第12.5話 外で待つ人たち
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第12.5話 外で待つ人たち
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◇
やり直しは、翌週の土曜日に決まった。
他の五人への確認は、和泉さんがやることになった。
「――断られたら、どうする?」
図書室で、俺は言った。
「そのときは、そのときです」五百旗頭が言った。
「そうだけど」
「断る理由は、少ないと思います」五百旗頭は言った。「彼らは、すでに突破しています。やり直しても、失うものはありません」
……。
「でも、六時間だぞ」
「はい」
「もう一回やるのか」
「――そうですね」五百旗頭は言った。「それは、嫌かもしれません」
◇
結果は、三日後に出た。
「――五人とも、了承しました」
和泉さんが、放課後の図書室に来て、そう言った。
「本当ですか」
「はい」和泉さんは言った。「全員、即答でした」
……。
「意外だな」
「わたしも、そう思いました」和泉さんは言った。「ですが、一人が、こう言いました」
「なんて」
和泉さんは、少し、目を伏せた。
「――『ずっと、気になっていた』と」
◇
……。
「あの子たち、藤堂さんのことを、気にしていました」和泉さんは言った。「でも、どうすればいいか、わからなかったそうです」
……。
「終わったあと、誰も、声をかけられなかったと」和泉さんは言った。「――『ありがとう』しか、言えなかったと」
……。
……そうか。
あいつらも、あいつらで。
何かが、引っかかっていたのか。
◇
「――で、当日ですけど」
俺は言った。
「はい」
「俺、何をすればいいんですか」
……。
和泉さんは、少し驚いた顔をした。
「……ご自分で提案したのでは?」
「提案しましたけど」俺は言った。「――やり方は、考えてません」
……。
五百旗頭が、頭を抱えた。
「森本くん」
「なんだ」
「あなた、いつも、そうですね」
「そうか?」
「そうです」五百旗頭は言った。「勢いで動いて、あとで困る」
……。
否定できなかった。
◇
土曜日の朝。
集合は、九時だった。
旧校舎の前に、俺たちは集まっていた。
俺、五百旗頭、御手洗、ミライ、不破、東海林。
そして、日下部もいた。
「……お前、来たのか」
「来ましたよ」日下部は微笑んだ。「僕は、参加しないと言っただけです」
「同じだろ」
「違います」日下部は言った。「――見に来ました」
……。
こいつ。
相変わらず、よくわからない。
◇
「――で、俺たちは、どうするんだ」
不破が言った。
「外で待ちます」五百旗頭が言った。
「それだけか」
「それだけです」
……。
「なんだ、それは」不破は不満そうだった。「役に立たんではないか」
「役に立ちます」五百旗頭は言った。「――外に、誰かがいるということが、重要です」
……。
「十年前、外には、和泉さん一人でした」五百旗頭は言った。「今回は、六人います」
◇
九時。
一年生の六人が、集まってきた。
藤堂もいた。少し、緊張した顔をしている。
他の五人は、俺たちを見て、驚いていた。
「……あの、先輩たちは」
「見学だ」俺は言った。「気にするな」
「はあ」
……。
そして、和泉さんが来た。
「――では、始めます」
和泉さんは、鍵を開けた。
◇
「森本くん」
「はい」
「あなたも、中へ」
「……はい」
俺は、部屋に入った。
机が一つ。椅子が、七脚に増えていた。
そして、部屋の隅に、もう一つ。
和泉さんが座る、椅子。
「……それでは」和泉さんは言った。「――始めましょう」
扉が、閉まった。
◇
ここからは、外の話だ。
……あとから、聞いた。
◇
五百旗頭たちは、非常階段の下に座っていた。
二月の朝は、寒い。
「……長くなりますね」御手洗が言った。
「六時間です」五百旗頭が言った。「前回と同じなら」
「六時間」
「はい」
……。
「何をして待つの?」
……。
誰も、答えられなかった。
◇
十時。
五百旗頭は、ノートを広げていた。
「何やってるの」ミライが聞いた。
「計算です」
「何の」
「話し合いの、パターンです」五百旗頭は言った。「七人で一人を選ぶ場合、どういう展開になるか」
……。
「それ、意味ある?」
「あります」五百旗頭は言った。「――もし、森本くんが失敗したときに、次の手を考えられます」
……。
「失敗するの?」
「わかりません」五百旗頭は言った。「ですが、あの人は、計画を立てるのが苦手です」
……。
ミライは、少し笑った。
「……たしかに」
◇
十一時。
御手洗が、鞄から本を出した。
「何読んでるの」
「歴史の本よ」
「こんなときに?」
「こんなときだからよ」御手洗は言った。「――落ち着くの」
……。
「何の話?」
「フランス革命ね」御手洗は言った。「バスティーユが襲撃されたとき、中にいたのは七人だけだったの」
「七人?」
「そう」御手洗は言った。「囚人が、七人」
……。
「意外と少ないでしょう?」
「うん」
「でも」御手洗は言った。「――外には、数千人いたのよ」
……。
ミライは、少し黙った。
それから、言った。
「……今と、逆だね」
「そうね」御手洗は言った。「――今は、中に七人。外に六人」
◇
十二時。
不破が、立ち上がった。
「どこ行くの」
「昼だ」不破は言った。「何か買ってくる」
「え、いいの?」
「腹が減っては、待てん」
……。
三十分後、不破は大量のパンと飲み物を抱えて戻ってきた。
「……多くない?」
「中の連中の分もだ」不破は言った。「終わったら、腹が減っているだろう」
……。
ミライが、じっと不破を見た。
「……なに」
「いや」ミライは言った。「――あんた、けっこう、いいやつだよね」
「当然だ」
……。
「ただし」ミライは言った。「――口説かないけど」
「口説かん!」
◇
十三時。
東海林は、ずっと同じ場所に座っていた。
動かず、二階を見上げている。
「……東海林さん」
御手洗が、声をかけた。
「……ん」
「寒くない?」
「……平気」
……。
「あの」御手洗は言った。「――怖い?」
……。
東海林は、少し黙った。
それから、言った。
「……ん」
「そう」
「……森本、無茶する」東海林は言った。「……いつも」
……。
「でも、今回は、みんな見てるわ」御手洗は言った。
……。
東海林は、少しだけ、頷いた。
「……そうだね」
◇
十四時。
日下部が、ふらりと戻ってきた。
「どこ行ってたの」
「事務室です」日下部は言った。「柏木先生と、話していました」
「柏木先生?」
「はい」日下部は微笑んだ。「――今日のこと、ご存じでした」
……。
「和泉さんが、話したそうです」
……。
「え」
「昨日、初めて」日下部は言った。「――十年ぶりに」
……。
全員が、動きを止めた。
「……何を話したの」
「わかりません」日下部は言った。「ですが」
日下部は、少し目を細めた。
「――柏木先生、泣いていました」
◇
十五時。
二階の窓に、動きはない。
声も、聞こえない。
「……静かですね」
「はい」
「話し合ってるのかな」
「たぶん」
……。
「ねえ」ミライが言った。
「なんですか」
「もし、決まらなかったら?」
……。
五百旗頭は、少し黙った。
「――全員、脱落です」
「森本も?」
「森本くんは、すでに突破しています」五百旗頭は言った。「――ですが」
……。
「ですが?」
「――あの人は、たぶん、そういう終わり方を、許さないと思います」
◇
十六時。
日が、傾き始めた。
誰も、口を開かなくなっていた。
ただ、待っていた。
……。
と。
二階の窓に、明かりがついた。
「……あ」
全員が、立ち上がった。
……。
そして。
非常口の扉が、開いた。
(第12.5話 了)




