テテの街へ
ちなみにこの物語のジャンル、病んデレ系ヒーロー幼馴染少女です。寿命尽きる寸前の少女が、不安要素たくさんもってる少年をなんとかしようとするが、身体ぼろぼろなため倒れまくる
「お嬢様だっこするのはいいけど、荷物が無い時にして、痛いの」
「ごめんな」
銃が背中に当たり痛いと喚く千歳に謝り、地面に下ろす。
ぷんぷんと怒る千歳に頭を下げるが、中々怒りが収まらないようで怒りの言葉が続く。
街に着いた喜びから、大急ぎで千歳を抱き抱え、走った時にわかったが。
身体が軽くなっており、ただでさえ軽い千歳が天使のように軽かった。
というより重さを感じなかった。
理屈はわからないが、多分異世界パワーだろう。
現実的に言うならば重力が軽いのだろうが。
「そもそも、テテの街の入り口はこっちじゃなくてあっち、ここは商人専用!」
「えっ」
「何でわざわざ入り口を別にしているんだ」という疑問が頭に浮かぶが、横に置き。
本来の入り口とやらを差す千歳の指の方角に歩き始める。
「昔来た時と変わってるから、秋ちゃんは少し黙っといて、凄く面倒なことになりそうだから」
千歳の睨みつけの視線から目を逸らし、空を見上げる。
なにやらプレッシャーを感じ冷や汗が出る。
「邪魔って訳じゃないの、ちょっとルールを把握するまで勉強してて欲しいの、わかった?」
「わかったぜ」
「よろしい」と、ローブの上からも分かるぐらい大きな胸を張る。
病気のクスリのため縦は伸びなかったが、一部分の横は増えたのだ。
さて行くよとばかりに俺の手を繋ぎ、門に向かい歩き始める千歳。
身長で言えば子供に急かされる父親のような光景に見えるだろうが、同じ年齢同士の幼馴染だ。
一ヶ月程俺のほうがあとに生まれたためたまにお姉ちゃんぶられるが、その光景も可愛い。
「なあ千歳」
「なーに」
俺の胸程度しかない身長で、ダブダブなせいか身体の線がまったくわからないローブを着て背に銃を揺らしトコトコ歩く千歳は、
俺の少ない語彙では説明できない可愛さであった。
自分に子供が出来たらこのような気持ちになるのだろう。
「抱っこしていいか」
「今はダメ、早く街の私の家に行くよ」
感情を行動で千歳にぶつけようとするが歩みを止める事無く即座に断られ、手持ちぶさになったので千歳の頭に手を伸ばし髪を触
る。慣れられているので反応が無い。
「家なんてあるのか」
「うん、昔貰って住んでたの」
俺が思ったより千歳はこの世界にいたらしい。
よくよく考えてみれば、この世界のことを俺はほとんど知らない。
「ギルドや酒場には行かないのか?」
「用事が無いよ」
「聞き込みをすれば治療薬とか見つかるだろ、早く千歳の身体治して帰ろーぜ」
「あー……そうだね、早く帰らないと、危ないからね」
突然銃声が鳴り響き、獣の泣き声が後ろから聞こえた。
何時の間にか、千歳の持つ銃から煙が出ている。
「なんだこいつ!」
後ろを振り向くと、身体の半分が陽炎のようになっている真っ黒な犬がいた。
身体に銃弾を受けたのか、大きな穴が空き血と臓器を流し倒れ込みじたばたと足掻いている。
その光景を見て、気分が悪くなり口を抑え咳き込む。
動物の死に行く姿なんて初めて見たが、内心に込み上げてくるものがある。
「秋ちゃん、大丈夫?」
ゴホゴホと咳をしていると千歳に背中をさすられ、吐き気が少しマシになる。
普段千歳にやっていることをやられると不思議な気分になる。
「気持ち悪かったら吐いていいからね、ほらゲーしよ、ゲー」
「あ、あ…でも…」
「大丈夫、シャドウウルフは単独で動くからほかにはいないよ、安心して」
こんな生き物が近づいていたなんてまったく気が付かなかった。
鋭い牙を持っているし、後ろから襲われたら一溜まりも無かっただろう。
「その銃は…?」
「遺跡で拾ったの、むかーしの銃。これがあると私そこそこ強いよ、秋ちゃん守れるぐらいには」
守るどころか守られてどうするんだ俺。
それに「撃つ動作なんてまったく見えなかったが一体どうやって」という疑問があったが、何かを決意したかのような千歳の顔を
見て、言葉が出なくなる。そんな俺に千歳は優しげな視線を向ける。
「でもね、ここの事を知れば次第に秋ちゃんも強くなれるから、大丈夫やればできる子なのはお姉ちゃんが一番知ってるから」
片手でガッツポーズをし、優しく微笑み姉ぶる千歳の姿を見て、俺は強くなることを心に誓った。
その後の小声で呟いた一言は聞き取れなかったが。
「友人としてね」
聞き取れなかったが。
それから高く聳え立つ壁の周りを歩き、門に到着する。
門には鎧を着た青年と年を取った二人ぐみの兵士が立ち、一人が驚いた顔をしている。
「生きていたのか」「なんで」「どうして」こちらに聞こえるような声で独り言を言う兵士を青年兵士が不思議そうな顔で見つめ
ている。
「…久しぶり、年取ったね」
手を軽く挙げ兵士に挨拶をする千歳。
その光景を俺は話すなと言われたから黙って見つめる。
「生きていたのですか、チトセ様」
「うん」
呆然しながら千歳に声をかけるおじさん兵士。
それに対しての千歳の反応は「ああやっぱり」といった感じだ。
殺されたのではという問いかけに何の疑問も抱いていない。
「私はあの時…」
「門番のおじちゃん、いつも街守ってくれてありがとね、でもそれは今は秘密なの」
「ですが」
「おじちゃんが職務に忠実なのは知ってるから、あの時のことは気にしなくて良いの」
何かを話そうとしたおじさん兵士の会話を遮り
後ろに両手を回し、腰を少し曲げ首を少しだけ傾げる千歳。
それを見て目を瞑り、頭を下げるおじさん。
「わかりました、また何か御用があれば、協力いたします、それでは街へどうぞ」
「えっ審査は良いんですか」という青年兵士を横に置き、町へと通される俺と千歳。
どういうことなんだという視線を向けるが、千歳はごまかすように笑うだけだった。
二人が街の中に歩いていったあと、青年兵士はこの街の門番をして30年は立つ先輩兵士に尋ねることにした。
「さっきの少女は一体誰なのだと」「何故検査すらしなかったのですか」と。
「神様だよ」
何いってんだこの先輩、頭おかしくなったのか。
まさか先ほどの少女に何か魔法でもかけられたのかと、内心突っ込む青年兵士。
しかし先輩兵士があまりに真面目な顔をしてるためか茶々を入れれない。
「神様なんだよあの娘は、見捨ててしまったが、見捨てることになってしまったが…」
「生きていられたのか」「良かった、本当に良かった」などと呟き、泣き始める先輩兵士。
厳しくていつも無愛想な表情の先輩が泣くとは思わず、焦る青年兵士。
この後しばらく業務は止まり、見回りに来た上司に見つかり、減給となりかけるが。
詳細がわかり、減給を間逃れることとなる。
テテの街はそれほど大きな街では無い。
人口にして10万人にも満たない、カダク大陸の北に位置する小さな街だ。
しかし周りを山脈と森、平原に囲まれているため資源豊かであり、そこで取れる食物や魔石をメインに他の町と貿易し、栄えてい
る。
二人が入ってきた門から見えるのは、広い道路を擁した商店街であり、昼でも無く、夕方でも無いためか、人通りが少ない。
商店街の裏の西地区が住宅地区。東の裏地区は街の食料を支える畑。
街の中央への道は街の長がいる城や学校、教会やギルドの本部がある中央地区へと続き
そして門から一番遠くである北地区は工場などが立ち並ぶ。
この国の首都になると中央区には、貴族等がいる貴族住宅地や、王が住む城があるらしいが。
残念なことに現物は一度も見たことが無く、昔人伝に聞いただけという。
「なんだかよくわからないものがいっぱい並んでるな、もしかしたらこの中に病気の特効薬があるかも知れないな」
日本では見たことが無いような物が立ち並ぶ商店街の商品を見て、俺のテンションは上がる。
未知のアイテムや武器防具、食料などが売られているのだ。
いきなり目的を達成してしまうかも知れないと思うとテンションがあがって当然だろう。
露天が販売している、様々な粉は何かの薬かも知れない。
そんな俺の反応を見て、千歳は「良かった」と言いながら溜息を付く。
「あんまり変わってない…、これなら秋ちゃんも大丈夫なはず」
「なあなあ千歳。これってどんな薬なんだ」
浮かれ気味で露天商の薬を指差し千歳の名前を呼ぶと、辺りを歩いていた人間の数人がこちらに視線を向けてくる。
先ほどの兵士のように驚き信じられないといった表情でこちらを見つめている。
不思議なことに、こちらを見た人間は皆世代が同じであろう初老を向かえたぐらいの男性ばかりであった。
「兄さん達はこの街、初めてなんすか?」
露天商の青年がこちらに声をかけてくる。
「ああ、千歳が身体を悪くしてな薬を探しているんだ」
千歳を指差すと、露天商の青年は口笛を鳴らす。
「そのお嬢ちゃんに薬ですか…お客さん良い時に来ましたね、とって置きの商品があるんですよ」
「本当か?」
幸先が良いってレベルでは無い。
露天商の青年は、並んでいた商品の一つの瓶を手に取りこちらに向け、手渡す。
「ええ、これですよこれ、どんな病気でも一瞬で治す万能薬、一口舐めれば全てが解決しますよ、使い方は簡単兄さんがそこのお
嬢ちゃんに口移しでぶちゅーっとやれば、すぐにでも直りまっさ」
キスが出来る上に、病気が治る。
全てが解決する上に、千歳の初めてが貰える最高の品では無いか。
「よし、ならこれを」
買おう。
そう言おうとした瞬間、隣からどす黒い殺気のような物が飛んできて露天商の青年は悲鳴をあげ、身体を震わせる。
俺は慣れているが、千歳のこの人を殺せそうな殺気は初めてだときついと感じる。
しかし万能薬に対して殺気を飛ばすなんて、どうしてなのだろうか。
「千歳」
「秋ちゃんはちょっと黙ってて」
俺の手にあった瓶を地面に叩き落し、瓶は割れ薬の液体が地面に吸われる。
理由はわからないがキレている。それはもう物凄くキレている。
この光景は昔見たことがある。
小さな頃、同じ幼稚園の男子にいじめられていた時に、俺をいじめていた男子を。
(怪我させた時の千歳に似てる…)
思えば、あれから千歳の事を好きになった。
俺がどうしていいかわからず泣いている時に颯爽とやってきて、救ってくれた千歳は俺にとってヒーローである。
幼馴染としても好きだし、ヒーローとしても好き出し、女性としても大好きだ。
生憎、その時は男子が怪我をしたため「暴力はいけない」と凄く怒られたらしいが、千歳には感謝の気持ちを精一杯伝え、俺もいじめていた男子にガツンといった。
(あの時と同じということは、俺は…こいつに騙されていたのだろうか)
殺気を漲らせキレている千歳と、怯え竦んでこちらに助けの視線を求めている露天商の青年。
千歳は外見は大人しそうで可愛くて、体格も小さいが、怒ると人が変わる。
「なあ千歳」
千歳に声をかける少し殺気が落ち着き、こちらを睨むかのように視線を向けてくる。
そんな状態に安堵したのか露天商の青年はほっと一息を付き
「俺は何も悪いことしてないですぜ」「兄さん、この薬の弁償をしてくだせえ」などと言ってくる。
「俺、また騙されてのか」
「うんこの薬、ただの毒薬だよ、頭ダメになるから治った気持ちにはなるかも知れないけどね」
そうか、なら任すよ姉さん。
小声で思いを伝え首を青年に向かい振り「いっていいよ」と合図をすると、千歳は笑顔になり銃を向け、露天商の青年は声にならない悲鳴を上げズボンから液体を漏らし始めた。
(早く守られるんじゃなくて守れるぐらい強くならないとな、そうじゃねーと結婚どころか恋人すら無理か…)




