第拾仂話 ミズノキオク
沢村先生……、何者?。
……ゴポリ。
……ここは、何処?
俺の身体は、温かい水のようなものの中に浮かんでいる様だった。
……ゴポリ。
時折、そんな音がする。
――俺は、流菜の事を、助けられなかったのかな?
そう思うと胸が苦しくなる、しかし同時に不思議な安心感があった、この場所はとでも落ち着くのだ。
――……なんていうか、母さんと一緒にいる感じ?
……ゴポリ。
「この仔は、この世界――、地獄で生きていくんだな……。」
遠くから、男のヒトのそんな声がする。すると、
「……いいえ、この世界は確かに地獄かもしれない。けど、楽しいこと、嬉しいことにきっと満ち溢れているわ。」
と言う声がした、優しそうな、女のヒトの声だ。
「……そうか?」
男のヒトの声がまた聴こえる、すると女のヒトは、
「……私も、あなたに出会えたんですもの……、この仔もきっと、自分の愛するヒトに出会うことが出来る……、そう信じるわ。」
と答えた。すると、男のヒトは、
「……そう、か。そうだな……。」
と呟くように言うのを、俺は聴いた。
…………………
――…ミーンミンミンミンミンミー……。
セミの声が聞こえる、目の前には病院の天井があった。
枕元に置かれた椅子には、兄が座っていた。
「……兄、貴?」
俺はそう呟くように言う。すると兄は、
「……バカかお前は、あんな危ないことして……、死ぬところだったんだぞ。」
と言った、その表情は外からの光が逆光になって、俺からは見えない。
「……ゴメン、兄貴。」
俺はそう言った。すると兄は突然俺の頭を撫でてきた。そして、
「……だが、お前は自分が守りたいものの為に命を懸けた、それは立派だ。」
と言った、兄が近づいたので俺は兄の笑っている顔が見えた。
そして兄は言った。
「……お前は、人に誇れる事をしたんだ、それだけは、忘れるな。」
――と、そして兄が立ち上がり、少しずれると俺には窓際のベッドで眠っている流菜の姿が見えた。
「……流……、菜。」
俺は思わずそう呟く。
すると兄は、
「……左足の圧迫による内出血と捻挫、それから全身の打撲と切り傷と軽い火傷……、全治2週間位だが、とりあえず流菜ちゃんは2週間もあれば退院出来るそうだ……、良かったな、陸。」
と言い、笑った。
そこで俺は流菜があのペンダントを着けていることに気がついた。
「……あっ、ペンダント。」
と俺が言うと兄は、
「あぁ、彼女へのプレゼントだろう?
お前のクラスメートから渡されてな、俺が流菜ちゃんに渡しておいた……、喜んでたぞ~、流菜ちゃん!」
と言って笑った。
それから少し間があり俺は兄に向かって、
「……それ、俺が自分で渡そうとしてたんだよぉぉぉっ!」
と叫んだ。
…………………
――その頃、焼け落ちたペンション。
沢村はそのペンションの火元である裏口を凝視していた、それからやがて、
「……やっぱ、アレの仕業か……。にしても気になるなぁ、何でこんなことをしたのか……?。」
と呟いた。
第二章 劇終




