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恋愛推理ゲーム  作者: SSS
七人目

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114/117

エピローグ 一人増えましたね

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エピローグ 一人増えましたね

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◇


四月。


三年生になった。


◇


クラス替えがあって、俺は文系のクラスに入った。


……理系でも文系でも大差ないと思っていたが、五百旗頭に「消去法で決めるなら文系です」と言われて、そうした。


理由は「物理より古文のほうが、暗記でなんとかなるから」だそうだ。


……身も蓋もない。


◇


五百旗頭は、理系のクラス。


御手洗は、同じ文系だが、別のクラス。


東海林も、別のクラス。


不破は、俺と同じクラスだった。


「……なんで、お前がいるんだ」


「こちらの台詞だ」


……。


ミライは、隣のクラス。


日下部は、どこにいるのかよくわからない。相変わらず、あちこちにいる。


◇


……つまり、全員がバラバラになった。


教室も違う。授業も違う。休み時間に会うこともない。


……当然だ。


三年生になれば、そうなる。


……。


でも。


◇


四月の、ある日の放課後。


俺は、なんとなく、図書室に行った。


特に、用事はなかった。


……ただ、癖みたいなものだった。


扉を開ける。


……。


そして、驚いた。


◇


いつもの席に、五百旗頭がいた。


その隣に、御手洗がいた。


向かいに、不破が座っていた。


窓際で、ミライが頬杖をついていた。


そして、少し離れた席に、東海林がいた。


……。


全員、いた。


◇


「……なんだ、これ」


「あら、森本くん」御手洗が言った。「遅かったわね」


「約束してないだろ」


「していませんよ」五百旗頭が言った。「――ですが、来ると思っていました」


……。


「なんでだよ」


「――癖でしょう?」


……。


……その通りだった。


◇


「……で、なんで全員いるんだ」


「俺は通りかかっただけだ」不破が言った。


「嘘つけ」


「本当だ」


「三階から一階まで、通りかかるのか」


「……」


……。


ミライが、けらけら笑った。


「不破くん、下手すぎ」


「うるさい」


◇


「――わたしは、勉強しに来ました」五百旗頭が言った。


「それは本当か」


「本当です」五百旗頭は、参考書を見せた。「ここは、静かなので」


……。


「わたしも、そうよ」御手洗が言った。「ドイツ語の教材を、借りたの」


「学校にあるのか、そんなもの」


「あるわ」御手洗は言った。「――誰も借りていなかったけれど」


……。


「……四十年ぶりの貸出だそうです」五百旗頭が言った。


「調べたのか」


「貸出記録が、そうなっていました」


◇


東海林は、窓際で、本を読んでいた。


「……四季」


「……ん」


「部活は」


「……今日、休み」


「そうか」


「……ん」


……。


それだけの会話。


でも、隣に座っても、嫌がられなかった。


……三か月前には、なかったことだ。


◇


「――そういえば」


御手洗が言った。


「なんだよ」


「藤堂さん、どうしているのかしら」


……。


「元気にしてるらしいぞ」俺は言った。「この前、演劇部の前で会った」


「なんて?」


「『二年生になりました』って」


……。


「当たり前だな、それ」


「当たり前ね」


……。


「あと」俺は言った。「――『推薦、間に合いそうです』って」


◇


……。


「そう」御手洗は、少し笑った。「よかったわね」


「ああ」


……。


枠が一つ増えた。


だから、六人全員が突破した。


……たった一つ。


でも、それで、一人の進路が変わった。


◇


「――和泉さんは?」


ミライが聞いた。


「まだ交渉中らしい」五百旗頭が言った。「制度の改定案です」


「通りそう?」


「わかりません」五百旗頭は言った。「――ですが、先週、二回目の提出をしたそうです」


……。


「一回目は?」


「――却下されました」


……。


「だろうね」


「はい」五百旗頭は言った。「――ですが、和泉さんは、こう言っていました」


◇


「なんて」


「『二十回くらい出すつもりです』と」


……。


全員が、少し笑った。


「……変わったな、あの人」


「はい」五百旗頭は言った。「――ずいぶん」


……。


「柏木先生とも、話しているそうです」御手洗が言った。「よく、二人で職員室にいるわ」


「へえ」


「――十年、話さなかったのにね」


◇


……。


図書室が、静かだった。


窓から、四月の光が入っていた。


桜は、もう散りかけている。


……。


「――そういえば」


五百旗頭が言った。


「なんだ」


「先週、日下部くんに会いました」


「どこで」


「――職員室の前です」


……。


「何してたんだ」


「わかりません」五百旗頭は言った。「――ただ、『情報収集です』と」


……。


「相変わらずだな」


◇


と。


そのとき。


図書室の扉が、開いた。


「――やあ、みなさん」


日下部だった。


「噂をすれば」


「僕の話をしていましたか?」


「してた」


「光栄です」


……。


日下部は、いつも通り微笑んで、席についた。


「――で、何の話です?」


「進路の話だ」


「ああ」日下部は言った。「僕、決まりましたよ」


「え」


◇


「どこだ」


「――教育学部です」


……。


全員が、動きを止めた。


「……お前が?」


「はい」


「教師になるのか」


「わかりません」日下部は言った。「――ですが、人の話を聞く仕事が、向いている気がして」


……。


「……たしかに」


「向いていますね」


「異論はない」


……。


「みなさん、即答ですね」


◇


……。


「――そういえば」


御手洗が言った。


「なんだよ」


「森本くんの進路希望、どうだったの?」


……。


「担任に、何か言われましたか」五百旗頭が聞いた。


……。


俺は、少し目をそらした。


「……言われた」


「なんて?」


……。


「――『ポエムを書くな』と」


◇


……。


全員が、笑った。


「言われると思っていました」


「ひどいな、担任」


「正論よ」御手洗が言った。


「でも」五百旗頭が言った。「――結局、そのまま受理されたのでしょう?」


「された」


「なぜ?」


……。


「――『書き直すのが面倒だから、これでいい』って言われた」


……。


「あなたの担任、あなたに似ていますね」


「言うな」


◇


……。


そのとき、また扉が開いた。


……。


全員が、そちらを見た。


立っていたのは。


和泉さんだった。


◇


「……あの」


和泉さんは、少し、居心地が悪そうにしていた。


「和泉さん?」


「……すみません」和泉さんは言った。「ここ、生徒の場所ですよね」


「そうですけど」


「では、失礼します」


「――いや、待ってください」


俺は、慌てて言った。


◇


「何か用ですか」


「……いえ」和泉さんは言った。「用は、ないのですが」


……。


「では、なぜ」


「……」


和泉さんは、少し黙った。


それから、小さく言った。


「――誘われたので」


……。


「誰に」


……。


和泉さんは、東海林のほうを見た。


◇


……。


全員が、東海林を見た。


東海林は、本から顔を上げずに、言った。


「……言った」


「いつ」


「……昨日」


「なんて」


……。


東海林は、少し間を置いて。


それから、言った。


「……『来て』って」


◇


……。


図書室が、静かになった。


……。


御手洗が、にっこり笑った。


「――どうぞ、座ってください」


「え」


「椅子、余っていますから」


……。


「でも、わたしは」


「――職員が来てはいけない規則が、ありますか?」五百旗頭が言った。


……。


和泉さんは、少し考えて。


それから、小さく笑った。


「……ありません」


◇


和泉さんは、席についた。


……。


少し、居心地が悪そうにしていた。


でも、帰ろうとはしなかった。


「……皆さん、いつも、ここにいるのですか」


「いますね」


「毎日?」


「――だいたい」


……。


「何をしているのですか」


……。


全員が、顔を見合わせた。


……そして、五百旗頭が答えた。


「――特に、何も」


◇


……。


和泉さんが、驚いた顔をした。


「何も?」


「はい」五百旗頭は言った。「本を読んだり、勉強したり」


「話したり」御手洗が言った。


「文句を言ったり」ミライが言った。


「……ふん」不破が言った。


……。


「――それだけです」


……。


和泉さんは、しばらく黙っていた。


それから、言った。


「……いいですね」


◇


……。


誰も、事件の話はしなかった。


十年前のことも、制度のことも、ゲームのことも。


ただ、どうでもいい話をしていた。


御手洗が世界史の話をして、五百旗頭が数式の話をして、ミライがそれを馬鹿にして、不破が突っかかって、日下部が笑っていた。


東海林は、たまに、短く相槌を打っていた。


……。


和泉さんは、それを、黙って聞いていた。


◇


……。


途中で、誰かが、お茶を淹れてきた。


紙コップに、人数分。


……。


全員に配られて、和泉さんの前にも、置かれた。


「……いいのですか」


「どうぞ」


……。


和泉さんは、それを、両手で持った。


少し、湯気が立っていた。


◇


……。


俺は、その光景を見ていた。


図書室。いつもの席。


五百旗頭。御手洗。東海林。ミライ。不破。日下部。そして、俺。


……七人。


そして。


その隣に、和泉さん。


◇


……。


ふと、思った。


……。


一年前、俺はここで、六人だと思っていた。


実際は、七人だった。


誰も、気づかなかった。


……。


そして、今。


……また、一人、増えている。


◇


……。


俺は、なんとなく、言った。


「――一人、増えましたね」


……。


特に、意味はなかった。


ただ、そう思っただけだ。


……。


でも。


◇


……。


東海林が、本から顔を上げた。


そして、少しだけ、こちらを見て。


……。


小さく、言った。


「……七人目」


……。


それだけだった。


誰も、聞き返さなかった。


……。


でも、五百旗頭が、少し笑った。


御手洗も、笑った。


ミライが、「なにそれ」と言って、笑った。


◇


……。


和泉さんは、意味がわからなかったらしい。


「……どういう意味ですか?」


……。


俺は、少し考えて。


それから、言った。


「――こっちの話です」


……。


「そうですか」


和泉さんは、それ以上、聞かなかった。


……。


そして、お茶を、一口飲んだ。


◇


窓の外で、桜が散っていた。


四月の、なんでもない放課後だった。


……。


誰も、事件の話はしなかった。


ただ、お茶を飲んでいた。


……。


それだけの、時間だった。



(第5巻・完)

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