものが混ざっています」五百旗頭は言った。「言葉ではなく、状態を引き出すものです」


……。


「なるほどな」



  ◇



……。


不破を、動揺させる。


……どうすればいいんだ。


あいつ、そう簡単に動揺しないぞ。


……いや、待て。


わりと、しやすいかもしれない。


東海林の話をすれば、だいたい動揺する。


……でも、それは露骨すぎる。


バレたら、脱落だ。



  ◇



「――では、始めます」


五百旗頭が、スマホのタイマーを押した。


「一時間、計ります」


……。


全員が、少し身構えた。


……妙な緊張感だった。


図書室で、七人が、お互いを探り合っている。


……一年前と、同じ構図だ。


……いや。


全然、違う。



  ◇



最初に動いたのは、東海林だった。


「……御手洗」


「なあに?」


「……これ」


東海林が、机の上の本を、御手洗のほうに寄せた。


「あら」


「……落ちそうだった」


……。


「ありがとう」


……。


御手洗が、あっさり言った。


……。


東海林が、小さく頷いた。


「……クリア」



  ◇



……。


「――早すぎませんか!?」


五百旗頭が、思わず声を上げた。


「……ん」


「開始、十五秒です」


「……ん」


……。


東海林は、紙を見せた。


『御手洗澪から「ありがとう」を引き出せ』


……。


全員が、脱力した。


「……そりゃ、簡単だろ」


「……運」東海林は言った。


「運がよすぎるだろ」



  ◇



「……あら」御手洗が言った。「わたし、言わされたのね」


「……ん」


「悔しいわ」御手洗は言った。「でも、親切にされたら、言うわよね」


……。


「――というわけで」五百旗頭は言った。「東海林さんは、勝ち抜けです」


「……ん」


「ですが、この場に残り、自由に発言できます」


……。


……あ。


まずい。


東海林が、自由に喋る。


……こいつ、無口なくせに、たまに核心を突くんだよな。



  ◇



次に動いたのは、不破だった。


「――御手洗」


「なあに、不破くん」


不破は、少し姿勢を正した。


そして、真顔で言った。


「――今日の君は、いつもより美しいな」


……。


……は?


全員が、動きを止めた。



  ◇



……。


御手洗は、きょとん、とした。


「……そうかしら」


「ああ」不破は言った。「その髪の色が、光に映えている」


「そう?」


「窓から入る光と、君の横顔が」不破は言った。「――まるで、絵画のようだ」


……。


……こいつ。


何を言ってるんだ。



  ◇



「――あら」


御手洗は、少し首をかしげた。


そして、言った。


「絵画といえば、ルネサンス期の肖像画は面白いのよ」


……。


「え?」


「特に、フランドル派ね」御手洗は言った。「油彩の技法が確立されて、光の表現が飛躍的に――」


「いや、待て」


「ヤン・ファン・エイクという画家がいるの」御手洗は言った。「『アルノルフィーニ夫妻像』を知っている?」


……。


「知らん」


「鏡が描かれているのよ」御手洗は言った。「その鏡に、画家自身が映っているの」



  ◇



……。


不破が、固まっていた。


……。


完全に、話を持っていかれた。


「……いや、そうではなく」


「なあに?」


「――君の話をしていたのだが」


「わたし?」御手洗は言った。「わたしより、ファン・エイクのほうが面白いわ」


……。


……。


ミライが、腹を抱えて笑っていた。


「あっはは! 不破くん、無理無理!」


「うるさい!」



  ◇



……。


その様子を、俺は見ていた。


……不破は、御手洗を狙っている。


それは、わかった。


でも、何の言葉を引き出したいんだ?


……褒めている。


美しい、と言っている。


……ということは。


「……なあ、不破」


「なんだ」


「お前、御手洗に何言わせたいんだ」


「言うか」


……。


まあ、そうだよな。



  ◇



次に動いたのは、日下部だった。


「――湊さん」


「なに」


「湊さんは、ご自分のことを、どう思われますか」


……。


ミライは、少し考えた。


それから、あっさり言った。


「――超絶美少女」


……。


「……え?」


「超絶美少女よ」ミライは言った。「知らなかった?」


……。


日下部が、笑顔のまま固まった。


「……えっと」


「なに」


「――もう少し、控えめな表現は」


「ないね」



  ◇



……。


「では、質問を変えます」日下部は言った。「湊さんの顔立ちは、どなたかに似ていると言われませんか」


「言われるよ」ミライはあっさり言った。「――御手洗さんに似てるって」


「ああ、たしかに」


「よく間違えられる」ミライは言った。「あと、髪型変えると、さらに似るらしい」


……。


「では」日下部は言った。「御手洗さんの顔立ちは、どう思われますか」


……。


ミライは、少し考えて。


それから、言った。


「――御手洗さんの上位互換が、私ね」



  ◇



……。


……は?


「……上位互換?」


「そう」ミライは言った。「同じ系統だけど、私のほうが完成度が高い」


……。


御手洗が、きょとん、とした。


「……じょうい、ごかん?」


「知らないの?」


「知らないわ」御手洗は言った。「――何の話?」


……。


「だから、私のほうが上ってこと」


「何が?」


「顔が」


「……そう?」御手洗は、首をかしげた。「わたし、自分の顔、あまり気にしたことがないわ」


……。


ミライが、少しむっとした。


「……張り合いがない」



  ◇



……。


日下部は、まだ諦めていなかった。


「湊さん」


「なに」


「では、率直に伺います」日下部は言った。「――どのような言葉を言われたら、嬉しいですか」


……。


ミライは、じっと日下部を見た。


それから、にやり、と笑った。


「――日下部って、私のこと好きなんだね」


……。


「いえ、そういうことでは」


「いいよ、隠さなくて」ミライは言った。「――じゃあ、告白する権利をあげる」



  ◇



「え?」


「好きに、私のことを賛美しなさい」ミライは言った。「一分あげる」


……。


「いや、あの」


「ほら、早く」


……。


日下部が、初めて、本気で困った顔をした。


……。


……こいつ、追い詰められてる。


珍しい。


「……えっと、その」


「三十秒経過」


「湊さんは、その、明るくて」


「うん」


「……頭の回転が速く」


「うん」


「……観察力に優れていて」


……。


「――それ、褒めてる?」


「褒めています」


「顔の話は?」


……。


「……ノーコメントで」


「アウトー!」


(前編 了)

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