6-2,路上のメイドさんにはお気をつけよ!!
なぜサキがメイド喫茶で働いているのかと言うと――決して何でも屋が嫌になってメイドに転職したわけではない。それは、遡ること数時間前の出来事だった。
サキは買い物のため、いつものように商店街へ足を運んでいた。その日も特に変わったことはなく、順調に買い物が終わろうとしていた……その時。サキの視界に、メイド服姿の――猫耳? 猫妖精の少女が飛び込んできた。その子は、通行人に必死に声をかけ……特に女性中心に話かけに行ったが相手にされなかった。
(客の呼び込み……かな?)
そう思った瞬間、猫妖精の少女と目が合ってしまった。次の瞬間――その子は涙目になりながらサキへ駆け寄ってきた。
「あの、すみませんにゃ……!うちで……働いてほしいのにゃ……!」
「……はい?」
突然の“スカウト”にサキは完全に困惑。だが、猫妖精の子はウルウルした瞳でサキを見つめてくる。
(……そんな目で見られたら断れないじゃん……)
とりあえず”話しだけなら”と言ったつもりだった。しかし――
「やったにゃ!! 助かったにゃ!!」
猫妖精の子は承諾したと完全に勘違いし、サキの腕を掴んで半ば強引に引っ張られ。そしてそのまま流れるように、メイド服を着せられ、店のホールに立たされた。
突然の展開にサキは混乱したが、落ち着いてから事情を聞くことができた。猫妖精の少女はこのメイド喫茶のスタッフで、最近、同僚の一人がケガで休むことになり、急遽人手が必要になったらしい。ダメ元で路上で呼び込みをしていたという。
「どうして私が……」
断ることができなかった自分に小さくため息をついていた。そんな時、店内に チーン と呼び鈴が鳴り響いた。
「サキちゃん、お客様がお呼びよ!」
「あ、はーい……」
嫌々ながらも引き受けてしまった以上、逃げるわけにもいかず、サキはぎこちない足取りでメイド服の裾をそっと押さえながら、サキは指定されたテーブルへと向かう。
「お、お呼びでしょうか……ご、ご主人さ……ま……」
ぎこちない笑顔と震える声で言ったサキだったが――声がぴたりと止まり、笑顔がさらにぎこちなくなり、額から冷や汗がつーっと流れた。なぜなら、サキの視界には 見覚えのある男 がいたからだ。
「よ!」
「く、く、く……クロトさん!!!」
軽いノリで挨拶するクロトに、サキは店内に響き渡るほどの声で驚きの声を上げてしまった。
「どどどど、どうしてクロトさんがここに!?」
顔を真っ赤にしながら震える声で尋ねるサキ。クロトは肩をすくめ、気まずそうに笑った。
「いや、偶々入ったらサキがいただけで……」
その説明を聞いたサキは、心の中で即座に断言した。
(絶対に嘘だ……)
絶対に嘘だと思ったサキは、クロトを疑いの眼差しで見つめた。
「それにしても……メイド服姿、似合ってるなぁ~」
「そ、そんなマジマジ見ないで下さい!!」
サキは目を潤ませ、両手で身体を隠すように縮こまる。その様子を見てクロトはニヤニヤと不敵な笑みを浮かべた。そして追撃と言わんばかりに――。
「まぁそんな事より。なぁサキさん。何か大事な事を忘れちゃーいないか?」
「大事な……事?」
「そう。俺はお客で、サキは店員。つまり今、俺はサキの“ご主人様”ってわけだ。メイドがいつまでもそんな態度でいいのかな?」
これでもかと言わんばかりの満面の笑み。サキは一瞬、苦虫を噛み潰したような表情になったが――顔を真っ赤にし、俯きながら。
「……も…申し訳…ありません。ご、ご主人……さ…ま……」
今にも消えそうなほどか細い声で謝罪するサキ。クロトのニヤニヤは止まらない。
そして畳みかけるように、メニューの中から “ドキドキオムライス ~メイドさんの愛を込めて♡~” を注文した。
数分後、クロトのテーブルに、ケチャップのかかっていないオムライスが運ばれてきた。サキは手にケチャップを持ち、最後の仕上げに取りかかる。
「さぁ、早く早く!」
急かすクロト。サキは震える手でオムライスにハートを描こうとした――が。
「やっぱり無理!!」
羞恥心が限界突破したサキは、勢いよく上半身を起こした。その拍子に、手に持っていたケチャップのノズルがクロトの方へ向き――顔面に噴射。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ、目が、目がぁぁぁぁぁ!!」
クロトはケチャップまみれになり、床で悶絶する。
「ご、ごめんなさいクロトさん!!」
慌てて駆け寄ろうとした、その瞬間――。
「結婚してください!!」
店内に響き渡る、突然のプロポーズ。
サキはビクッと肩を震わせ、声のした方へ顔を向けた。そこには――膝をつき、左手を一人のメイドに差し出す女性の姿があった。店内は一瞬で静まり返り、次の瞬間、ざわ……と空気が揺れた。




