かつての仲間?
街の中央に近いそこは。
捨てられた村の廃墟と化した学校とでも言うのだろうか。
人がいて当然の大きさの建物だというのに、人の気配も声もまったく聞こえない。
入り口付近には玄関に置かれていたであろう、柵が壊れ、道に転がり、ペンキが至る所はげており、道にペンキの跡が落ちている
。
コアラが言うには、ここが千歳の家らしいが、千歳がいうにはゲームを止めたのは五年前。
ということは五年でこの惨状になった、何か戦いでも行われたのだろうか。
そうでなければこんな場所に住んでいたとは思えない。
「ここは変わらないな、チトセ様がいたあの時のままだ」
「えっ」とコアラに聞き返した。
変わらないということは五年前から変わっていないということなのだろう、なら千歳はこんな所に住んでいたというのか。
ゲームと思い込んでいたとしてももう少しまともな家に住む気はなかったのだろうか。
「あの、コアラ…さん?」
「コアラで構わん」
何て呼べば良いか分からず兵士の名前を呼ぶが、さん付けを拒否された。
これが以外に困るのだ。
初対面の年上の人間に呼び捨てで構わないと言われても、言いにくて仕方が無い。
が、この際そんなどうでも良い事は置いておく。
「ここ、千歳を寝かせる場所あるんですか…?」
「ぬっ…どうだろうか、あやつらならば知っていると思うが…ワシは…もうそろそろ帰らなければ」
「えっ帰ってしまうんですか」
「あやつらって誰だよ」という疑問は沸くが、これだけ広い建物なのだ。
それにファンタジーの世界なのだ、千歳の元仲間のことだろう。
そう考えた俺は、千歳の家に視線をやり、呼び鈴を探す。
学校の校舎のような建物だから勝手に入っても良いのだろうか。
それとも、何か方法があるのだろうか。
そう思い辺りを探していると、後ろからガチャガチャと物音が近づいてくる。
「やっぱり生きてたんデスか、そのキチガイ女は」
振り向くと全身を黒の鎧で包み、面倒そうな声を出す女性が立っていた。
兜は顔の部分を隠しているため実際の性別はわからないが、声質は間違いなく女性だ。
その鎧の女性は、俺が抱きかかえる千歳に視線をやっていた。
「とは言え、死ぬのは時間の問題みたいデスね、で何用デスか少年と…」
そこで一旦言葉を切りコアラに視線をやる鎧の女性。
空気が澱み、憎しみや怒りといった感情が空気に舞う。
「裏切り者が、よくぬけぬけと顔出せましたね、ここで死にたいんデスか」
「イスクリ、俺は…」
「と言いたい所デスが、今更どうでもいいデスよ、もう私一人デスし…」
背中に背負っていた、得体の知れない何かが漂った剣をコアラに向け。
それに対して弁明のような言葉を出そうとしたコアラの言葉を打ち切るイスクリ。
最初のような澱んだ空気は無くなり、だらけた空気が漂う。
何時の間にか剣は背中に仕舞われている、俺の目にはまったく見えなかった。
「あれから時間が立ちすぎまシタ、今となれば何だったかわからない程にネ」
「あ、あの」
「少年、会話に置いてしまい申し訳ない、私そのキチガイ女の部下やってたイスクリと申しマス、30年も行方不明だったそいつは
今まで何やってたんデスかね、容姿変わってない所を見ると人間を止めたのデスか、それとも…」
「……」
「ああ失礼、少し話しすぎました、どうぞ話して大丈夫デス」
こちらが何かを話そうにもタイミングが掴めない。
イスクリと名乗る女性は兜を取ること無く、意識を失っている千歳を心配することも無く、部下を名乗る癖に敬意を払う様子が無
く、キチガイなどと俺の同級生の男のように千歳を馬鹿にしている。
何故千歳に向かい、こんな偉そうなことを言えるのだ、そう思い少しイラつくが黙る。
こういう奴には会話に反応するだけ無駄だ。
「人間ごときに睨まれたのなんて何年振りでしょうカ、まあ良いデス、そのキチガイ女を寝かせましょうカ」
建物と中に入っていくイスクリはコアラと俺に入ってくるよう腕を振り、ガチヤガチャと鎧を鳴らせながら入っていく。
「どうしよう」とコアラに視線をやると、彼も苦悩の表情を浮かべながらであるが同じように建物へ入っていく。
(くそっ、千歳をキチガイだなんて呼びやがって、お前にこいつの何がわかるんだ)
人間の歴史は同じことの繰り返しなのだ。
国が成り立ち戦争が起き、新しい国が起き、戦争で滅んでいく。
カダク大陸もその例外に漏れず、戦争の繰り返しでその度に、運が悪い物が財産、食料、命を奪われていく。
中央都市も田舎の都市も運が悪い都市は戦火に巻き込まれね蹂躙者達によって消えていく。
剣で槍で、斧で、魔法で、鍬で、毒で。
戦争が起きる度に人が死に、傷跡一つ残す事無く、歴史から消えていく。
老若男女全てが平等に死んでいく。
王様も、兵を率い国を救った将軍でさえ、大半が碌でもない死に方をしていく。
テテの街も中央の戦乱に巻き込まれ地方の都市の一つとして、歴史上から消えていく筈だったのだ。
滅んだところで歴史書に一行程度しか書かれない、中央都市からすれば重要度のまったく無い町だったのだから。
しかし滅び行くはずの街には一人のおかしな少女がいた。
街の人間の誰もどこから来たか知らない一人の少女は小さな子供だと言うのに、ギルドに属し。
歴戦の冒険者ですら達成が困難なクエストを簡単にクリアしていきランクを上げていく。
逸材と言われ始め、初めの頃は周りの皆も嫉妬をしていたが、あまりの力の差に皆諦め、あれは逸材なんかでは無く、化け物だと認識していく。
化け物との噂が流れて来た頃のクエストの一つ。
廃墟と化した塔を改造し魔王と名乗っている魔物を退治してくれ。
そのクエストの中で私と彼女は初めて出会った、立場は討伐する者と討伐される者という敵対者であったが。
何しろこんな魔物と動物に占拠された廃墟になんて人間なんてほとんど来ない。
時折冒険者を名乗るよくわからない人間が襲いかかって来たが、適当に殺した。
私を殺そうとしたのだから、殺されても当然だと思うのだが。
命乞いをしてきたり、逃げ始めたので後ろから殺すと卑怯者などとこちらを罵り死んで行ったり、人間がまったく理解できなかった。
突然人の住処にやってきて、住んでいる者を殺して持ち物を奪い取る。
どちらが卑怯者だというのか。
そんなことを考え、襲い掛かってくる人間を殺し続けていた結果。
私はその塔にいた魔物達に祭り上げられ、魔王様などとまで言われていた。
どこで聞いたのか、私の風評を聞き、痩せ切った身体で財宝や食料を持って、ここに住ませてくれという者。
私と戦ってみたいという者、戦うことは苦手だが農作業は得意だという魔物、子供を育てさせてくれという魔物。
色々な魔物が廃墟と化した塔に住み着き、誰かが塔を少しずつ建て直して行き、お城のように改造していった。
そして落ち着く暇も無く、人間達は攻めてきた。
こちらも無傷という訳には行かず、かなりの魔物がやられていった。
勝手に私を祭り上げた奴等とは言え、仲間は仲間だし、殺されそうならば殺すしか無い。
そうして殺すたびに魔物が増え、幹部だと名乗る魔物も現れていった時。
チトセと名乗る少女が現れた。
あの日も何時の間にか作られた玉座でぼんやりとしていた私は始め、チトセの存在にすら気が付かなかった。
なにしろ最近は、私を殺しにやってきた冒険者を私が殺す前に部下たちが勝手にやってきた人間を殺してしまい、荷物を私に持ってくるのだ、そのせいで恐ろしく暇で、人間の街を攻めないとこちらが滅ぼされるといった会議を私の部下達がしていた時。
誰かの悲鳴が聞こえた。
「すぐに親衛隊は迎撃を」「魔王様はしばしお待ちを」などと幹部に言われたが、暇で暇をこじらせそうだったので、無視し、悲鳴が聞こえた元に行くと。
少女の迷子がいた。
何しろ、外見がどこからどう見ても冒険者には見えず、街の子供という外見だったのだ。
「冒険者じゃ無くて迷子デスか、どうやって入って来たか知りませんが、さっさと帰ってくださイ、私目当てじゃ無いようデスし」
殺そうとして来る者は殺すが、そうで無い者は正直どうでも良かった。
そしてその判断が私の命を救ったらしい。
その時少女は私をただの雑魚敵と思っていたらしいのだから。
少女はこちらを見ながら笑顔になり、私の身体が一歩下がっていた。
何故かはわからないが後ずさっていたのだ、理由はまったくわからないが、私は少女に恐怖を覚えたのだ。
幾人者自分を殺しにきた冒険者を殺し続けた私が、ただの迷子に。
「お姉ーさん」
鉄の棒をこちらに向け猫撫で声というのだろうか。
こちらに媚びるような、親が赤ん坊に話しかけてくる少女。
その瞬間私は嬲り殺される未来しか想像できず、せめて楽に死にたいと思い、最期の意地で剣を少女に向ける。
「何デスか、勝てそうに無いので戦いたく無いのデスが」
正直に思ったことを言うと、少しぽかーんとした後少女は爆笑し始めた。
「うんうん、そういう正直さ大好き。気に入った、私の仲間にしてあげる、私チトセよろしくね、お姉ーさん名前は?」
鉄の棒、後に銃といわれる武器を下ろしゆっくりとにやにやしながら歩を進める少女を見て、私の頭に過ぎったのは。
少女の笑顔を見て死んだと思った私の頭に過ぎったのは。
「ヤバイ、キチガイ女に捕まってしまっタ」であった。




