↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

38/84

『打ち上げ』で打ち上がる?



『天の神様の言うとおり』に、ここから検証して行きます。


 おお。なんだこの酒の数と量は。ビールだけでも、何種類あるんだ? こっちの世界の常識では、あっても、せいぜい薄いエールくらいって相場が決まってるはずなのに。なんじゃこりゃあ。


 これまで、特に意識して飲んでこなかったけど、こんなに種類があったのか? 何も考えずに、お店で出された物、アイテムボックスに入っている物を適当に飲んできたからな。やはり、違いの分かる男には程遠いようだ。やれやれ。



 樽に入ったワインとビールの数。それぞれに10じゃ利かないぞ? ワインは、まあ分かる。赤に白にロゼとあるからね。それだけでも3種類だ。葡萄の品種、採れた地方によっても味は変わるからね。加工・保存方法もそれぞれだ。種類が多いのも頷ける。


 でもビールはどうよ? こんなに種類があるほどに、作り方が違うのか? この世界、この時代ならではの製造方法でもあるのだろうか。やはり、俺の常識は非常識という事か。


 まあ、人の好みもそれぞれだからね。違って当然。それぞれの造り手が、それぞれに美味しいと思えるビールを造って持ってきているのだろうか? これだけ沢山の醸造所が在るという事か。


 おう。ないすだね。樽に貼ってあるラベルがみんな違うからね。その可能性も考えられるね。うん。流石と言うべきか? 職人気質のドワーフが暮らす町アシャズ。酒好きも多いって聞いてるし、きっと、酒造りにチカラを注ぐ素敵な人達が居るのだろう。


 自分が仕事に追われて働かなければ、何かと豊富で楽しめる良い町なのかもしれないね。ふふふふふ。



 でも、流石にこれじゃあ、手早く注文を済ませ、ただ早く酒を飲みたいなんてレベルじゃない。取り敢えずじゃ済まないぞ。どれにしようか決めるのだけでも時間が掛かってしまうじゃないか。うーん。悩ましい。嬉しい程に悩ましい。


 はっ。それで生まれたのが、『天の神様の言うとおり』なのか? 迷った時の神頼み? うん。こんな深い誕生秘話があったとは。やるね。天の神様! 神様も酒好きが多いって言うからね。(あなが)ち間違ってないかもよ? 強引か?



 樽の前に、コップとジョッキが沢山置いてあるからな。セルフサービスで、お好きにどうぞって事だよね? ちゃんと『おつまみ』まで準備されてるし。何て親切設計。なんて酒好きに優しい会なのさ。


 夢のような打ち上げだよね。勝手にどうぞ、お好きにどうぞってね。お酒もセルフだよ? 自制心のある人でなければヤバい飲み会かもね。ふふふ。


 こんな時は、迷わず端から順にいっちゃおう! 少しずつ全部飲んで確かめよう! そう。これは必要な検証なのだよ、明智君。検証する為には、比較してみる必要はあるのだよ、じっちゃん!


「とれどれ。まずは、左端の、君に決めた!


 うおっ。これは、濁りきってるな。香りも、……うん。香草かな。俺にはちょっとキツいかな」


 ふむふむ。うん。これは、強めの濁り酒とか、苦味が好きな人向けなのかな。お次は、


「ふむ。これも、濁りが強いのか。香りが全然違うから、また別の香草でも使ってるのかな?」


 ふむ。これも独特の個性があるビールだな。この香りが好きなら、クセになる味なのかもね。


  *


「次は君だ! おっ。ようや濁りが少なくなってきたな。これを待っていたのだよ! どれどれ」


 ほう。爽やかな香り。あれっ? スッと、引っかかり感もなく喉を通り過ぎていくこの感じ。元の世界のとある外国のビールと似てるよな? それでも少し雑味はあるけど、もう少しで何とかなりそうな感じ? 水? ホップ? 酵母の違い? 温度管理? 低温熟成? うーん。分かる訳ないけどね。



「ふむ。これは、まずまずだけど、あと1歩?

 最後は君だ! どれどれ、どんな味で楽しませてくれるのかな?」


 うん。色は少し薄め、香りは、あっ。いいかも、これ。嫌みな癖のないクリアな香り。ずっと嗅いでても苦にならない。爽やかアロマ? これは、1番期待出来るかも?


「おう。うまい! これだ! これが1番好きなビールだ! やったね! こういうビールを待ってましただよ!」


 よし。このビールを買い占めよう。俺のアイテムボックスいっぱいに買っていこう。決めた。決めちゃいましたよ、明智君! じっちゃんも、1杯くらい飲めれば良いのにね?



「お、おう。兄さん。俺の造ったビールを褒めてくれるのは嬉しいけどよ。その笑顔は、何か悪い事考えてる笑顔なのか? 変な事考えてるんじゃないだろうな?


 止めてくれよ? これはまだ試作段階のビールだ。出来は悪くないから、評価してもらう為に持って来たんだが、これ以上のモノを作ろうとするには金が掛かるからな。評価してくれるなら、出資して欲しいくらいだぜ?」


 おっと。何ですと? 悪い事なんか考えてないけどね? そんな変な顔して笑ってた? そう言えば、前にも言われたな。俺が悪巧みしてる時の笑顔には要注意だってね。違う。悪巧みじゃなくて思考中? 色々と考えを巡らせてるだけなんだけどね。おかしいなぁ。


「あっと、失礼しました。期待していた以上に美味しいビールだったモノで、つい。死んだじっちゃんにも飲ませてやりたかったなぁと思ってしまって。ははは」


「お、おう。そうだったのかい。そりゃあ、嬉しいような悲しいような、微妙な気持ちになる返答だな。参ったな。


 だが、うまいと言ってくれたのは素直に嬉しかったぜ。ありがとよ。あんた、ここのビールを全部試し飲みしてただろ? しかも、何かブツブツ言いながら。よっぽどのビール好きなのか、同業者か何かなのかい?」


「あ、ああ。変な気持ちにさせたみたいで悪かった。俺の好みのビールを探す為に、少しずつ試し飲みしてただけなんだ。業者ではないが、好きなビールが見つかったら、それなりに買い取るつもりでいたのは確かだな」


「おお。そうだったのか。それで、この中ではオレのビールが1番だったという訳かい?」


「ああ。間違いない。この中では、このビールが1番好きで、俺の好みの味と香りだな」


「おお。何だ。兄さんはビールに香りを求める奴なのか? 今じゃあ、色んな香草や薬草使って、効能を求めるのが主流だぜ? そういうビールが好みかい?」


「ん? ああ。香りと言っても、そんなに拘ってる訳じゃなくて、雑な香りがしないと言うか、混ざり合ってない、爽やかな香りが好みなんだ。分かるかなぁ」


「んぁ? 混ざり合ってない香りかぁ。何でもかんでも入れりゃいいって事じゃねぇからな。それくらいは俺だって分かるぜ。そういう事だろ?」


「うん。まあ、そういう事になるのかな。味も香りも雑味なし。スッキリ飲めるタイプで、それでいて麦の味がちゃんと感じられる。そんなビールが良いんだよね」


「ほお。何だ。俺と好みが似てるのかもな。俺も、そういうビールが造りたくて色々拘って調整してるんだ。これが中々難しくてな。金ばっか掛かってしょうがねぇぜ。はっはっはっ」


 おお。ナイスな兄ちゃんだな。やっぱり、これだけ沢山のビールがあれば、1つくらいは俺好みのビールがあるんじゃないかと思ったけど、まさか、そういうビールを造ろうとしてる当の本人に会えるとは。神様、ありがとう。


 やはり、頼るべきは、じっちゃんよりも『天の神様』か?

 


 あれよあれよと話は盛り上がり、双方のビール好き加減も、俺のビール造りに関する知識の多さも、相手のビール造りに懸ける情熱も、お互いに理解し合った。うん。良い出会いの場。人々の交流を深める場。異業種間交流にも使える場。流石『打ち上げだ』。


 アンテナを立て、それを求めようと行動すれば、何かしらの成果が得られる場。高い会費を取るような、いかにもお膳立てされるようなイヤラシイ場とは違うのだよ。そう。雑魚とは違うのだよ、雑魚とはぁ!



 いかん。ちょっと酒が回ってきたのかな? 流石に飲み過ぎたか? 検証で飲み比べた後にも、『モルットリー』とビール造りの話で盛り上がってたからな。つい、ビールも進んじゃうよね? あははぁ。


『モルットリー』。ドワーフのビール職人。オレのイメージ通りのドワーフ像。背は、ミラよりは高いけど、ずんぐりしていて筋肉質、あごひげは勿論完備。兜と斧が似合いそうな、ちっちゃな戦士だね。うん。これぞドワーフだ。


 エルフが緑色の風を感じさせたように、ドワーフは赤色の風を感じさせる種族なのだろうか。防衛団副隊長の『ジンバール』さんよりは熱くなかったものの、やはり熱い風。情熱の強さが魔力にも現れるのだろか。この人からも、濁りのない純粋な赤を感じられた。〈魔力感知〉より。


  *



「お疲れ様。やあ、皆さん。楽しんでるようで何よりだよ。

 少し遅れてしまったが、無事、地下施設も完成し、今最終確認をして来た所だ。


 報告は受けていたが、やはり問題無し。これにて正式に完了だ。お疲れ様。まだ時間はある。ゆっくり楽しんでくれたまえ。私からは以上だ。


 おお。タビトさん、丁度いい所に居たね。折角だから、一言お願いするよ。


 皆さん。この地下施設作成を請け負ってくれた『土魔法の匠』、タビトさんだ。少しだけ注目して欲しい!」



 おう。少し段差のある台に乗って、町長のフラナガさんが話し出したと思ったら、オイラに挨拶をしろと? 聞いてないよー。何て言っても通じないよね? 知ってる。多分俺しか分からんわ。あはは。



「えっと。只今紹介されました、タビトです。最終確認も無事終わったという事なので、ほっとしています。色々やり過ぎた所もあったので。あはは。


 エルフの土魔法使いの皆さんの協力があったからこそ、こんなに早く、安全に完成させる事が出来ました。ありがとうございます。


 それから、裏で支えてくれた秘書の方。そのサポートをしていただいていた方々。ありがとうございました。あなた方が居たからこそ、スムーズに、笑顔で完成させる事が出来ました。


 皆さん。拍手をお願いします。サポートあってのお仕事ですからね」



「おおー! そうだな」 ぱちぱちぱちぱち

「ありがとな! 助かったぞ」 パチパチパチパチ

「確かにそうだからな。何時もありがとう!」

「おお。分かってるじゃねぇか。やるねぇ兄さん」


 ぱちぱちパチパチぱちぱちパチパチ



「ありがとうございます。この町の雰囲気も、仕事に打ち込む姿勢も、皆さんの気持ちが表れていましたから、とてもやりやすかったです。ありがとうございました。


 それに、ビールも美味しくて、つい飲み過ぎてしまいました。油断出来ない町です。それもこれも、町長始め、市政に携わる人達の思いやりから生まれたモノだと思います。ヤラレました。あはははは。


 今日は、施設の完成を祝って楽しく飲み食いしましょう! 以上です。乾杯ー!!」



「おおー! 乾杯!」

「ありがとう! 乾杯!」

「ああ、楽しく飲もうぜ、乾杯だ!」

「乾杯だ、乾杯! 食べて飲むぞぉ!」



「おお。これは1本取られましたな。ここまで皆を持ち上げられてしまうとは。はっはっはっ。

 流石、あの『ガルーマ・ザッヒン』様が一目置いているだけの事はある。私も評価をし直そう。ありがとう。アナタのお陰で、この町にとっては良い事()くめだった。また何かあれば、よろしく頼む。


 後で、その有能な秘書から報告事項がある。聞いておいて欲しい。それではな」


「はい。お疲れ様でした」


 おう。やっぱり忙しい人なんだ。会話をするような雰囲気でもなく、言いたい事だけ伝えて、さっさと行ってしまったね。この町のトップなんだから、仕方がないのかな。分刻みのスケジュールとか? お疲れっした。



 やっぱり仕事って感謝の気持ちが大切だからね。いい機会を貰ったから、素直な気持ちを伝えただけなんだけど。あはは。評価されるのは嬉しいけど、過剰評価は怖いからね。変に目を付けられたり、要らぬ嫉妬を受けたりね。良い事なんてあるのかな?


 まあ、もう終わった事だしね。この町に留まる訳でもない。町を出て行ってしまえば、そのうち忘れてくれるでしょ。



「おいおい。何だい。あんたがあの『土魔法の匠』だったのか。言ってくれれば良かったものを。すまなかったな。知らなかったとは言え、『匠』と呼ばれる人物に、こんな口の利き方をしてしまっていたとは。何と言って謝ったらいいものか」


 おいおい、何だよそれ。『匠』が付く二つ名って、そんなに凄い名前なの? 特集されちゃうくらいに凄い事? お仕事の流儀的な? 違うか。流石にそんな番組は無いからね。拘りの強いドワーフならではの感覚なのかもね。



「えっと、止めて欲しいかな。そう言う扱いは。俺は俺。モルットリーさんはモルットリーさんでしょ。名前で人を判断するよりは、直接俺の言動を見て判断して欲しいかな。


 俺なんて、こんな感じだよ? 変に気を遣われる方が嫌なタイプだからね。分かるでしょ? ビール好きに、上も下も無いんだよ? これからも、これまでみたいに気軽に接して欲しいかな。よろしく頼むよ」


「あっはっはっ! 本当に面白い人だな、あんた。分かった。俺もこれまでと同じ様に接するからな、タビト。あんたも、俺の事は『さん付け』無しで呼んでくれ」


「ああ、分かった。これからもよろしく頼む、モルットリー」


 ガシッ!


 うん。いいね。ちょっとだけ痛いのか? 漢と漢の握手だからな。力は込めてするモノだ。そう誰かが言ってたか?

《身体強化》のお陰で、そういった握手にも耐えられるようになったんだな、俺ってば。うん。成長を感じられた瞬間だね。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。