第十六話 日本編 カーラ奪還作戦 合流
「そろそろ罠がくるから、気をつけてね」
この言葉のおかげである程度は警戒ができる。意味のない警戒の可能性もあるが、たまにはシェールの言葉を信じてみよう。焦っていてはよくないからね。
「さあ、そろそろくるんじゃないの?」
シェールが言ってから一分は経った。そろそろ来ないともっと彼女への信頼がなくなってしまう。今ですら地面スレスレなのに。
「うわあ」
またしても上から何かが飛び出してきた。俺たちは構える。目を閉じて、口と鼻も塞ぐ。ただ、耳は塞ぐことができなかった。
「え、何これ」
水か?いや、なんだ?ベトベトはしない。罠が終わる頃には体がびしょ濡れになっていた。服は重く、靴にも水が染みていた。
「あら、罠にかかってしまったようだね。まあ、これも運命だよ」
あいつはこれを避けたのか?いや、発動自体しなかった可能性もあるな。結局、シェールは全ての罠を知り尽くしていた。もしかしたら、カーラとシェールはグルなのかもしれない。明らか刑務所に行くのも早すぎるし。
「カーラはお前の仲間か?」
俺は画面越しにシェールを詰めていく。もし、仲間だとしたら完全に嵌められたことになる。それは悔しいんだ。少しノイズが混じり、空気が瞬間的に固まる。
「いやあ、それはないんじゃない?」
今の空間とは裏腹に間抜けな声で回答が返ってくる。しかもどちらの可能性も置いたままだし。
「とりあえず私は着替えがほしいんだけど……」
着替えがない、そんなのは当たり前の話だ。俺はマルに視線を向ける。
「ぴ、ぴんく……」
俺は思ったことを口にしてしまった。そのことに気づいた頃にはもう、頬が赤くなっていた。それは、照れではない。ビンタを喰らったからだ!
「ごめん、悪気はなかったんだ。どうしても服に目がいっちゃってさ」
いくらマルでも女の子らしい下着を着ているんだな。そう感じながら心のこもっていない謝罪をする。
「まあこれで罠はもうなくなったから、こっちに合流するといいで」
なるほどねえ、この罠は結局人を殺すことをしなかった。人間もAIも平気で嘘を吐く。自分を棚に上げたいわけではないが、俺の吐く嘘は優しい嘘だぜ?
「どうしようもないし、進もうよ。この先にみんないるらしいしさ」
そうかあ、またシェールに会わないといけないのか。やっぱりこいつに単独行動をさせた時点で怪しかったよな、正直。てなったら、もしかしてワトソンもグルってことになるんじゃあ、ないか?
「そうやなあ、呆気なかったけど?これで一旦脱出ってことだよな?」
俺たちはゴールへと向かって歩き続ける。そして、赤いゴールへと到着した。
「懐かしいなあ、あれって最初の罠やろ?やばいわ、なんか俺、感動してきた」
スタートから見えた景色を今はゴールから見ている。なんていい景色なんだろう。
「みんなのところへ行こう」
マルは俺の手を引っ張って扉の下へと連れていく。扉を開けた瞬間の光景は一瞬で脳裏に焼きついた。
「なんだこれ、同じ建物が四方にあるぞ。しかもでっけえ」
もし俺がコナンに出てくる元太なら、この建物は壊されることになるだろう。だが、それでも壊れないという意思がバシバシと伝わってくる。
「あ、ジョナじゃん。久しぶりー!会いたかったよー」
マルは俺の手を引き剥がし、ジョナに抱きつきに行った。あれ?これってもしかして……案の定、ジョナは俺のことを睨みつけてくる。
「なんであいつと手を繋いでたのー?」
優しい口調でマルに聞くけど、顔は笑っていない。し、言葉も怒りで満ち満ちている。
「イノが手を繋ぎたいってゆーからさ。仕方なくだよ、ほとんどパワハラだよー」
あ?やっぱこいつといたら俺の人生が不幸になっちまうぜ。
「あとで詳しく話そうねー。嘘ついたらどうなるか、覚悟しててねー」
こいつは理解できるやつだ。でも、マルがいるとおかしくなっちまう。俺はあとでぶん殴られるんだろうな。全てを否定されて。
「二人ともよく生きてくれた。ここまでは予想通りだよ」
シェール!俺は早くこいつを始末しないといけない。こうなったら秘技を使うか?もし、ここで披露をしてしまえば今後に悪影響を及ぼすだろう。ただ、ここで殺りきってしまえば……
葛藤が俺の中で起こり始める。いや、迷っている暇はないぞ。俺!覚悟を決めるんだ!
『覚悟が決まった時、人間は視野が狭くなってしまうんだ。一回よく考えてごらん?見てごらん?後悔とは一生の付き合いなんだ。一回冷静になりな』
俺はおばあちゃんにチョップをされた。昔と同じように。俺は目先のことばかりを考える男の子だった。だけど、今は違う。それなのにおばあちゃんには頭をチョップされた。この意味を俺は正しく理解できた気がする。
それでも俺は未来を見ている。おばあちゃんの言うことも一理ある。けど、俺たちは未来を変えにきたんだ。ここでシェールを仕留めないと恐怖は拭えない。
ただ、少し視野を広く持てた。殺す必要はないと判断できた。ありがとう、おばあちゃん。
「さあ、あれを出してご覧なさい。君の秘技を。出せないとは言わないよな?」
煽り口調のシェールに対して俺は怒りが限界まで達していた。
『飛翔』
からの……『踵蹴』というコンボ技を決めたはずだった。
飛翔が発動しない?俺は何回も靴をタップする。
「それ以上はやめろ。お前……死ぬぞ……」
シェールはもうすでに俺の面前にいた。
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