第八話 日本編 カーラ奪還作戦 イノ退場!?
「ここが絶対に出れない刑務所二十四時か」
「極力喋らないようにって言ったでしょ?」
右の耳元からシェールの声が聞こえてくる。小型スピーカーをつけているからだ。
「ごめーん」
「はあ……喋るなって言ってるよね?」
俺はまたしても声を出してしまった。それも少し大きな声で。
「まずい、一旦そこから逃げて!」
なに!?俺はすぐに踵を返す。これだけは命令されていた。逃げる時だけはマッハの速度で、と。
ここにくるまでにどんな茨の道があったと思う?その前に追っ手がくるぞ。
「あれを使いなさい。あなたにはあれがあるでしょ」
そうか、そうだ。今の今まで忘れていた。
『瞬足』
瞬足とは――靴と足の幅を極限までゼロにし、完全密着することにより足のバネを強化するという技である。ちなみに最高時速は六〇kmである。
俺は靴についてるボタンを押す。一瞬で速度が自動車を超える。
「そこを左よ!」
ハアハアハア、久しぶりに運動をしたら酸欠になりやすいな。昔はもっと楽だったのに。
「追っ手はきていない、一回休憩してくれて構わないわ」
こんな状況だからシェールの言葉が標準語に近くなっていて聞き取りやすい。にしても、広すぎないか?まだここは刑務所の敷地内だぞ。
「ブラフだ……」
声を聞くだけで落胆していることがわかる。ブラフ?なにそれ美味しいの?
「これは罠だ!この敷地全体が罠として機能してると考えてくれ」
俺は前に向かってグッドサインを送る。
「そうだよ、なんのための映像共有なんだよ。行動で見せてよ。君が喋ったから警備員に見つかったんやで?頼むわ、ほんま」
うわあ、確かに!全く気づかなかった。
「そろそろいける?」
俺は首を横に振る。あともう少しは休んでおかないとあとで辛い思いをする気がする。
「せやんな。じゃあ、あと一分三十二秒ね」
だんだんと体が落ち着き始め、一分三十二秒後には完全復活していた。
俺はそうだそうだと思い出して、一枚の紙を取り出す。
「お前預言者か?」
やっと筆談を始めた。
「そういえばそんなの渡してたな。違うねんな、私が預言者ならこの未来も想像できたはずでしょ?」
俺は確かにの意味を込めて、うんうんと頷く。
「それじゃあ、作戦に戻るで。まずは警備員を倒すのは不可能だから。一番被害の少ない西門へと向かってもらうで」
慣れてきたのか、少しずつ訛りが濃くなっていく。
うわあ、めちゃくちゃ警備がいるな。
「そいつらは問題ないで、ゴーグルにハッキングして違う映像見せてるから」
まじか、こいつ。俺は恐る恐る陰から飛び出す。ほんとだ。
「すげえ」
俺は声が出てしまった。
「黙れ、一回退け。バレる前に!」
はい!退きます退きます。ふう、なんとかなったか。
「全然なんとかなってないのよ。もう今の道は使えんで、迂回してもらわなあかん」
心の中が見透かされてる?
「はっきり言って、ここまでは想定内よ。これ以降は保証できない」
え、あれ?迂回ルートってもしかして……ここ?俺は指を指す。
「そうよ、まあ問題ないでしょ。前進あるのみやで」
仕方ない、進もう。目の前にはまずゴミだらけの景色が広がる。足を踏み出せば足場が崩れる。そしてなんといっても臭いが強烈だ。
「まあこれだけなら簡単でしょうね、今の臭いが彼らに届いたらどうなると思う?」
どうなるって、まさか……
「そうやで、追いかけてくるんやで。さあ、瞬足を使ってみな」
『瞬足』
そう言ったもののコマンドは不発。俺はここで瞬足を使うのはまずいと思った。俺は自力で足を前に進んでいく。
「私の合図でしゃがめ!三.二.一……今だ!しゃがめー!」
話口調的に従わないとまずいと思った俺はシェールに従う。
『バァーン‼︎』
すると、強烈な爆発音と共に俺の頭上を何かが通った。それはそのまま進んでいき、ゴミの山を貫通していった。
ストロガン!?しかも、俺の心臓を完璧に狙われていた。もし、しゃがんでいなければ一瞬でお陀仏だった。
ストロガン――拳銃が進化し、簡易化されたもの。人が使うとなるとまだまだ反動があり、一瞬の硬直がはいる。
「なに!?今ので映像が途切れた。壊れてはいないが映像がやられてしまった。もう筆談はできない。私の指示に黙って従ってもらう」
焦りがない。なにより、状況把握が早すぎる。そんなことを考えながら、俺はまた走り出していた。それをみて警備員は俺を追う。もう一人もストロガンをしまい追走する。
「そのまま進んでくれ、その前にこれをやる」
目の前から鼻栓が落ちてくる。
「テンキュー!」
俺は鼻に突っ込み、一瞬物陰に隠れる。
『瞬足』
この状態なら使えるだろ。
「鼻栓したらショートするぞ!」
そんなの関係ない、どうせこのまま追い付かれるなら俺は逃げて自爆するぜ。
「まあそうやんな」
意外と冷静な返しに俺はびっくりする。最短距離で駆け抜ける。
「あの青いのを左や!」
あれか、了解。あんなわっかりやすい標識があるのか。ありがてえ。
あれ?意識が朦朧としてきた……
何かが鼻から飛び出す。
「限界か、ただ実質ドーピングできるだろ」
そのつぶやきと同時に鼻に強烈な臭いが入ってくる。これは……ゴミの臭いか。なんとか意識が戻った。
まだ舞える、まだ舞えるぞ俺。
だが、限界はきていた。俺は角を曲がったところで気を失ってしまった。
「予定通りだ」
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