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部屋に戻るとオレは、髪の色をまやかしの魔術で黒くして撫で付け、服装を監視官の制服に替えた。それに監視官の支給品である色付きの眼鏡を掛ければ変装の完成だ。
そんなオレをシアはキラキラした瞳で眺めている。シア、もしや眼鏡・制服フェチ?
「この格好、気にいった?」
「はい、とっても格好良くて好きです! アルツじゃないみたい、そんな服も持っていたんですね」
「オレは特徴の無い顔してるから、インパクトのある格好をしていれば知り合い程度じゃばれないでしょ。これは教会の監視組織である監視官の制服だよ。一応持って来てて良かった。これを着てれば教会内は大抵フリーパスだからね」
「どうして、そんな制服を持っているんですか」
その通りな疑問に苦笑する。
「一応オレ今監視官ということになってるんだ。大陸をあっちこっちに行くのに、この仕事が一番動きやすいからね。ナスカがねじ込んでくれたんだ」
お陰で四年間色々と楽だった。その分監視官の仕事もさせられたけど。
「シアは教都のお偉いさんのご子息で、オレが医療院をご案内って設定にするから、なるべく喋らないようにオレにあわせといて」
「わかりました」
オレは眼鏡を外して素直に頷くシアの肩を持った。
「それから、昨日も言ったけどもう二度と『蘇生の術』は使わないでくれ。『癒しの術』も。シアはもう癒しの巫女じゃないんだよ。任を降りただけで術自体はまだ使えるけど、術に身体が耐えられない。じいさんの時、一時だけど本当に心臓が止まったんだ。心臓止まった人を助けるために自分が心臓止めてどうする」
オレの本気で責める口調に慣れていないシアは、目を潤ませながら伏せた。思わず口調を緩めそうになるが、心を鬼にして続ける。
「癒しの巫女だったシアに言うとシア自身を否定するかのように聞こえるかもしれないけど、オレは『蘇生の術』の存在自体本来ならば人の身にあってはいけない力だと思っている。癒しの巫女の時は使わなければ逆に自家中毒を起こすと聞いていたから、シア自身のために使うことは必要悪だと考えていた。でも、もう使う必要はない。『蘇生の術』はシアの命を削るものだ。オレのためにもう二度と『蘇生の術』を使わないと約束して欲しいんだ」
癒しの巫女になる女児は十歳前後に突然『蘇生の術』が使えるようになる。魔力は溢れ、どれだけ術を使っても身体に支障は出ない。しかし、それをピークに魔力はどんどん減っていき、術は巫女の身体の負担になっていく。そのため始めは毎日行われる術も、二日に一度、三日に一度と少しづつ減っていき、二十歳の退任前には1週間に一度行われるだけになる。それでも術は巫女の身体を蝕んでしまうのか、癒しの巫女は皆早世だ。それならば、もっと術を行うのを減らせばと思ってしまうのだが、それ以上減らすと逆に人より多い魔力が身体に溜まってしまい自家中毒のような症状が出てしまうらしい。
『蘇生の術』は、どんな難病や瀕死の重傷患者でも瞬く間に治してしまう神の力の如き術。
医術師として病気や怪我と向き合ってきたオレには、どうしてもその力は不自然で歪んだものしか見えない。そして、シアの命を奪う忌々しい力だ。シアが癒しの巫女でなければオレ達が出会うことはなかっただろうが、それでもオレはこの力がシアに無ければと願ってしまう。ダリヤのじいさんを診た時、もう長くないと分かっていたから、本当はじいさんが血の繋がった祖父であることをシアに伝える気はなかった。ダリヤのじいさんが生きたいというのなら、オレは幾らでも手助けしただろう。だが、シアが『蘇生の術』を使うぐらいだったら、じいさんは死んでしまっても構わないと思っていた。
「わ、わかりました……」
顔も上げずに返事をするシアをオレは労わるように抱きしめた。
シアは癒しの巫女になるべく生まれ、『蘇生の術』を使うためだけに生きるよう教育されてきた。『蘇生の術』を使わなければ自分に価値は無いと思い込んでいるふしがある。シアは何をしなくても何も出来なくたって、そこにいてくれるだけでオレにとって価値がある大切な人なんだ。
それを分からせるのが今一番重要なオレの仕事だと思った。




