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7-4,理不尽な攻撃にドロップキック!?

 命の危機から一転、目の前のシュールな光景を目の当たりにしたクロトは開いた口が塞がらない。

「もう、探しましたよレイジ先輩」

ママチャリに跨ったまま、涼しい顔で言い放つシオン。

「し、シオン……てめぇぇ……ふっざけんじゃねぇぞぉぉ、こらぁぁぁぁ!!」

地面を派手に転がっていたレイジは、般若のごとき怒相で跳ね起きると同時に、物凄いスピードでシオンに突撃する。そんな状況でシオンは、捕まってなるものかと言わんばかりに自転車で縦横無尽に駆け回り、笑いながら逃げ回る。

 その光景をただ茫然と見ていたクロトに、シオンが不敵な笑みを向けた。

「ほらレイジ先輩。私にばっかりかまけてていいんですか。あそこにいる人と喧嘩していたんじゃないんですか?」

 シオンの言葉を聞いたレイジは、ピタリとその場で足を止めた。そして、ゆっくりとクロトの方へ顔を向ける。視線を向けられたクロトも瞬時に臨戦態勢の構えを取り”いつでもかかってこい!”と言わんばかりの覇気を放つ……が。

「……興が醒めた。帰るぞシオン」

レイジは深いため息を吐き、手に持っていた刀を鞘に収めると、本当にそのまま背を向けて歩き出そうとする。だが、そんな理不尽なフェードアウトを、クロトが許すはずもなかった。

「おい、こら待てや! なーに人を一方的にボコすか切っておいて立ち去ろうとしてやがる。謝罪しろやこらぁぁぁ!!」

構えをかなぐり捨て、クロトは地を蹴った。 無防備なレイジの背中に向かって、全力のドロップキックを叩き込む!


「っぶ――!?」


 背中にえげつない衝撃を受けたレイジは、カエルの潰れたような声を上げて前のめりにすっ飛んだ。 地面を派手に転がり、砂煙を上げてようやく止まる。

「……て、めぇ……ッよくもやりやがったなぁぁぁ!!」

 般若の如き怒相で跳ね起きたレイジが、クロトに掴みかかる。 そこからは、先ほどまでの命を懸けた抜刀術の応酬が嘘のような、泥臭い泥仕合が始まった。

 髪を引っ張り合い、服の襟元を掴んで揺さぶり、泥を投げつけ合う。お世辞にもスタイリッシュとは言えない、大の大人二人の凄惨(?)な子供の喧嘩である。


 ——ピピッ。 


 そんな惨状のすぐ傍らで、ママチャリに跨ったまま、涼しい顔でスマホの動画カメラを回しているシオンの姿があった。



「ぶっ、あははは!ど、どうしたレイジ……その顔は?」

 特務課の事務所に戻るや否や、椅子に深く腰掛けていた隊長のレオーネが、腹を抱えて大爆笑した。

「……ちょっと階段で転んだだけっすよ」

レオーネの視線から目を逸らし、凄く不服そうな表情で語るレイジ。そんな彼の嘘を、すべて見透かしたような笑みを浮かべ、「フーン」と、わざとらしく見つめるレオーネ。

「ま、そういう事にしてあげる」 

 レオーネはそう言うと、椅子の背もたれにゆったりと身体を預け、「もう大丈夫よ!」とひらひらと手を振ってレイジを解放させた。それ以上は何も聞いてこない。すべてを分かった上で、これ以上の追及は無用と判断したのだろう。


 場所を変え、特務課の裏手にある寂れた屋外の喫煙所。レイジは壁に背を預け、ライターのカチャリという音と共に紫煙を燻らせていた。ようやく静かになった冷たい空気の中、ふぅ、と煙を吐き出した、そんな時……。

「あははは! 何度見ても面白いですね、この動画は!!」

 静寂をぶち破る高い笑い声が響く。その瞬間、レイジの額にピキリと青筋が浮かんだ。手元に持ったタバコが指の力で歪みそうになるほどの激昂が脳内を駆け巡る。

「シ、シオン、お前。俺に喧嘩でも売りに来たのか?」

「えー、そんなわけないじゃないですか。私はただ、レイジ先輩が心配で見に来ただけで……ぶっ、あははは!」

「シオンてめぇぇぇ!!」

「そんな怒らないで下さいよ。怒ってばっかりだと眉間にしわが増えて唯でさえ怖い顔が、更に怖い顔になっちゃいますよ」

 言動と行動のあっていないシオンの態度に、とうとうブチ切れてしまったレイジ。だが、シオンはそんなレイジの怒りなど、どこ吹く風と言わんばかりの涼しい顔をしていた。

「まぁまぁ、そんな事より。あの男とやり合ってみて、どうだったんですか? 強かったですか?」

 そのあまりの切り替えの早さに、レイジは目をピクピクと痙攣させ、深いため息を吐いた。 これ以上怒るだけ無駄だと悟ったのか、手に持っていたタバコを再び口にくわえ、深く煙を吸い込み、ゆっくりとそれを吐き出す。

「……正直、大した奴じゃないな」

口では大した奴ではないと語るレイジだったが、内心では違った。

(大した奴じゃない……はずがない。いくら手加減していたからと言って、俺の攻撃がまともに当たらないのは……どう考えても普通じゃない)

タバコを口にくわえながらも、今回起こった出来事について整理を行う。

(どこか、ぎこちなさと言うか、ムラがあるというか。戦闘の勘を忘れている節はあったが。だが、あれは間違いなく『死線』をくぐってきた奴の動きだった)

 しばらく考え込んでいたレイジだったが、「馬鹿馬鹿しい」と小さく呟きながら、灰皿にタバコを押し付け、火を消し、近くにいたシオンの頭を叩く。

「ほら、さっさと仕事に戻るぞ」

「いったぁぁい! ちょっとレイジ先輩。女の子の頭を叩くなんて、男として失格ですよ。パワハラで訴えますよ!!」

 大袈裟に頭を押さえて抗議するシオンに、レイジは振り返りもせず歩き出す。

「うるせぇ。お前がパワハラで訴えるなら。俺は逆パワでお前を訴えるからな」

「え、そんな嘘ですよ。待ってくださいよー!」

 泥まみれのままスタスタと戻っていく先輩の背中を、シオンは慌てて追いかけていく。その表情には文句を言いつつも、やはりどこか不敵な笑みが浮かんでいた。



一方、クロトはと言うと……。

冷たい床にて、鬼の形相になっているシーナのお説教を正座しながら受けていた。

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