第六話 シフト・デスティニー
「ここが……一年前の地球……」
俺は唖然とする。地球が火の海になったことが嘘に思えてくる。だって俺たちがたどり着いた場所が地球だから。
「搭乗口で立ち止まらんといて。早く地面に着地してよ」
カーラはそう言って俺を押し出した。驚きのあまり景色が見えたところで止まってしまった。
「イダッ」
地面に横たわってしまう。それにしても、ひぐらしの鳴き声がよく聞こえる。水平線に夕日が綺麗に沈んでいる。
これが我が故郷か。ほんとうに無くなったのが信じられない。やはり、俺たちはここで未来を変えなければ。
「ここがかつての地球か。なんも変わってないね」
『一年だけでは何も実感は湧かないだろう。だけど、あれを見てくれ』
降りてきたくまさんに言われるがまま空を見上げる。
「あれは……。なんだっけ?」
急にド忘れしてしまった。俺も昔どこかでこれを見た記憶があるのに。
「あれは百年に一度行われる追悼の儀だよ。確か追悼される人の名前はアンディール・ニロスッタだ。これは絶対に去年に行われた!」
またニロスッタ一族か。もう名前が多すぎて覚えられないよ。
「二〇六〇年、って私の時計には表示されてるで?」
マルの言葉でみんなの視線は各々の時計に集まる。
『その時計はもう使い物にならないから、新しいものを渡そう』
あれ、今誰が言った?てかくまさんはどこへ……
「あんただれや!もしかして今の会話聞いてたんちゃうやろな?」
『何を言ってるんだい、私はさっきのくまさんだ。ここではワトソンと呼んでくれるかい?』
見た目はどちらかといえばホームズだが……。
「わかったよ、じゃあワトソン。私たちはここで何をしたらいいの?」
カーラの質問にワトソンは急に真面目な口調で話し始める。
『その前に一つ大事なことを言おう。君たちは現状、二十一世紀最大の犯罪者だ』
一体どういうことだ……?
「もしかして、過去に戻ることは犯罪……なのか?」
シーナが少しの動揺を見せる。つまり、何かやばい。
『だって君たちはいま、人間として二人存在する!つまり、そういうことだ』
「なんだよそれ!俺たちは命を狙われる身になるってことか?」
それじゃあ未来を変えるなんて言ってる場合じゃないじゃないか。
『問題はそこじゃないんだ。過去の自分が死ねば、今の自分も死ぬことになる』
「でも過去を振り返る限りは命の危険はここ一年感じてないぞ」
それはジョナだけだ。俺は一つ思い当たる節があるんだよ……
『ただ私たちは今から未来を変える。少しずつ未来をいい方向に持っていく必要があるんだ。つまり、過去が変わってしまう』
てことは、過去の自分も実質現在進行形になるのか。
「もし自分に会ったらどうなる?」
確実に今後の問題になるであろう点についてシーナが質問する。
『どちらかが死ぬ、ということが考えられる』
「一体どうやってこんな状況で未来を変えるんだ!私たちじゃ……力不足だよ……」
カーラ……
元の世界に戻れるなら戻りたい。今更だと言われても足掻き続けたい。未来なんてこれっぽっちの人数じゃ……
『一度落ち着いて欲しい。時がくればシェールが教えてくれる。少なくとも今よりもいい未来が待っていると』
「元の世界には戻れるんだろうな?」
俺たちはだんだんワトソンに対して口が強くなる。
『戻れるが、未来は変わっている。そして、ここには帰ってこれない。往復切符は一枚しかない……』
「つまり、未来を確定させてから戻らないと地球は帰ってこない……」
俺はジョナの言葉で一旦冷静になる。
「俺たちはやるって決めたんだ!グループ名だって決めた。命をかける価値は……あるだろ」
最後は自信なさげに呟く。
「そうだな、やっぱりお前の方がリーダーに相応しいかもな」
「立ち止まってたら何も進まない。一回僕たちも体制を整えましょう。それではワトソンさん。僕たちの住処に案内してください」
確かにもう夕方だ。時間はまだまだあるさ。一回今日は落ち着こう。
ーータイムリミット残り三六四日と八時間
――
「いやあ、意外といい部屋だね。お風呂も綺麗だったし」
カーラ……なのか?すっぴんだと印象は変わるが、それでもやはりめちゃめちゃ可愛い。
「こんなにくつろぐ時間はあるのか?リーダーとしては早く作戦でも立てたいんやけど」
あれ?まだこいつってリーダーだったんか。
『そうですね。でも、少しの間は動くことができません。作戦はもう考えてあるのでこれに従っていただく必要がありますから』
『作戦名:シフト・デスティニー』
やっぱりこういうのだよな。名前はかっこいいほど唆られる。
『まずは日本のAIを滅亡させる。これが失敗すれば次はない』
日本……か、ここが日本なのか。
「滅亡?何言ってるんだ……僕たちはAIとの共存を目標にしてたんじゃ……」
そうだ言われてみれば滅亡させるのは違うんじゃないか?
『目的を履き違えるな。共存なんて二の次だ。最優先事項は人類の保守だ』
いや、それはおかしい。
「人類は途絶えてないんじゃないの?」
そうだ、そうだよ。カーラのいう通りだ。
『あの戦争の結末は私たちが過去に来る前にネット記事にはこう記されている。AIが人類を滅ぼした。と』
少し俺の言葉には怒りがのる。
「じゃあ、なんでAIは一般人を逃がした?AIは賢いんじゃなかったのか!そんなのまるで、無意味じゃないか……」
『いや、それが真偽ははっきりしていないんだ。記事を見ることができたのは私たちだけだったから』
真偽がはっきりしていない?よくそんなことを言えたものだ。
『過去に行く前にと言ったが、私のプログラムは親が死んだ時点で命令が下される。過去にきたのはプログラムのタイムリミットがきてしまったからなんだ』
「じゃあ、これ以上の事実確認は、取れない……」
ジョナが呟く。
俺たちは、知らない未来を変えようとしていた。
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