謝罪
「初日に私ここにいたけど月川先生来たから、その時は気をつけてね。何があっても迷子にならないようにここ集合」
私はそれだけ言って、2人の返事を聞かずに──いや、多分了解と声が聞こえた──体育館裏から出て、先程来た道を戻る。
1人の廊下は静かだ。特に夜だと思うと尚更に。
これが現実世界だったら、きっと幽霊が出ないかとか、どの教室も施錠されて学校の中に閉じ込められるんじゃないかとか、余計なことを考えていただろう。なかなか学校は考えれば考えるほど恐怖が詰まっているのかもしれない。
ビニールの廊下を踏んで、前へと進む。
鬼がいるような気がしないので、のんびり歩く。
ふと後ろを振り返ると私の上履きに土がついていたのか、いくつか跡があった。
また顔を前に向けると、奥に人影が見えた。
くらい廊下の奥に、目を凝らす。人はうつむいている。
おーい、と声をかける。
かけた瞬間、先生かもしれないと息を呑む。
人は、前を向いた。その人物は私の名前を呼ぶ。
「春野」
「夏川くん」
夏川くんは軽く走った。
そして私をまじまじと見る。
「何」
「怒ってるか、さっきの」
「さっきのって、突き飛ばしたやつ?」
「・・・・・・そう」
私はうーん、と唸る。
正直どうも思っていない。
でも夏川くんには怒ってると言っておく。
「だよなぁ」
夏川くんは何か意を決したように立ち止まる。
私も少し驚いて、すぐに立ち止まる。
「どうしたの」
声をかけても夏川くんは何も言わないし動かない。
でも、目がすごい泳いでいる。ちらちらこちらを見る。
気まずくなって私が歩き出そうとした時、左腕を掴まれる。
何やってるのと言いたかった。でも言えなかった。
夏川くんは深々と体を曲げた。
「ごめん」
「──えっ」
夏川くんはそのまま言葉を続ける。
「ちょっと、秋原と色々もめててさ。冷静に物事考えるとかできなくて。その時に鬼に追いかけられて、恐くてつい、ドンッと」
それが言い訳であろうがなんだろうが、私にはどうでもいい。
夏川くんが謝罪の言葉を述べることに驚いた。
私が呆気に取られている時も、話を続ける。
「裏切りってわかってなかった。でも今ならわかる。多分、春野に突き飛ばされ返されなかったら謝ってなかっただろうし、今でもグチグチ言ってたよ」
そもそも裏切りの意味すら良くわかってないけどね、と最後に一言付け足した。
それを最後に夏川くんはそれ以上言葉を続けなかったから、私が返答をする。
「もういいよ別に、私も言いすぎたかもしれない。それに私も裏切りの意味はよくわからないし、私も突き飛ばしたんだしいろいろお互い様ってことでいいじゃん」
ね、と同意を求めると、夏川くんはおうと小さく頷く。
さて、と。夏川くんにそろそろ右腕を離してもらおう。
「体育館裏に紅葉ちゃんと冬里くんが待ってる。早く行こう」
「そうなのか。それなら早く」
夏川くんが息を潜める。
カツカツと音がする。もしかして。
「走れ」
「また紗羽先生ーっ!?」
つい叫んで廊下を走る。
バタバタと激しめな音がする。
廊下の先にある扉から外に出て、コンクリートの地面をガツガツと走る。
紗羽先生はしぶとく追いかけてくる。
夏川くんが振り返り、止まる。
少し先にいる紗羽先生の向こうに指を突きつけた。
「あ!冬里!ちょ、廊下曲がったぞあいつ!」
紗羽先生も後ろを振り返った。そうしたら走り出した。
夏川くんがヘヘッと鼻の下を人差し指で擦る。
「先生ちょろいな」
私が口を開けていると、夏川くんが私の手を引く。
そして体育館裏へと向かった。




