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奇想短編箱:へのへのもへじの枠に収まらなかった物語たち  作者: 杉勝啓


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女の夫を殺した者

むかし、むかし


男がいました。男は自分の個人情報には細心の注意を払っていました。それでも、男のクレジットカードは不正に使用されました。男はクレジット会社に連絡をとり、新しくカードを発行してもらうようにしました。その後、警察にも連絡しました。しかし、警察はカード会社に連絡しているのなら、緊急性はないとして、まともにとりあってくれませんでした。




新しく、発行してもらったカードもまた、不正に使用されました。男はまた、カード会社に連絡を取らねばなりませんでした。最初に警察が動いてくれればと男は思いました。もともと、血圧が高かった男は頭がカッカしました。




後日、警察から電話がきました。その電話の最中、男はまた、頭にカッカして、倒れてしまいました。男は、救急車で運ばれましたが、そのまま、意識が戻らず帰らぬ人となってしまいました。




男の妻は大変悲しみました。




最初に警察が塩対応せずに親身になっていてくれれば夫は死なずに済んだかもしれない。




カードを不正利用したものがいなければ、夫は死なずに済んだかもしれない。




しかし、なんの権力も力も金もない男の妻は恨んで憎むことしかできませんでした。そして、憎む相手の人間も特定できないのです。これが権力のある人間ならまた、違っていたかもしれません。




夫の死後、男の妻はそのクレジットカードを解約するのにとても苦労しました。解約しようとクレジット会社に電話をしても本人でないと解約できないの一点張りでした。男の妻が夫は死亡していることなどを訴えて、泣いて喚いても返ってくる答えは同じでした。




警察や消費者相談センターなどに相談して、助言を受けてやっと解約できました。




たとえ、カードが不正利用したものが逮捕されることがあってもその人は詐欺罪が適用されることがせいぜいです。人、一人を殺しておいてそれですんでしまうのです。




警察がいかに塩対応をしようと、対応した者は特定もできず、罰をうけることもありません。




カード会社が不正を行えるようなザルシステムでも罰を受ける人も責任をとる人もいません。




こんな社会に男の妻は不条理を感じずにはいられませんが、なんの力ももたない者は泣き寝入りするしかありませんでした。








おわり

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