こちら魔法のチケット異世界へ送ります
幼馴染で仲良くても大体周りの声で仲悪くなりますよね
人生は一言で言えば楽しい、何しろこの世に生まれて十七年、物心付いた時に起きたあの出来事から大好きな幼馴染の千歳がいるのだから。
しかしその千歳は病気で余命僅からしい。
本来ならばその時点で悲哀の結末しか無いだろう、なにしろ物語の結末が見えてしまったのだから。
しかしその物語は続編の可能性が出てきた。
「こんにちは、叔母さんちょっと千歳の荷物持ってって大丈夫ですか!」
「鍵は閉めといてね」
今まで俺は幼馴染の千歳が好きと隠さず生きてきた。
そのせいで男の同級生にからかわれたり、いじめられたりもした。
女子からは何故かデートの行き先や告白のアドバイスをされ、励まされたり、味方になって貰えた。
そのせいで益々男子からは嫌われたのだが、どうでも良い。
千歳の子供の時からほとんど変わらない体格でとてとてと歩く姿を見て愛らしいと思わない男なんて男では無い。
何をしてても可愛いし愛してるのだ。
「ありがとーございます!」
買い物に行く所であった千歳の母親に挨拶をし、合鍵で家に入る。
千歳の部屋に入り、俺が子供の時にプレゼントしたがま口の赤い財布を捜す。
あまり家に居ることがないせいか、物が置かれておらず殺風景な部屋だ。
ベットに置かれた俺がプレゼントしたクマや魚のぬいぐるみ程度しか物が無い。
あとは机がポツンと置かれているだけだ。
机を漁り、財布を探す。
すぐに見つかり、鍵を閉め、病院に走る。
「千歳、持って来たぞ」
寝ている千歳の身体を軽く揺すり、目を覚まさせる。
口を少しあけぼんやりした雰囲気でふらふらしている。
「早いよ…もう少し寝かせて…」
くいくいと服を引っ張られる。
その仕草がやはり愛らしい、可愛い、大好きだ。
「俺はお前を救うぞ、任せろ、さあ魔法のチケットで異世界へ旅立つから、待ってろ」
「…えっ、秋ちゃんが行くの?」
千歳は目をぱちくりさせ、不思議そうな顔をする。
そこで何故不思議そうな顔をするかがまったくわからない。
「そりゃそうだろ、俺に全て任せておけ、なあに愛の力でなんとかなるさ」
「秋ちゃん全然あの世界のこと知らないでしょ、私だけでいったほうが」
「馬鹿野郎、お前は身体がぼろぼろなんだから黙って寝て、俺に全て任せろ、なあに勉強は学年トップ10なんだぜ」
「…秋ちゃん、息吸って」
すう。
「吐いて」
はー。
「もう一回吸って」
すう。
「吸って、吸って、吸って、吸って」
すうすうすうすう。
ゲホンと咳が出る。
千歳は呆れた顔で俺を見つめている。
「今のままほっといたら勝手に死にそうだから、私も着いて行くよ、秋ちゃんは後ろに付いてきて、そうじゃなきゃダメだよ本気で死んじゃうから」
先ほどまでは元気どころか、完全に投げやりになっていたというのに、使命感溢れる態度に変わっている千歳。
一体全体何が起きたというのか、今の俺に任せてくれたら何でも出来ると言うのに。
「不満な顔しないで、秋ちゃんは今妄想が突っ走ってダメな子になってるだけだから」
やればできる子、それは私が知ってるから安心して。
どうやら俺は褒められているらしい、千歳に褒められると心が躍る。
心が浮ついたままでいると何時の間にか財布が千歳の手に渡り、異世界への魔法のチケットを取り出す。
財布の中に入れられていたというのに、くしゃくしゃにならずピン札のようにピンとしている。
小さな頃はわからなかったが英語で「fantasy world」と綴られている。
「どうして…?」
魔法のチケットを見つめていたら何時の間にか何処かの焼け野原に立っていた。
千歳は病衣でスリッパ姿であるし、俺は学校帰りの学生服のままだ。
何の準備もせずにこの世界に来てしまった。
神様に出会うことも無く。
「千歳、ここは一体どこだ、草原じゃなかったのか、というか神様はどこだ、能力まだ貰って無いぞ」
「何言ってるか分からない、でもとりあえずテテの街に行けばなんとかなると、思う…?」
「ちょっと待ってくれ、そんな格好で行くのか?」
俺の手を繋ぎ、どこかに歩き始めようとした千歳声をかけ、今の服装を確認させる。
自分の身体を見下ろし「あー」「うー」などと声が漏らす千歳。
どうやら完全に忘れていたらしい。
「ちょっと待ってて、すぐ着替えるから」
そういうと千歳はアイテム袋から、小さな身体の全身を覆うような黒いローブと三角帽子、皮で作られたであろうベルトと巾着袋
を腰に着け、自身の身長並みの細長い棒を、銃を取り出す。
それは例えるなら小さな暗殺者と言った物騒な格好であるが、千歳が着けると不思議と物騒に見えない。
地面に引き摺りそうな銃が可愛く見えるぐらいだ。
杖を持っていたら魔法少女になると思うが何故銃なのだろうか。
「五年も立つのにサイズが変わってないってのも変な気持ち…」
独り言を言いながら着替える千歳。
俺以外誰も人間がいないとは言え、外でいきなり着替えさせるのはやめさせた方が良さそうだ。
見慣れているから今更新たな感情は沸かないが、俺以外の男になるべく見させたくない。
「それが昔、遊んでた時の格好か?」
「うん、かっこいいでしょ、昔見たアニメで居たキャラの格好なの」
そう言うと
銃を頭の上でくるくると回し、銃を両手で空に向け、ビシッとポーズを決める千歳。
その動きは病院にいた時のようにだるそうな身体の動きでは無く、ハキハキとした動きである。
「そんなに動いて身体は大丈夫なのか?」
「うん、ここだと身体の調子が凄いいいの、さながら正義のヒーローになったみたいにね、秋ちゃんは私の後ろにいといてね、戦えるようになるまでは守ってあげるから、冷静になるまではキチンと守ってあげる」
肩を竦める。
か弱い少女の後ろに隠れるどころか、俺がなんとかしなければ千歳なんてすぐに負けてしまうだろう。
山賊だろうが、モンスターだろうが俺の手にかかれば何とも無い。
そうして伝説のモンスターを倒して全ての病気を治す万能薬さえ手に入れれば、身体を治した千歳と結婚ができる。
そうして国の王子と王女となり、幸せに過ごしましたとさめでたしめでたし。
「秋ちゃん、頭でどんなストーリーができてるの…?」
「何か言ったか?」
「とりあえず、秋ちゃんがひどい勘違いをしてるってことを」
「何がだよ、俺は何時でも本気だぜ、伝説の勇者にだってなれるさ」
「いいやもう、とりあえずテテの街に行くよ、どうしてこうなったか門番さんに聞かないと」
「ああ、まずはギルド登録だな!」
目を瞑り首を傾げる千歳と俺は焼け野原から、森に向かって歩き始める。
草原は焼けて無くなっていたが、森は残っているのだ。
見たこともない高さの山脈もまだあるが、今から行くのはそこから逆方向だ。きっとあそこにはドラゴンがいるのだろう。
「なあ千歳、随分歩くんだな」
「まだ五分も立ってないよ」
「モンスターは出てこないのか?」
「…多分いないと思う、この辺りは治安が良いはずだから」
少し考え込み、話す千歳。
先頭の背中を見て歩くのは何年ぶりだろうか。
冒険隊長である千歳と、部下である俺で町中を冒険したことを思い出し、何か物音がする度にそちらに銃を向ける千歳を見て頬が緩む。
いくらなんでも臆病すぎだろう。
始まりの森なのだから、強いモンスターなんているはずが無い。
歩けど歩けど街は見えず、森も途切れない。
初めのウチは動きにキレがあり、元気そうであった千歳も足取りが重くなり、動きが鈍ってきている。
「千歳疲れただろ、おんぶでも」
「良かった、あったよテテの街!助かった、もうぎりぎりだったの」
千歳の指差す方向には、高い壁に囲まれた要塞のような光景が広がっていた。
安堵したかのように木に背を預け、座り込む千歳。
そして俺は千歳を抱き抱え街へと向かう。
「えっちょっと休ませて」
(待ってろ千歳、すぐにでもその身体治してやるぜ)




