第十七話 日本編 カーラ奪還作戦 飛翔
俺はシェールに止められる。腕を掴まれ、身動きが取れない。抜けだそうにも力が強すぎて簡単にはいかないだろう。
「どけ、俺はお前を殺すんだ……」
俺は初めて殺すと口にした気がする。憤怒の情がここまで登ってきたのも初めてだ。俺はもうシェールしか眼中になかった。
「なぜシェールを殺そうとしてるんだ?彼女は地球の未来を救うためには必須の人員だぞ。どうしてなんだ!」
ジョナがマルと一緒に俺に近づいてくる。それに気を取られたシェールの力が少し緩む。今だ!可能性はゼロ。この言葉を今から否定しよう。
「やめろ、バカ!死ぬぞ……」
俺はそんなのは耳にしなかった。集中しすぎて五感が機能しない。シェールを振り払った後、即座に足に手を添える。
『飛翔』
俺は何度だって試みる。なぜだ!なんで……なんで使えないんだ……
あ、やばい意識が朦朧としてきた。特に何かをしたわけでもないのに、なんで。空が綺麗に視界に映る。こんなにも世界は美しかったのかと実感する。その対比として俺の今の心が脳内に現れる。そこで意識は途切れた。
――
「おはよー」
俺の視界に映ったのは高い建物に囲まれた夜空。そして、オリジンの仲間たちだった。聞こえた声は……シェールか。
「さあ、気張っていくで。今からが作戦の本番なんだから、イノ早くたって!」
なぜこんな対応ができる?俺は寝ていたんだぞ。きっと何時間もの間。
「なんでこんなにも早く起きたんだ?お前は……」
シーナが俺に疑いの目を向ける。真剣な眼差しをしていて、考え事をしているように見えた。今更になって俺は違和感を覚える。
「ここに警備員はいないのか?俺たち以外に誰もいないのか?」
閑散とした景色で、俺たち以外に誰もいない。夜だからなんて理由は、刑務所には存在しない。
「もし、この敷地全体がブラフだったら?って考えたことある?」
ブラフ……嘘か。この敷地全体が、偽物だったと仮定する?
「そんなわけないじゃないか?現に僕たちは警備員に追いかけ回されたじゃないか」
シーナの言葉にみんなは頷く。あの時は大変だったなと過去を振り返る。でも、何かおかしな点はたくさんあった。何がかはわからない、直感的なものだが。
「今から私がいうことを信じてくれるやつはこの中に何人いる?」
俺は断じてない。でも、それ以外はみんな手を挙げる。わかっていたさ、俺だけがシェールの裏を知っている。まだ、みんな彼女の手のひらの上で踊っているバレリーナだ。
「ここの施設は唯友刑務所ではない。そして、私はそれをわかっていた」
は?俺は起きたばかりの体を起こして一発殴りに行こうとする。
「君の考えてることはわかる。でも、今はちゃんと話を聞こう」
シーナが俺のことを止めてくれた。もしこのまま殴りに行っていたら俺は……タコ殴りにされたのだろう。
「でも、ここまでは計画通りなんだ。今から本当の刑務所に向かってもらう。説明は随時することにする」
こんなこと誰も信じるわけがない。だって、俺たちはこんなにも痛い目に遭わされたんだ。
「僕は信じるよ、みんなは信じないの?」
シーナ!?一番論理的に考えるシーナがなぜ信じる?はっきり言って、俺の中の信じる順位で一番下に位置をしていた。
「僕は信じれんな。イノの味方につくわけでない。だが、今のを聞いただけではなんの信用も得られない。僕たちは何回も死にかけてるんや。そう簡単に信じるわけにはいかんで」
俺の味方にはなってくれんかったか。けど、状況は良くなった。
「まあいいや。どちらにせよ君たちにはカーラを助ける理由が存在するからね」
どれだけ私を疑おうとカーラを救う気持ちは変わらない、的なことを考えてるんだろうな。
「マルとジョナには僕から説得しておくよ。ちゃんとあのことは言わないから」
なぜ俺に聞こえるように耳打ちをした?もしかしてわざとか……シーナがここで重要なことを俺に話す必要はないよな。
「じゃああとはよろしく。私はイノに話があるから」
俺に?話がある……。こ、ころされるー。複製AIで何事もなかったことにされるー。
「あれ?」
俺は逃げ出そうとした。けど、足を動かせなかった。誰かが俺を固定しているのではと思った。周りには誰もいない。前にシェールが立って、微笑んでいるだけ。
「一体どういうことだ!キサマ何をした!」
確実に小細工をされた。こんな経験したことなかったから。
「あのね、今から君には真実を教えてあげる」
く、くるな。こっちにくるなー!心の中でずっと叫ぶ。顔には出ないように、怒りを隠しながら。
「なんでさっき、飛翔が使えなかったと思う?」
俺は今の言葉で我に帰る。確かに、飛翔は発動率が八〇%だと言われている。あとは、クールタイムがあるはずだ。
「さらに聞くけど、なぜ何回もタップできたと思う?」
そういえば、俺は怒りのまま何回もタップしていた。本来なら制御装置が発動して二回押すと、緊急モードに変わるはずだ。
「機械は水に弱い……」
俺はそう呟いた。なぜそんなことを口走ったか、それは最後のトラップを思い出したから。
「そうだよ、じゃあ君の靴がどうなったかなんて見当がつくやんな?」
故障していたのか。いや、一部が故障か?
「今の時代は機械も水に強い。何か大事なところが故障してしまったのか?」
本来は水による被害を受けない。だが、小さい部品はいまでも壊れたりする。
「そうだね、君は一度大きな足の怪我を負った。何か覚えているかい?」
俺は昔、大怪我を負ったことがあった。それも、飛翔を使おうとして……
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