第5話:残響のルーンと死んだはずの魔術師
ティンバーグの街は、歓喜に包まれていた。だが、俺たちの心は晴れなかった。あの水晶の共鳴は、あまりに精緻で、あまりに作為的だった。まるで、誰かが意図的に仕組んだかのようだった。
翌朝、俺はセリアと共に、再び鉱山の最深部「マザーロード」へと向かった。静まり返った大空洞。巨大な水晶柱は、もう何の音も発していない。俺たちが調査に行き詰っていた、その時だった。
「本日もスキルガチャの時間でーす!」
この旅が始まってから、この電子音がある種の道標のようになっている気がする。今日のスキルは――
【指定した『書かれた文字』を、10秒間だけ、淡い光で輝かせることができる】
「……文字を、光らせる?」
セリアは首を傾げた。「本を読む時に便利そうだけど、今は何の役にも立たないわね」
俺もそう思いながら、何気なく、自分がヒビを入れた水晶柱に視線を向けた。そして、ある違和感に気づいた。ヒビの周辺。水晶の内部に、光の加減でようやく見えるか見えないかというレベルの、極めて微細な線がいくつも走っているのが見えたのだ。それは自然にできた模様ではない。明らかに、何者かによって刻まれた、古代のルーン文字のようなものだった。
文字はあまりに薄く、坑道の薄暗い光では、その意味を読み解くことは不可能だ。その時、俺の脳裏に、先ほど手に入れたばかりのスキルが閃いた。
俺は祈るような気持ちで、巨大な水晶柱に手を触れ、スキルを発動した。
「光れ…!」
次の瞬間、俺の手が触れた場所から、光の波紋が広がるように、水晶柱の内部に刻まれた無数のルーン文字が、一斉に青白い光を放ち始めたのだ! それは、鉱山全体を一つの巨大な楽器に変え、特定の周波数で共鳴させるための、悪魔的なまでに精密な魔法の設計図。この鉱山で起きていた現象の、全ての答えがそこにありました。
10秒間の輝きが消えようとする、その刹那。俺は、術式の最後に刻まれた、一つの小さな紋章を見逃さなかった。
光が消え、再び静寂が戻った大空洞で、セリアが震える声でつぶやいた。
「…今の紋章…嘘よ…」
「知ってるのか、セリアさん?」
彼女は、顔面蒼白で俺を見た。その瞳には、信じられないものを見たという驚愕と、恐怖の色が浮かんでいる。
「ええ…。ギルドの古文書で一度だけ見たことがあるわ。それは、50年前に禁術の研究の果てに自滅したとされる、ギルドを追われた天才魔術師…『異端者』の紋章よ」
彼女は、その名を絞り出すように言った。
「音響の魔人、ギデオン。…死んだはずの男よ」
王国を覆う魔力異常は、自然現象などではなかった。それは、死んだはずの魔術師による、壮大な復讐劇の序曲だったのだ。




