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恋愛推理ゲーム  作者: SSS
七人目

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108/117

第13話 六時間

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第13話 六時間

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◇


――ここからは、中の話だ。


◇


扉が閉まったとき、最初に思ったのは、思ったより明るいな、ということだった。


窓から光が入る。二月の朝の、白い光。


十年前も、こうだったんだろうか。


いや。あのときは、金曜の夜だった。


……全然、違う。


◇


七脚の椅子が、机を囲んでいた。


一年生が六人。俺が一人。


そして、少し離れた壁際に、和泉さんが座っている。


一年生たちは、明らかに緊張していた。


知らない先輩がいる。事務職員もいる。前回とは、全然違う。


「……あの」


一人が、手を挙げた。


「なんだ」


「森本先輩、でしたよね」


「ああ」


「……なんで、いるんですか」


……。


いい質問だった。


◇


「――説明します」


和泉さんが言った。


「今日は、先週のゲームの、やり直しです」


「やり直し?」


「はい」和泉さんは言った。「ルールは、前回と同じ。七人で話し合い、一人を選ぶ」


……。


「全員が納得しなければ、終わりません」和泉さんは言った。「制限時間は、六時間」


……。


「時間切れの場合は」和泉さんは言った。「――全員、脱落です」


……。


空気が、重くなった。


◇


「――あの」


藤堂が、手を挙げた。


「はい」


「これ、やり直したら」藤堂は言った。「――先週の結果は、どうなるんですか」


……。


「無効になります」和泉さんは言った。「先週のゲームは、なかったことになります」


……。


「じゃあ」藤堂は言った。「――みんなの突破も」


「無効です」


……。


一年生たちが、顔を見合わせた。


◇


「……えっと」


一人が言った。


「じゃあ、俺たち、もう一回、突破しないといけないんですか」


「はい」


「……もし、失敗したら」


「全員、脱落です」


……。


沈黙。


「……なんで、そんな」


……。


その子は、俺を見た。


責めるような目ではなかった。


ただ、困っていた。


◇


「――待ってください」


藤堂が、慌てて言った。


「わたし、頼んでません」藤堂は言った。「森本先輩が、勝手に」


「知ってる」


「え?」


「勝手にやった」俺は言った。「悪い」


……。


「じゃあ、なんで」


……。


俺は、少し考えた。


それから、言った。


「――お前が、納得してなかったからだ」


◇


……。


部屋が、静かになった。


「……納得?」


「ああ」俺は言った。「藤堂が、言ってた。『自分が納得したかは、誰も聞かなかった』って」


……。


一年生たちが、藤堂を見た。


藤堂は、うつむいていた。


「……そうなの?」


一人が言った。


「……」


「藤堂さん」


「……わかりません」藤堂は小さく言った。「でも、たぶん」


……。


「――聞いてほしかったです」


◇


……。


誰も、何も言わなかった。


そして、一人が、ぽつりと言った。


「……ごめん」


……。


「あのとき」その子は言った。「藤堂さんが手を挙げて、正直、ほっとしたんだ」


「……」


「それで、終わるって思って」


……。


「でも、あとで、ずっと気になってて」その子は言った。「……なんで、止めなかったんだろうって」


……。


別の一人が、言った。


「……私も」


「私も」


……。


全員が、そう言った。


◇


……。


藤堂は、驚いた顔をしていた。


「……え」


「気にしてたよ」一人が言った。「ずっと」


「でも、言えなくて」


「ごめん」


……。


藤堂は、しばらく黙っていた。


それから、小さく言った。


「……そうだったんですか」


◇


……。


俺は、その様子を見ていた。


……なんだ。


みんな、悪いやつじゃないんだ。


ただ。


……あのとき、言えなかっただけだ。


疲れていて、追い詰められていて、早く終わらせたくて。


……俺だって、同じことをするかもしれない。


◇


「――さて」


俺は言った。


「今日、もう一回やります」


「はい」


「ルールは同じです」俺は言った。「七人で、一人を選ぶ」


……。


「でも」俺は言った。「――今日は、先週と、条件が違います」


「どう違うんですか」


……。


俺は、指を折った。


「一つ。俺がいます」


「はい」


「二つ。俺は、すでに突破しています」


……。


「だから」俺は言った。「――俺が脱落しても、俺は、何も失いません」


◇


……。


一年生たちが、動きを止めた。


「……え」


「そういうことです」


「じゃあ」一人が言った。「森本先輩を選べば、全員、助かるんですか」


「そうなります」


……。


「……それ、いいんですか」


「いいです」俺は言った。「そのために来ました」


……。


部屋が、静かになった。


◇


……。


十分後。


誰も、口を開かなかった。


……あれ。


おかしい。


すぐ決まると思っていた。


だって、俺を選べば、全員が助かる。


損をする人が、いない。


なのに。


……誰も、言い出さない。


◇


「……どうした」


俺は言った。


「あの」


一人が、言いにくそうにした。


「なんだ」


「……それ、ずるくないですか」


……。


え?


「先輩、何も失わないんですよね」その子は言った。「じゃあ、それって」


……。


「――脱落じゃ、ないですよね」


◇


……。


……あ。


心臓が、跳ねた。


「……たしかに」


別の子が言った。


「これ、脱落した人が、ちゃんと損をするから、意味があるんですよね」


……。


「先輩が損をしないなら」その子は言った。「――誰も、何も、失わない」


……。


「それって」


……。


「――ゲーム、成立してますか?」


◇


……。


俺は、言葉が出なかった。


……そうだ。


その通りだ。


このゲームは、誰かが失うから、成立している。


全員が納得しなければ終わらないのも、失うものがあるからだ。


……俺が入ると。


その構造が、壊れる。


「……和泉さん」


「はい」


「これ、どうなるんですか」


……。


和泉さんは、少し考えて。


それから、言った。


「――ルール上は、成立します」


◇


「え?」


「制限時間内に、全員が納得して、一人を選ぶ」和泉さんは言った。「それが条件です」


……。


「森本くんが失うかどうかは、条件に含まれていません」


……。


「じゃあ」


「はい」和泉さんは言った。「――形式的には、問題ありません」


……。


「でも」和泉さんは言った。


少し、言葉を選ぶように。


「――納得できるかどうかは、別です」


◇


……。


その通りだった。


形式は満たせる。


でも、それでいいのか。


「……あの」


藤堂が、手を挙げた。


「なんだ」


「わたし、思うんですけど」藤堂は言った。


……。


「――森本先輩を選ぶの、嫌です」


……。


◇


「なんで」


「だって」藤堂は言った。「――それ、わたしが、助けられただけです」


……。


「先週、わたしが手を挙げたとき」藤堂は言った。「みんな、ほっとしました」


「……」


「今日、先輩を選んだら」藤堂は言った。「――わたしたちも、同じことをします」


……。


「誰かが犠牲になって、ほっとする」藤堂は言った。「……それ、先週と、何も変わらないです」


◇


……。


部屋が、静かだった。


……こいつ。


……こいつは。


「……じゃあ、どうするんだ」俺は言った。


「わかりません」藤堂は言った。「でも」


……。


「――ちゃんと、話したいです」


……。


「先週は、話せませんでした」藤堂は言った。「みんな、疲れてて、早く終わらせたくて」


……。


「今日は」藤堂は言った。「――時間、たっぷりあります」


◇


……。


一年生たちが、顔を見合わせた。


そして、一人が言った。


「……そうだね」


「うん」


「話そう」


……。


……。


俺は、椅子に座り直した。


……なんだ。


俺、いらなかったかもしれない。


◇


そこから、六時間の話し合いが始まった。


……いや、正確には、五時間半だった。


内容は、書かない。


誰が何を言ったか、どんな事情があったか。


それは、あの七人のものだ。


……ただ、一つだけ書くと。


途中で、何度も、行き詰まった。


誰も譲らない場面もあった。声が大きくなったこともあった。


一人が泣いた。


……そのとき、和泉さんが、初めて動いた。


◇


泣いた子のところに行って、隣に座った。


何も言わずに。


ただ、そこにいた。


……そして、少しして、こう言った。


「……大丈夫ですか」


……。


それだけだった。


ゲームには、何も関与していない。


判定もしていない。


……でも。


十年前、この部屋で、誰もそうしなかった。


◇


十五時三十分。


結論が出た。


……その内容も、書かない。


ただ、一つだけ。


――俺は、脱落しなかった。


◇


扉が開いたとき、外の光がまぶしかった。


非常階段の下に、六人がいた。


五百旗頭が、立ち上がった。


「――森本くん」


「おう」


「……どうでしたか」


……。


俺は、少し笑った。


「終わったよ」


「結果は」


……。


俺は、後ろを見た。


一年生たちが、出てくる。


六人。


……全員、いる。


そして、その中に、藤堂もいた。



(第13話 了)


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