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この章でおしまいなので、最後までお付き合い頂けると嬉しいです。
今回は不妊と性病についての記述があります。ご不快に思われるかたはご注意願います。
大陸随一の大国、帝国インバシオンの首都にして大陸中の人と物と食べ物と娯楽が集まる街オラージュ。きっと面白い見所が満載なのだろうが、オレは今まで通り過ぎたことはあっても、泊まったこととはない。
今回も昼前に着いたここですることは、持ち帰りが出来る昼食を買って、そのまま教都へ続く街道に向かって通り過ぎるだけだ。
「ごめんな、シア。ゆっくり出来なくて」
着いた途端出て行く慌ただしさに申し訳なく思って謝ると、シアは力強く首を振った。
「いいえ! こんな街も国ものんびりしていたくありません! 早く出て行きましょう」
国もって、今まで通ってきたトリベウスもサルトもセレッソもペタルも、全部インバシオンの領地の街なんだけどね。
教都だけが飛び地のように自治権を持っているが、周囲はすべてインバシオンである。もうこの大陸は、辺境の一部の国を除いてほとんどインバシオン帝国の支配下にあるのだ。
つまりここ4年近く、主にインバシオンの中で動き回っていたため、オレはインバシオンに対して以前ほどの危機感はなくなっていた。もうオレのことなんて、あの国王は忘れているのではと正直考えている。
だからオラージュを出る門の前で、インバシオンの正規軍、しかも近衛兵の制服を身につけた兵士達に囲まれた時、何かの間違いかと思った。
オレはなるべく冷静な表情を取り繕い、10人以上いる兵士の中で一番格が上だと思われる一人に話しける。
「人違いではないですか。私たちは旅の者で、こちらの街をただ通り過ぎるだけなのですよ」
オレの言葉を、兵士の一人は無情に切り捨ててくれる。
「いいえ、アルツ=ウィルニゲスオーク様とそのお連れ様を城にご案内するよう、フィーリア殿下から申し付かっております」
フィーリア! お前かよ、紛らわしい! 密かに緊張していたオレは、ふっと息をつく。それに対し、シアは怪訝そうな顔をして、オレに小声で話しかけた。
「あの、フィーリア殿下ってもしかして……」
オレも頷きながら、小声で返す。
「そう、インバシオン帝国国王のご息女、フィーリア=アウロ=インバシオン殿下だ」
そしてオレの今はない故郷、パラヴィーナを侵略した時の総大将だった人間だ。それを知っているシアは、なぜ? とオレに視線で疑問を投げかけてくるが、こんなところですべてを説明することは出来ない。
オレは口だけの動きで「その話は後で」と伝え、シアを黙らせた。
シア様がイライラしております! あれから小一時間たっておりますが、ちっとも説明出来ません!
なんとなく、フィーリアとの関係を誤解されている気がします。ヤキモチを焼かれるのはちょっと嬉しいけど、在らぬ誤解は早々解かないと後が恐いです。
軍事大国らしい要塞のような城に連れて行かれ、絢爛豪華な応接室に連れられたまでは良かったが、侍女が何人も控えていて二人きりで全く話せない。フィーリアとのいきさつはかなり微妙な内容になるので、誰彼構わず話せるものではなく、オレもイライラしながらフィーリアを待つ。あいつ本人が来なければ人払いなんて無理だろう。
「フィーリア様がいらっしゃいます」
ようやく先触れの侍女にフィーリアの訪問を告げられた時、イライラし過ぎでオレもシアもぐったりしていた。人を拉致しておいて、遅いよ馬鹿野郎。
優雅に現れたフィーリアは、王女らしくシンプルながら質の高そうなドレスを身にまとって、栗色の髪も優美にまとめ灰色の瞳によく似合っていた。オレが会った2年前の姿とは全く違って見え少し驚く。
「久しぶり、アルツ。無理矢理呼び付けて悪かったわ」
言葉の上では謝っているのに、偉そうでちっとも悪いとは思っていない態度……。お前はやっぱりオレの知ってるフィーリアだよ。
オレはうんざりしながらも、慇懃な態度でフィーリアに向かってお辞儀をする。
「ご無沙汰しおります、フィーリア殿下。この度はわたしのような人間を、名高い不落の城へ招待いただきありがとうございました。その上、インバシオン帝国の中でも卓越した能力を持ち、賞賛の声をほしいままにされているフィーリア王女との謁見を賜り恐悦至極に存じます」
オレがしらっとした顔で美辞麗句を連ねてやると、フィーリアはものすごく嫌な顔をして、「貴方たち、下がって頂戴」と人払いをした。
「あ~あ~! 気持ち悪かった。何あれ? 嫌がらせなわけ?」
「お前はオレに、嫌がらせをされるようなことをした自覚があるんだな」
うっへ~~、と吐く素振りをして顔をしかめるフィーリアに、オレはこの上なく冷たい声を投げ捨てた。すると、フィーリアは口をとがらせて文句を言う。おいおい、お前もう21歳過ぎてんだろ。そんな表情しても痛いだけだぞ。
「何よ、感謝してもらっても、恨みがましく文句を言われる筋合いはないと思うわよ」
「文句を言われたくなければ、オレが感謝したくなるような説明をしろ」
「アルツ偉そ~う」
「へりくだれば気持ち悪がられ、素で接すれば文句を言う。お前の方がよっぽど偉そうだわ」
オレとフィーリアが終わりの見えない言い争いをしている中で、シアが恐る恐る手を上げた。
「あの……、お二人の関係を聞いても良いですか?」
戸惑ったようなシアの表情に、先ほどまでの嫉妬混じりの苛立ちは見えなかった。どうやらオレたちの間に色っぽい関係はないと理解してもらえたようだ。
「ああ、2年ほど前オレが監視官の仕事で……」
「は~い。寝台を共にした仲で~す」
「なっ!」
オレが驚きのあまり絶句するなか、フィーリアはべらべらしゃべり出す。
「嫌がるあたしを魔術で縛り上げて、下半身を脱がされ、あらぬ所をまじまじと見られた上に、触られました!」
あまりの内容にシアが固まってしまい、オレは思わずフィーリアの後頭部を思い切りどつく。
「痛ぁ~~。今、マジで殴ったでしょ。乙女を本気で殴るなんてサイテー!」
顔をしかめながら、頭の後ろを撫でるフィーリアにオレは怒鳴りつけた。
「変な言い方するな! 診療行為だったろうが、あれは!」
「――あたしの同意なしでやった行為を、医療行為と言えるの?」
「そ、それは……」
確かに、繋縛の魔術で動けなくして無理矢理診たのは事実で、それを医療行為と呼んではいけない。しかし、詳細を患者のフィーリアの許可なしにシアに言うこともはばかられ、言葉が詰まったままオレはシアの顔をチラチラと見やった。ああ、まだ固まっている……。
「ぷぷっっ! おっかしい~~。アルツ、超きょどってる~~」
腹を抱え、大笑いするフィーリアの耳を掴むと、オレは大声で叱りつけた。
「お前、オレとシアの関係を分かってて、わざとやってるだろう。からかうのもいい加減にしろ!」
オレが睨み付けているのを無視して、フィーリアはシアに真面目な顔をして向き直った。
「シアルフィーラさん、ふざけた態度を取ってごめんなさい。アルツとは2年前、あたしが護衛として雇われてた旅商人の団体で会ったの。アルツはそこで医術師として雇われてて……。まあ、色々あって、あたしがアルツを落とそうと寝台に忍び込んだら、逆に魔術で縛り上げられちゃったの。そんで、それだけ気軽に寝るなら性病の危険性があるって、下半身を脱がされ無理矢理診察されちゃったら、結果はクロ。立派な性病で、そこで雇われてた1ヶ月間、ずっと治療されちゃった」
オレが監視官として潜入捜査中の話なのだが、オレは医術師として、こいつは何故か護衛の剣術師としてお互い旅商人に雇われた人間として出会ったのだ。オレとしては跳ねっ返りの小娘にちょっとお灸を据えるつもりでやったことなのだが、まさかこんなところで己の所行がシアにばれてしまうなんて……。
正気に戻ったシアは、更に戸惑った表情でフィーリアに問いかけた。
「フィーリア殿下はどうしてそんなお仕事をされていたのですか?」
そうだよな、オレも当時大変疑問だったよ。
「ちょっとぐれちゃってたんだよね~~。物心ついた頃からずっと後継者としてガンガン重圧掛けられながら、勉強やら稽古やらしててさ。初陣の時に一人で任されてたと思って頑張っていたのに、実際はぜ~んぶ仕組まれた三文芝居でさ。
空しくなっちゃったわけよ。あんだけ頑張ってたあたしはなんなんだ~! って家出して1年ぐらい放浪してました」
ぺろっと舌を出して肩をすくめるフィーリアに、オレは内心ため息をついた。軽薄そうに言っているが、コイツの葛藤は並々ならないものがあったのだろう。なにせ、インバシオン帝国の後継者として、求められ続けてきたんだ。
「フィーリア殿下の初陣って……」
シアがオレにした質問は、フィーリアがぺらっと答えた。
「そう。アルツの故郷、パラヴィーナ国のラントを制圧した戦いよ。つまり、あたしがアルツの義父と義弟たちを殺したってワケ」
「お前が殺したわけじゃない。父さん達が死んだのは、国王が父さんの過去の素性をばらしたせいだ。お前のせいだなんて、オレは思っていないよ」
「そうね。でも、クソ親父がしなくても、戦いが長期化してたら調べ上げてあたしも同じことをしていたわ。アルツ、誤解しているかもしれないけど、あたしはこのことでアルツに悪いと思ったことなんて一度もないわよ」
フィーリアは胸を反らしてオレをねめつける。その高慢な態度に思わず苦笑がもれた。
「『悪い』と思われる方が、よっぽど気分が悪い。戦争なんだ、それを個人に持ち込むつもりはないよ。フィーリアの自分が行ったことをすべて受け止めようとするその矜持の高さ、オレは嫌いじゃない」
オレの言葉に、フィーリアは少し顔を赤らめて視線を下げる。そして、一時視線をさまよわせたが、肩をすくませ厭世的に笑う。
「その強がりも無駄だったみたい。あたしの箔づけのために滅ぼされたパラヴィーナ国や、アルツの家族達は、やられ損だわ」
「……どういうことだ?」
あまりの暗いフィーリアの表情と言葉に、オレは戸惑う。むやみやたらとプライド高くて、自分の弱みなんて死んでも見せない女なのに。
フィーリアは暗い顔のまま、力なく笑った。
「先週正式発表になったんだけど。そうか、アルツは旅をしている最中だから、情報が行かなかったのね。教都の神殿でもこの情報できっと今頃もちきりよ」
「なにがあった、フィーリア?」
問い詰めるオレに、フィーリアは力なく見返す。その様子も全くオレの知っているフィーリアと全く違い、どこか茫洋とした態度で言葉を発する。
「あたし、剥奪されちゃったのよ。インバシオンの王位継承権を」
フィーリアの言葉に、オレもシアも息をのんで言葉も出なかった。
「なぜ、そんなことになったんだ。今、まともにインバシオンを継げる人間など、お前ぐらいしかいないだろう」
国王の子どもはフィーリアの上にも大勢いたが、戦争で倒れたり病気で亡くなったりで、現在フィーリアと13歳の王子だけだ。その王子も、体が弱く後継者としては周囲も見ていなかった。
「そう、弟のレギシスじゃ力不足だしね。でも、あたしも後継者としては致命的な欠点が見つかったの」
「致命的?」
怪訝な顔をするオレに、フィーリアは苦笑しながら肩をすくめた。
「以前アルツに注意されたこと、まんま的中しちゃった。
あたし、子どもが出来ない体になってたの。次の後継者を生むことが出来なければ、インバシオンの後継者としては、致命的だわ。
ごめんね。あの時『子どもを欲しいと思っているなら、体を大切にしろ』って教えてくれたのにね。せっかくのアルツの忠告、無駄にしちゃったわ」
「あれが、原因なのか?」
「わからない。でも、あたしのお腹の中炎症がひどくて、もう妊娠するのは無理だろうって。
アルツに直してもらったのに、病気がいつの間にか再発してたみたい。今度は誰にうつされたのかな。それさえも分からないんだから、本当反省出来ていないよね、あたしも」
性病の中にはほとんど自覚症がなく、知らず知らずのうちに進行するものも多い。そして、症状が進むと男女とも子どもが出来にくくなる不妊症になる危険性が高いのだ。
弱々しく笑うフィーリアに、なんて声を掛けて良いのか分からずに戸惑っていると、フィーリアが何かを切り替えたように、居住まいを正しオレに向き直った。
「あたしのことは良いの。本当に自業自得だと自分で分かっているから。だけど、そのせいで、アルツに迷惑が掛かることになるかもしれなくて……。だから、無理矢理ここに来てもらったの」
「オレに、迷惑? インバシオンの後継問題がどうオレに関わってくるんだ?」
オレが首を捻ると、フィーリアは「ちょっと失礼」とオレに近づき、突然前ボタンのオレのシャツを思い切り破りやがった。
「な、なにしやがる!」
この馬鹿力が! 焦って前をかき合わせるが、フィーリアは目的のものが見つからなかったようで、「あれ~、おかしいなあ」とかほざいている。おかしいのはお前だ。
「アルツ、龍を殺したんだよね。龍を殺すと殺した者の、左の胸の上に特殊な文様が現れるって聞いたんだけどな。無いね」
「そんなことを確認するために、人の服破りやがったのかお前は……。龍? なんのことだかわからんな」
呆れた顔で言い返してやると、フィーリアはニヤリと笑った。
「誤魔化そうとしても無駄よ。インバシオンの情報網をなめないで。アーリリア教の神殿が龍を手に入れたことは分かっているのよ。アルツもあんな大きなものを他に漏らさず所有できるとは思ってないでしょ」
オレは無言を答えにした。
「アーリリア教で、龍を殺すなんて芸当が出来るのはアルツぐらいだし、4年前から大陸中を行き来してたのは龍を探すためなんじゃないの? アーリリア教が龍を手に入れたという情報が出るとほぼ同時にアルツは教都に戻ってきた。誰が龍を殺したかなんて明白よね」
「それで、お前は何を言いたい。後継問題はどこへ行った」
その件に関し、なにも言えないオレは話を元に戻す。
「アーリリア教がこの大陸に魔術を伝えるまで、この大陸には魔術に相当するものはなかったと言われているわ。でも、実はインバシオンの王家にだけ伝わる魔術に似て非なる呪術があったの」
「――そんな話、オレたちにして良いのか?」
話が戻らず、明後日の方向に飛んだことを内心苛立ちながらも答える。
「アルツになら良いわよ。言ってまずいことをペラペラしゃべる人間じゃないし、もう巻き込まれた当事者だもん、聞く権利はあるわ。それに、4年前国王が刺客に襲われた場に居合わせたんでしょ。おかしいって、気がついたんだじゃない? 殺されそうになっても動じない国王の様子に。
実はどんな攻撃も攻撃者に跳ね返してしまう術が国王には掛けられているの」
以前、オレが国王を殺そうと血迷った時に、サシャスに教えられた内容と同じだったが、オレはまるで初めて聞いたかのように、戸惑った顔を作った。
「にわかに信じがたいが、その呪術がオレに関わってくるのか?」
「そうよ。あたしも呪術について、詳細は知らないの。その利益はインバシオンの国王だけが享受出来るものだから。でもね、こんな術もあるって、子どもの頃酒に酔った国王に聞いたことがあったの」
緊張した面持ちのフィーリアは唇をなめ、言葉を続けた。
「『龍を殺した者は龍の力と永遠の命が与えられる。そして、その者の心臓から直接血を飲み干せば、その力と永遠の命が得られるという呪術がある』って」
内容の奇々怪々さにオレもシアも、顔が引きつる。
「んな、非常識なこと真面目にいってるのか?」
フィーリアは唇をとがらせ反論した。
「あたしだって、信じてないわよ。でもクソ親父は信じているみたい。呪術の力を一番知っているから。
後継に思っていたあたしが駄目になって、末のレギシスもあてにならない。ならば、わしが永遠の命を得て、インバシオンを永遠に治めてくれよう。みないなこと考えていてもおかしくないわ。もし、失敗してもアルツが死ぬだけだしね」
今度はオレ、命を狙われちゃってるのかよ……。しかも材料として。
フィーリアの話でオレはげんなりしただけだが、シアは顔を青ざめて俯いてしまった。
「さっきもやばかったんだから、門の外にクソ親父の手の者が手ぐすね引いて待ってたの。あたしが先に連れてこなきゃ、アルツは今頃きっと解体ショーだったわよ」
「そ、それはありがとう」
ぞっとしない想像をしてオレはげっそりする。あの国王は正しくオレの鬼門だな。
「んで、助けてくれたフィーリアには感謝するが、これからオレたちをどうするつもりだったんだ」
下手な動きが出来ない現状を打破する方法として、オレが思いつくのは一つだけだが一応フィーリアに聞いてみた。
「今、あたしの客人として城に招いているから、国王も下手なことは出来ないわ。さっきは人知れず動いていたあんた達なら証拠を残さず拉致できるから無茶したけど、身元を明確にされている今変なことをしたら、アーリリア教に付けいる隙を与えてしまうからね。
でも、ここで再び貴方たちを自由にしてしまっては、元の木阿弥だわ。だから、アーリリア教の誰かに、大々的にお迎えをしてもらうのが一番だと思うの」
オレの考えと大して変わらなかったフィーリアの考えに、オレは成る程と頷くと虚空に向かって命じた。
「――というわけだ。レーヴァン、ナスカかサージュ様に事情を説明して迎えを寄越してもらえるよう伝えてくれ」
するとオレのすぐ脇で黒いもやのような物が出来たかと思うと、それが急速に濃くなって黒衣の男の姿に変わった。
「こんな所で呼び出されるとは思いませんでした」
レーヴァンは、オレに凄艶な笑みを投げた。流し目が気持ち悪いぞ。
「どうせ、サルトでの件もコイツや国王は知っているさ。で、してくれるのくれないの?」
そっけないオレに、レーヴァンは慇懃な礼を示す。
「勿論、喜んで承りましょう。教都から使いが来るまで、こちらにてごゆるりとお待ち下さい」
そしてそのまま、ふっと消えてなくなった。レーヴァンがいる間息を詰めて固まっていたフィーリアは、ぷはーと大きく息を吐く。
「びっくりしたー! いきなり出て来るんだもん。今のが『誘う者』? 超美形だったね~。ってかあたしに姿を見せても良かったの?」
「レーヴァンにも言ったが、サルトのカジノでアイツが姿を見せたことぐらい掴んでただろう。今更だよ」
「まあね。でも正直あれも驚いた。アーリリア教が『誘う者』を飼っている噂は聞いてたけど、あんな人前で堂々と出てくるなんて……」
「さてね。アイツの意図なんて考えるだけ無駄だろ」
「――今はアルツがアレを飼っているの?」
フィーリアの探るような眼差しで見るが、オレは首を振って否定した。
「んなわけあるか。こういう場合の伝言に使えと言われてたんだ」
フィーリアは「ふうん」と相づちを打ちながらも、意味ありげな視線を送る。
「そんなことより、よろしく頼むぞ。オレは恐ろしげな呪術の材料にされたくないからな」
「ええ。キチンと責任もって保護させていただくわ。だから貴方たちはごゆるりと過ごしちゃってよ」
フィーリアはニンマリ笑って請け負ってくれたが、オレは予定外のインバシオン滞在にうんざりとため息をついた。




