【自分の足りない部分】
いつから眠っていたのだろう、目が覚める。
目の前には美月先生の顔があった。
「気がついた?」
優しい声。
はぁ、と息を漏らして体を起こした。
辺りを見渡すと絵を描いた、あの美術室だった。
机に横たわっていたのだと気づく。
「私、どうしてここに」
自分の両手を見つめる。
美月先生の体にぶつかったとき、目の前が暗くなった。
それは先生の服が目に覆われたからだと思った。
「私たちが生徒を捕まえると、その先生が担当する教室に連れて行って目覚めを確認しなければいけないの。ショックなどで死なないように」
美月先生はフフッと笑うと、そうだと人差し指を立てた。
「気を失うのは教室に連れていく際に逃げないように、ってことなんですって」
美月先生はその人差し指を私の額へと近づけた。
思わず避けると、美月先生は口を尖らせた。
「逃げないでよ」
「逃げますよ。触れられたら終わりじゃないですか」
「んもう、つまんないわ。出てっていいわよ」
美月先生は隣の机に座ると、追い出すように手をひらひらさせた。
私はそそくさと美術室を出た。
すると後ろからバサバサと紙で呼ばれる。
「なんですか。捕まえに来たんですか」
「違うわ。貴女が描いた絵のように、今は嫌なことばかりだと思う。でも、きっといつか光も差すわ。この世界から無事に出られることを祈るわよ」
美月先生はそう言うと美術室へと入っていった。
不思議だ。私を捕まえたくせに助言するなんて。
「無事に出られる?出れなきゃだめじゃん」
私は美月先生に聞こえられないように言った。
そして前を見据える。
裏切りがあったって、先生に捕まったって。
この世界から出るための試練だと思えばいいじゃん。
人の性格ではない、私たちが無くした【自分に足りない部分】が何かわかった気がする。
それを報告するために紅葉ちゃんと夏川くんと冬里くんを見つけ出す。
そのために私はいつもみたいに廊下を駆け出した。




