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第4話:水晶の街と不協和音

俺たちが向かった鉱山の街「ティンバーグ」は、豊富な水晶の採掘によって栄えていた。しかし、街に到着してすぐに、俺たちはその輝きとは裏腹の、重く沈んだ空気に気づいた。


街の責任者である市長に話を聞くと、問題はすぐに明らかになった。

「【奇跡の調停者】殿、よくぞお越しくださった! 実は一月ほど前から、この街の水晶が…夜な夜な『囁く』のです」


市長によると、採掘された水晶や鉱脈そのものが、夜になると奇妙な高周波音を発するようになったという。その音は、ある者には美しい歌声のように、またある者には不快な囁き声のように聞こえ、街の人々の精神をじわじわと蝕んでいた。さらに、水晶が以前とは比べ物にならないほど脆くなってしまい、街の経済が立ち行かなくなっているらしい。


俺たちは、問題の核心である、街で最も大きな水晶鉱山へと向かった。

ひんやりとした坑道を進む。壁の至る所から、大小様々な水晶の結晶が顔を覗かせている。俺が【マインドエコー】で坑道の生き物たちの思考を探ると、どれも共通していた。


『…ウルサイ…』

『…頭、痛イ…』

『…ズット、揺レテル…』


やはり、何かいる。目には見えず、魔法にも感知されない、だが確実にこの鉱山全体を蝕む何かが。


俺たちは、鉱山の最深部、巨大な水晶が群生する「マザーロード」と呼ばれる大空洞にたどり着いた。そして、その中心に立つ、一本の巨大な水晶柱を見て息を呑んだ。その完璧な水晶柱から、キィィィン…という、耳の奥を突き刺すような高周波が絶え間なく発せられていた。


「…これが、全ての元凶…」

セリアが剣の柄に手をかける。

「しかし、これを破壊すれば、この空洞自体が崩落するわ…」


どうする? その時、俺は自分のスキルリストを見て、ニヤリと笑った。今日のスキルは、【半径1メートル以内にある水晶やガラス製品に、一度だけ、ピシッと小さなヒビを入れることができる】。


「セリアさん、下がってて」

「どうする気?」

「完璧すぎるものは、時として脆いんですよ」


俺は水晶柱にそっと手を触れ、スキルを発動した。

「―――不協和音ノイズを、くれてやる」


パリン、というあまりにも小さな音が響く。巨大な水晶柱の表面に、本当に小さな、爪で引っ掻いた程度のヒビが一つだけ入った。

一瞬の静寂。そして、次の瞬間。


キィィィィン、と鳴り響いていた高周波が、ぐにゃり、と歪んだ。完璧なハーモニーを奏でていたオーケストラに、一人だけとんでもなく音痴な奏者が紛れ込んだかのように、共鳴の波長が乱れ、互いに打ち消し合っていく。やがて、鉱山を支配していた不快な振動は、完全に沈黙した。街を蝕んでいた「囁き」が、止んだのだ。


「…まさか、たった一つのヒビで、この現象を…?」

呆然とするセリアに、俺は肩をすくめて見せた。


「ええ。でも、セリアさん。問題はそこじゃない」

俺は、静まり返った水晶柱を真剣な目で見つめた。

「囁きは止まった。でも、そもそも、誰がこの水晶に『歌い方』を教えたんだ?」


この現象は、あくまで結果だ。その原因となった、王国全土を覆う魔力異常の正体は、まだ闇の中にいる。

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