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奇想短編箱:へのへのもへじの枠に収まらなかった物語たち  作者: 杉勝啓


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雷神に愛された女

むかし、むかし、雷神がいました。

雷神は天帝の指示通り、雨を降らしたり、雷を落としたりしていました。さて、今日の仕事も終わったと帰ろうとしました。そのとき、雷神は雲に乗っていたのですが、ふと、下界をみると、川で女たちが洗濯をしているのがみえました。そのうちの一人が空を見上げました。雨模様が気になったようです。雷神の視界にその女が入ってきたとき、雷神は雷にうたれたような衝撃をうけました。それからというもの、雷神はその女のことばかり考えるようになりました。

女は木こりのむすめでしたが、あるお屋敷に奉公にきていたのでした。女は明るく働き者で、よく笑っていました。雷神はますます、女が好きになりました。

女は屋敷の若様と恋仲になりました。雷神はがっかりしましたが、女が幸せならと見守っていました。しかし、若様の両親は身分違いだとその恋を許しませんでした。女は親元に返されてしまいました。

木こりの父親のもとに帰った女は何日も何日も沈んでいました。女のその様子をみた雷神はせつなくなり、ある日、とうとう、下界に降りました。若様の姿になり、女の家にいくとこう言いました。

「私は家を捨てる。木こりにでも何にでもなる」

木こりは元々、二人の仲は反対でした。若様よりは釣り合った身分のものと一緒になる方が幸せだと考えていました。沈んだ女をみるのはつらかったのですが、いずれ、忘れるだろうと思っていました。だから、木こりは厳しく雷神に接し、木こりの仕事を教えました。ですが、雷神は頑張りました。これならと木こりは二人の仲を許してくれました。二人は幸せな夫婦になりました。女の幸せな姿をみて、安心したのか、木こりは、ふとした病がもとで亡くなりました。二人は木こりをねんごろに弔いました。

何年かが過ぎました。ある年、雨が一滴も降らず、草木は枯れ果て、作物が育ちませんでした。人々は困り果ててしまいました。

雷神の元へ友達の竜神と風神がやってきました。

「お前がいなくなってから、俺たちがなんとかやってきたが、もう限界だ。帰ってきてくれ」

雷神は迷いました。女との暮らしを失いたくない。ですが、人々の困窮も見捨てられませんでした。

「あなた」

いつの間にか女がそばにきていました。

「どうか、この方達と一緒に行ってください。私はうすうす、あなたのことを疑っていました。お屋敷の若様は他の方を娶られているのに、、、では、私の夫は誰なのかと。でも、あなたを失うのが怖くて言い出せませんでした」

「お前はそれでいいのか」

「あなたがいなくなっても、私にはこの子がいます」

女は雷神の子を身ごもっていました。

「最後に、ひとつだけ、あなたの本当の姿を見せてください」

雷神は雷神の姿になりました。後ろ髪ひかれる思いで雷神は去っていきました。


雷神の子はすくすく育ちました。熊にも負けない怪力の持ち主になりました。

都の偉い武将ががその子の噂をきいてやってきました。

「都では悪い鬼が暴れて、人々を悩ませている。どうか、力を貸してほしい」

その子は母を一人残してゆくのが心配でした。その後ろを押したのはその子の母である女でした。

「あなたのお父様も人々のために、私のもとを去りました。そんなお父様を私は誇りに思っています」

その子は偉い武将のもとで悪い鬼を倒すなど活躍をして、人々のためにつくしました。


暮らしに余裕のできた子は母を引き取りました。気立てのよい嫁や孫に囲まれ、女は幸せな老後をおくり、やがて、息をひきとりました。


「やっと、会えた」

雷神が迎えに来ました。

「私はもう若くありません。髪も白くなり、しわもふえました」

「それはお前のいきた証ではないか。その姿もきれいだ」

女は雷神に導かれ、天にのぼってゆきました。

女の孫のひとりが言いました。

「父様・・星が・・」

夜空に星が2つ寄り添うように並んでいます。

「母上はやっと父上に会えたのですね」

女の子供は、つぶやきました。


おわり


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