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一階の食堂に行くため、自分とシアの身支度を簡単に整えると、オレはシアに向き直った。
「シア、これからは少しずつ身の回りのことを自分で出来るようになろう。勿論出来るまでオレが手伝うから」
そう伝えると、シアは緊張した顔で「はい! 頑張ります」と答える。
シアは箱入り娘だから、身の回りのことはすべて女官がしてもらっていた。服の着脱は勿論、風呂の世話、トイレの手伝いに至るまですべて女官達の手が入っていた。
そして究極の世間知らずなため、男のオレに手伝われても羞恥心は全く抱かない。出来ないのに恥ずかしがられて手伝えないのは困るが、結婚したての夫に服を脱がされてもへっちゃらな顔をされるのも正直複雑だ。まあ、奥さんが男の身体なんだから、どうあってもオレは複雑なんだけどさ。
「それからさっき胸さわっちゃったけど、オレ以外の人間がさわってきたら嫌がってね。奥さんの胸にされるのは旦那さんと赤ちゃんだけなんだからね」
切実な思いでお願いする。胸をさわられても恥らわない新妻。そして多分誰にもさわられても平気なんだろう――――哀しい。
「赤ちゃんはいないので、とりあえずアルツ以外は拒否すればいいんですね」
「そう! 奥さんの胸をさわるのは旦那さんの義務であり、旦那さんだけの権利なんです! 他の人にさわられちゃったら、オレ泣くからね。咽び泣くからね」
そう脅すとシアは恐ろしく真剣な顔で頷く。これだけ言っとけば大丈夫だろう。男に警戒心の無い奥さんを持つと旦那さんは色々苦労します。
食堂に入るとそこにいる人間すべての視線を集める、シアが。
まあ、そうだろうな。オレも色々な場所で色々な人間を見たが、シアほど綺麗な人間を見たことが無い。薄い紫の瞳は宝石のように美しく、恐ろしく整った顔に合っている。腰まであるくせの無い髪は結ってあるが艶やかで、その均整の取れた長身の身体も、後姿だけでご飯何杯でもいけそうな麗しさだ。
ほぅ、とウットリしたため息がその場の女性のみならず、男どもからも漏れた。
くっ! オレのシアは男女関係無く魅了しちゃうぜ! オレの気の休まる暇はないのか! 頑張れオレ! シアを野獣たちから守るんだ!!
周囲を油断無く見渡しながら、シアを空いているテーブルの椅子に座らせ、朝食を取りに行く。その僅かな時間にシアは数人の男女に囲まれ話しかけられていた。本当に油断ならないよ!
シアにたかる蟻を慇懃無礼な笑顔で蹴散らし食事を始めると、オレは聞きたかった質問をする。
「ところで、今日これから行きたい所ある?」
シアは旅慣れないし、こんな機会は二度とないと思うからゆっくり街を見る時間を取ろうと、次の街に行くのは明日の早朝と決めていた。シアはこぼれんばかり笑顔で答えた。
「医療院に行きたいです!」
「……真面目だねぇ」
「……駄目、ですか?」
おずおずした態度で聞いてくるシアに、オレは笑って答える。
「もちろん良いさ。ただ、医療院に知り合いがいるかなあ。下手に顔を出すと捕まって働かされる」
このあいだも教都に帰る途中、知り合いに会いに寄ると「人手が足らないんだ!」と捕まり1週間ただ働きをさせられた。その時はトリベウスで用事があったから構わなかったが、今回はさすがにそんな暇はない。前回の無償行為で顔が知られてしまったので、更に気を付けないと拙いことになりそうだ。
「いいなあ。私もアルツと一緒に働きたいです……」
薬術師としてまともに働いた経験が少ないシアはうっとりと呟く。医術師のオレのパートナーになるのが夢だと、身分を偽りこの四年間で黄金の薬術師のメダルを取ったシア。その気持ちを思うとこの希望も簡単に拒否出来ない。
「働くのはちょっと難しいけど、見学だったら出きると思うよ。朝食を食べたら行ってみよう」
そう言うとシアは嬉しそうに笑った。
シアの喜びはオレの喜び。シアの望みを叶えるのがオレの望みだよ。




