第五話 二十五代目の人類
「最初の一文を読んであげるよ。『かつて人類は、アズリアという星に住んでいた。』」
初めて聞いた星な気がする。にしても、始まり方が壮大だな。
「なに言ってるんや?これは一体……」
シェールが少し小さい声を出す。少し冷静さを失ったのが伺える。
「いや、私これ読んだことある気がしてんけど……」
何かを咄嗟に隠したような言い方をする。苦しい言い訳にしか聞こえない。
「この本は同じ題名のものが他にもある。それはあるネット噂になっただけだけど。ある未来から来たという人の書き込みだった」
ほんとうか?と思うような内容も、シーナが言えば嘘から遠くなる。
「僕も聞いた事あるぞ?でも、結構すぐ消えたから覚えてへんわ」
ジョナも聞いたとなればより本当に近くなる。
「未来人の名前はニコラスと言ったはず……。あまり記憶にはないが、確か書き出しの冒頭は『かつて人類は一度滅ぼされた』で始まったような気がする。結局そのスレッドはサイト主によって一時間も経たずに消されてしまった」
シーナの新たな情報開示により、一瞬、カーラの顔が歪む。
「私その書き出しをどこかで見た気がする。けど、すぐには思い出せへんわ」
思い出してないとは言っても、このありきたりな文なんていつ見たって不思議ではない。
「でも、その後の文なら思い出せるで。『今の人類は二十五代目である』」
あれ、それやと前文と合致しなくないか?俺の疑問をマルが言葉に乗せてくれる。
「この話について、私何も知らないけどさ。一度滅ぼされたって言ってるのに二十五回はおかしくない?」
『それについては私が説明致しましょう。人類は一度滅びたあと、新たな人類『アズリアン』としてこの世に生を受けた。そこで滅びたはずの『アース人』の遺跡が見つかり、人類が滅亡しないための実験を行うようになった。』
それだとズレが生じないか?
「今の話だとアズリアに住み続けているということになるけど、ほんとうにその話、合ってる?」
そうそう、言語化できなかったから助かったよ。シーナくん。
『そうだ、だから歴史は面白いんだよ。遺跡が見つかったという証拠は出ている。だけど、アズリアという星は現存しないんだ』
「でも、アズリアンという名前をつけたのは近代の学者だろ?なくて正解なんじゃないのか?」
『そこも面白いところだよ。実はアース人の時から英語が存在していたんだ。今でも解読できるレベルの』
なんだかよくわからない方向に発展しているような……。
「俺にもわかるように教えてほしいんだけど……」
この言葉にシーナがすかさず合いの手を入れる。
「えっとね、つまり岩などに先代たちが英語で書いたものが今も残っている。そして、それを元に歴史の書を作ったんだよ。わかったかい?」
俺は大きく頷く。
『そして、そのあとずっと実験は続いていき二十四回目で成功を収めた人類は一代目をアース人とし、二十五代目の人類となったというわけさ』
「ごめん、よくわからないけど俺たちは二十五代目の人類ってことだけわかっておけばいいってことか?」
『それでいい。今、詳しく話すことではないからな。そろそろ本題に入ってもいいかい?もう予定より三〇分二十三秒も遅れてるから』
すげえこいつ細かいな。俺とは大違いだな。
「そうやな、じゃあ話を戻そう。ところで過去にいきたないって僕たちが言い出したらどうすんのや?」
『その可能性は考えていない。だって君たちに帰る場所はないだろ?つまり、過去に行くしかないんだよ』
避難した人らがどこにいるかわからない限り、どこにも帰る場所がないってことか。
「そろそろ過去に行こうか。なんたって、私に退く道なんてないから」
シェールの顔は勇気に満ち満ちていた。だが、少しの唇の震えを俺は見逃さなかった。
俺はシェールとは違って親と呼べる存在がいる。だから行くのが少し怖い。そんな気持ちがあった。
「地球を救って英雄になろう。いつものイノならそう言ってたやん。行くしかないやんな?イノ」
「そうだな、行くしかないよな?カーラ」
俺はカーラにパスを回す。正直言っていまは英雄になるって言い切る自信はなかった。
「そうだねって言いたいところだけど、いつまでもこんな狭いところにいたくないわ。一回ラウンジに戻りましょ」
俺たちが次に戻ってくる頃には青い星のままの未来であってほしい。
『さよなら、俺の故郷よ』
俺はアースに向かって最後の挨拶をした。
今回も順番に部屋を出ていくが、やはり最後に出るのはシェールだった。
――
「今から多数決を取る!一生ここに残りたいやつは手を挙げろ」
そういえばさっき何か大事なことをくまさんが言っていたような。
「ジョナくん、ちょっと待って。私たちはまだなぜこの六人が選ばれたかを聞けてないじゃない」
あー!それだー、俺もそれ聞こうと思ってたのに忘れてた。なんだかマルに先を越された気がして仕方がない。
『それは簡単だよ、君たちはAIによる支配を受けていないからさ。今は地球に全勢力を注いでいる。そこでだ、ここニロスッタに人類は今いないだろ?清掃日だから。だから、AIの支配が届いてないんだ』
「AIによる妨害を受けずにプログラムはここまで届いたのはそのせい――」
シーナの言葉が遮られる。
「誰か僕の話聞けやー!リーダー無視すんなよぉ」
こいつの立ち位置はこれで決まったな。
「それじゃ、あ、今から多数決を取る!俺と一緒に過去に行くやつは手を挙げろー!」
「おー!!」
みんなで拳を上に上げる。あれ?
「シェールいなくね?」
最初に気づいたのはカーラだった。するとくまが急に自我を出してくる。
『シェールは操縦室を出たところで単独行動へと移ってもらった。これは私の独断だ。だが、彼女の判断でもある』
『あと謝らないといけないことがある。実はもう、ここはニロスッタじゃない』
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