7-3,なぜかバトルシーンだけ異様にテンション上がる!!
数分後……。
「大将、ごっそーさん」
食事を終えたクロトはお会計しそのまま店を出ようとした…がその時。
「おい、あんた…」
突然、誰かに呼び止められたクロトは、声のした方に振り返るとそこには…。入店してきて早々に変な声をあげた男だった。レイジは、しかめっ面でクロトを睨みつける。
「悪いが、ちょっとその面貸してもらおうか」
物凄い威圧的な態度にクロトは、特に動じることもなくいつも通りのほほんとした態度で……。
「悪いな、俺は顔がアンパンで出来てる人じゃないから、顔の貸し出しはしてないんだ。貸して欲しいなら赤い屋根で出来てるパン工場のおじさんに頼むんだな。…と言ってもそんな威圧的な態度貸してくれるとは到底思えないけどな」
皮肉交じりの回答で返事する。そのいけ好かない態度にレイジは、腰にぶら下げている刀に手を添える。いつもで遣れると言わんばかりの臨戦態勢に入った…がその直後。
「レイちゃん…それにクロちゃん。喧嘩をするのは結構だが……うちの中で暴れようって言うのな……次回から飯は作られねぇから」
「「……は、はい」」
大将の目がギラリと光、先ほどまでバチバチと火花を散らしていた二人が、まるで叱られた子犬かと言わんばかりに涙目になりながらブルブルと縮こまってしまった…店主が一番怖かった。
店主に怒られた二人は、トボトボと店を後にし、クロトは渋々、男の後をつけ人気のない広場のような所へと来た。
「それで俺に一体何のようなわけ? こんな人気のない場所まできて。まさかここまで来て、告白とか言わないよな。悪いが俺にはそういう趣味はないし、そもそもそういうのは可愛い女の子がやるから意味があるんだぜ(※個人的感想)」
まるで煽りコメントのような発言をするクロトにレイジは冷静に対処。
「…悪いが、俺にもそういう趣味はねぇし、長々と話すのも好きじゃねぇ。だから単刀直入に聞く……獣人の女をやったのは、お前か?」
物凄い殺気だった視線でクロトを睨みつけるが、何とも思っていないのかクロトはいつも通りの態度を見せつつ”獣人族の女”とは誰の事か頭を悩ませていた。
しばらく考え込んだ末、この前メイド喫茶で絡んで来た人のことかと思い、レイジに聞いてみる。
「…うーん。獣人族の女……。!、もしかして、あの変態の事か? だとしたら誤解だ。あれはあっちがしつこくうちの嫁(嘘)に絡んでくるから仕方なく……」
クロトがまだ話をしている途中だったが、レイジは聞く耳を持たず。小さな声で「……そうか」
と低く呟いた。
次の瞬間……
レイジの姿がボヤケ、凄まじい踏み込みでクロトに近づく。そして、火花を散らして抜かれた刃が、鋭い風切り音とともにクロトの首筋へと奔る。
「っな……!?」
唐突すぎる一撃に、クロトの反応が一瞬遅れる。辛うじて上体を後ろへ反らしたものの、完全に躱しきることはできず、鋭い風切り音とともに、前髪の数本がハラリと虚空に舞う。
辛うじて攻撃を凌いだのも束の間、薙ぎ払った刀を百八十度回転させ、燕返しが如く再びクロトに向かった切り上げる。クロトは咄嗟にしゃがみ攻撃を避ける……がレイジの攻撃はまだ終わらない。
切り返した刀をそのまま自身の頭まで持ち上げ、両手で柄を持ち直し振り下ろす。流石にしゃがんだ体勢から避ける事が出来ないと判断したクロトは……。
バチン!!
真剣白刃取りで攻撃を止める。
「おいおい、あっぶねぇだろうが、こんなもんぶん回しやがって! 俺を殺す気か……よぉぉぉ!!」
いきなり攻撃された事に対しキレ散らかしながら、両手で挟み込んでいた刀の軌道をぐいっと外側へいなし、レイジの体勢を崩れさせる。その隙を見逃さず、バネのように後方へ勢いよく跳んで距離を取った。
「全く、冗談じゃないぜ。顔も名前も知らない奴にいきなり刀で切りかかられるなんて。てめぇ、いきなり人に向かって刃物をぶん回すとかどんな教育受けてんだ。もっぺん小学校からやり直してきやがれ!!」
乱れた呼吸をようやく整えたクロトは、冗談交じりの罵倒を浴びせる。だが、相手はその罵倒を完全に無視し、別の事考えているように見えた。
(まさか、俺の初撃が一度も当たらないとは。いくら殺気のない攻撃だったとはいえ…ただの素人で出来る芸当じゃないな)
レイジは、ニヤリと不敵に笑う。
(…ただちょっと、試すだけのつもりだったが。少し本気でやるか)
さっきとは比べ物にならない密度の殺気が膨れ上がった。空気がビリリと震え、クロトの全身に鳥肌が駆け巡る……次の瞬間!!
先程よりも一段と速い動きでクロトに近づき、猛烈な風圧を伴った斬撃の嵐が、容赦なく襲いかかる。
一撃、一撃に明確な殺意の籠ったレイジの猛攻。クロトはその圧倒的な速度に驚愕しながらも、野生的な勘で紙一重の回避を続けていた。だが、いつまでも木偶の坊のように黙って殴られている事に我慢の出来なかったクロトは……。
「てっめぇ、いい加減しろやぁぁぁ!!」
ほんの一瞬の隙から、レイジの軸足を払う。体勢が崩れた所に怒濤の右ストレートをお見舞いしようと思った瞬間。体勢を崩されたはずのレイジの手元から、凄まじい速度で刃が跳ね上がってきた。予測不能の、下からの切り上げ。
「っぶね!?」
鼻先をかすめる銀光。クロトは反射的に上体を限界まで後ろへ反らし、間一髪でその斬撃を躱しきる。追撃を阻まれたレイジは、崩れた体勢のまま空いた左手を地面に突くと、バネのように後方へ跳躍。瞬時に着地し、再び刀を構え直した。
息をつく暇もない猛攻に、流石のクロトも疲弊を隠せない。額から大粒の汗が流れ落ち、荒い呼吸が肺を焼く。
(まさか、あの無茶な体勢から反撃してくるかよぉ。バケモンかよ、こいつ。……まぁでも剣筋自体は、馬鹿みたいに真っすぐだから避けるのそう難しくない。クソ真面目人間か、こいつ)
などと、相手の剣筋から性格判断を行っているとレイジは、レイジは右手の刀を水平に寝かせ、自身の左肩まで腕を引き絞るようにして突進してきた。構えから見て左から右へ振り抜く猛烈な一閃が来ると予想したクロトは、視線をレイジの左側に固定。いつでも跳べるよう身を構えた――だが。
「っがはぁ……ッ!?」
刀が走るより早く、クロトの左脇腹に、内臓を破らんばかりの衝撃が突き刺さった。不意を突かれたクロトは、情けない奇声をあげながら嘔吐してしまう。歯を食いしばりながら左下を睨み据えた。そこにあったのは――深く抉り抜いた、レイジの右足だった。
「その体勢から……蹴り、だと……!?」
クロトは、凄まじい衝撃波とともに、真横へと吹き飛ばされていた。地面を何度も激しくバウンドし、土煙を上げながら転がっていく。
完全に油断していた。最初からずっと刀しか使わないため、純粋な剣士だと勘違いしていた。意識を完全に刃へと縛り付けられた結果、完全な死角からの不意打ちを喰らった。喧嘩慣れしている……。痛む脇腹を抑え、なんとか体勢を整えようと動きを止めた、その瞬間だった。いつの間にかクロトの正面にまで迫っていた。上段へと高く掲げられた刀。それが一気に振り下ろされようとする。
(や、ヤバい、間に合わない!!)
心の中で終わったと思ったその時……。
「レイジせん……ぱあぁぁぁぁぁぁぃッ!!!」
「っぶ――!?」
鼓膜を突き破るような女性の叫び声と同時に、レイジの背後から猛烈なスピードで突撃する『鉄の塊』が激突した。無防備な背中に直撃を喰らったレイジは、そのまま前方へ吹き飛ばされ、顔面を地面で盛大に擦りむきながら転がっていった。




