032 弱肉強食②
「たくさん食べましたね」
「あい!」
そう言って、お母さんがハンカチで僕の口の周りを拭いてくれる。
僕の目の前には食事の乗っていたお皿があるのだが、お皿の周りは零れてしまった芋の欠片が転がっていた。
僕の腕は僕の想像以上に短いし、僕の指は想像以上に器用に動かせない。
その結果として食べ物を零してしまうのだが、それを叱る人は誰もいない。
たぶん、まだ赤ちゃんだから大目に見られているのだろう。
まぁ、普通の赤ちゃんなら僕以上に零したり、場合によってはスプーンとかも投げているかもしれない。
それに比べれば、僕はだいぶお利口な赤ちゃんだ。
でも、もう慣れたとはいえ、前世の記憶があるとやっぱりちょっと恥ずかしいな。もっと手の指を動かして、自在に操れるようにしないとね。
「むー……」
ゴーレムなら、僕の思った通りに動かせるのに。まだ仕方がないとはいえ、人間の体って意外と不便だ。
もしかしたら、赤ちゃんのうちにどれだけ動けたかによって運動神経って決まるのだろうか?
そういえば、おばあちゃんも赤ちゃんのうちに体を動かすと丈夫になるって言っていたような気がする。
この考えが合っているのか間違っているのかはわからないけど、とりあえず赤ちゃんのうちから動けるだけ動いておこう。お父さんみたいに強くなりたいし。
そんなお父さんだけど、最近は大剣と一緒に大きな弓を持っていることが多い。
僕が近隣のモンスターを殲滅してしまったので、暇になってしまったのだろう。最近は弓で鳥を射っている。今日もお父さんが仕留めた鶏肉が夕食に並んでいたほどだ。
今までゴーレムの存在があったから自分が強くなるという発想があまりなかったけど、この世界では何が起こるかわからない。いざという時のために鍛えておいた方がいいのかも?
そんなことを考えていると、知らず知らずのうちに体が勝手に舟を漕いでいた。今日はもうお眠の時間らしい。
赤ちゃんの体というのはあまり疲れは感じないけど、急に電池を抜かれてしまったように動かなくなる時がある。今もそんな感じだ。
だいたいご飯を食べた後は眠くなるから、もしかしたら赤ちゃんの体はそういうものなのかもしれないね。
「あらあら」
「クラークはお眠みたいだねえ」
「オレが運んでおくよ」
「あなた、頼んでもいいですか?」
「ああ! 任せとけって!」
僕はもう視界を閉じて、眠気と闘っていた。そんな僕の頭上をお父さんたちの言葉が素通りしていく。
ふっと体が持ち上げられたような気がした。
その時にはもう、僕は意識を失っていたのだった。
◇
「ふぁー……」
目が覚めると、いつの間にか両親の寝室のベッドの上で寝ていた。
起き上がると、どうやら僕はベッドの端っこで寝ていたようだ。
ベッドの真ん中では、裸の両親が眠っている。これは家族が増えるのも時間の問題かもね。
「んー!」
昨日は眠るのが早かったからか、どうやら早くに目が覚めたらしい。ニワトリも寝ているのか、鳴き声も聞こえない。
この調子では、朝食まで時間があるだろう。たぶん、村人たちも寝ているに違いない。
まぁ、暇と言えば暇な時間だ。
でも、僕には暇を潰せる遊びがある。それが、ゴーレムの視界に映った映像を見ることだ。
今、僕の脳内では百を優に超えて、五百に迫るほどのゴーレムたちの視界情報が処理されている。普通に考えれば、こんなに多くのテレビの映像を一つ一つ見ていることなどできないと思うのだけど、僕の脳はそれを可能にしていた。
それがいったいどんな理屈なのか、本当に人間にそんなこと可能なのかはわからないけど、実際にできてしまっているのだから仕方がない。
もしかしたら、これが僕のレベルアップの恩恵なのかも?
ゴーレムのアインがレベル百になって、ツヴァイももう八十近い。僕も最初の頃に比べるとかなりMPが増えている。
もし僕もレベルアップしているんだとしたら、今頃アイアンゴーレムを持ち上げるようなスーパーベイビーになっていただろう。
でも、僕の腕力や脚力は赤ちゃんレベルのままだ。
もしかしたら、その分のステータスアップで頭がゴーレムを操るのに最適化されているのかもしれない。
まぁ、僕はまだ自分のステータスがわからないのですべては憶測でしかないけどね。
でも、なんとなくだけどそう的外れな感じでもなさそうな気がする。まぁ、そんな気がするだけ。僕の勘のようなものだけど。
「んおー?」
どれどれ。ツヴァイはどれだけレベルアップしてるかな?
うーん。レベル八十一か。そろそろツヴァイもレベル上げ完了だね。この調子でどんどんレベル百のゴーレムを創っていきたい。
目指せ、無敵のゴーレム軍団!
そのためにも、今日もモンスターには犠牲になってもらおう。
悲しいけど、この世界は弱肉強食なんだよね。
僕もお肉にならないように、強者であり続けなければいけないんだ。
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