6-3,ルールはしっかり守りましょう!!
女性が女性にプロポーズするという、ちょっと特殊な現場を目撃したサキたちだったが、プロポーズをした女性の表情は真剣そのもので、目をキラキラと輝かせていた。……が。
「ごめんなさい」
あっさり振られてしい、女性はその場で石のように固まり、店内の空気が一瞬だけ凍りつく。……が、すぐに復活し、どうしてダメなのかとメイドに詰め寄った。メイドは困ったように笑いながら、しかしハッキリと告げる。
「女性とは付き合えないので」
それでも諦めきれない女性は、自分がどれだけ有能物件なのかを延々と語り始めた。あまりにもしつこいご主人様に業を煮やしたメイドは――笑顔のままアッパーをお見舞いした。
女性の身体はふわりと宙に浮き、サキたちのいるテーブルへ一直線。土煙を上げながら落ちてきた。
「いったたたた~……はぁ~、また振られちゃったなぁ~……おや?」
女性は頭にオムライスをべったりつけたまま、何事もなかったかのようにむくりと起き上がった。そして、起き上がった拍子に視界に入ったのが――サキ。女性はサキをじっと見つめ、その目がキラキラと輝き始めた。そして急に決め顔を作り、勢いよく言い放つ。
「あなた、可愛いわねぇ。私と結婚しない?」
唐突なプロポーズだった。あまりにも唐突すぎてその場で固まってしまうサキだったが、女性はそんなのお構いなしに、グイグイとサキへ詰め寄る。その時――。
「ちょっと待ったー!!」
大声をあげながらクロトが立ち上がった。……が、ケチャップが目に入っているせいで、サキたちとは真逆の方向を向いていた。
「クロトさん……そっちじゃないです」
サキのツッコミが飛ぶ。
気を取り直して……。
サキを庇うように前へ出たクロトは、謎の女性に向かって、威嚇するような態度で言い放つ。
「てめぇ、どこの誰だか知らねぇが……うちの可愛い嫁に手を出そうとは、いい度胸だな!!」
クロトの言い放った言葉に冷静にツッコミを入れるサキ。
「ま、まさかの既婚者ですって!?」
女性は雷に打たれたような衝撃を受け、膝から崩れ落ちる。しばらくブツブツと呪文のような言葉をつぶやいていたが――突然、何かを思いついたように不敵な笑みを浮かべた。
「……フ、フフフ。フハハハハ!!なるほど、なるほどぉ。つまり……あんたをいなくなれば、その可愛い子ちゃんは私のもの! ってことね!」
「「……はい?」」
意味不明な理論を展開する女性は、まるでゾンビのようにフラフラと立ち上がり、堂々と宣言した。
「だったらあなたを倒して、その子を手に入れるわ!!」
「いや、なんでそうなるんですか!!」
サキのツッコミが炸裂する。そんな中、クロトはいつになく驚いた表情をしていた。
「お前……まさか俺からサキを寝取ろうってのか。冗談じゃねぇぞ。いいか、サキの初夜を奪うのはこの俺だ!!」
「あなたも何とんでもないこと言ってるんですか!!」
アウトラインを軽く超える発言をするクロトに瞬時にツッコミを入れるサキ。
そんなサキの意志などお構いなく、両者、睨みあう形でその場で立ちすくみ、まるで西部劇に出てくる決闘のような雰囲気を醸し出していた。互いにいつ動きだすのか分からない謎の緊張感が店内に充満、その場にいた全員が息を呑んだ。そして、両者ほぼ同時に動き、右手で拳を作り互いに前の相手に突き出し今にでも殴りかかろうと思われた……が。
「ジャン…ケン…ポン!!」」
喧嘩が始まると身構えていたサキだったが、唐突にジャンケンが始まり、まるでハトが豆鉄砲をくらったような表情になってしまう。
そんなことなどお構いなく進める両者は、お互いグーを出し、あいことなったため再び右手を振り上げた。
「「あい…こで…しょ!!」」
クロトはチョキで女性がパーを出した。
「勝ったぁぁぁ!!」
ジャンケンに勝った瞬間、いつの間にか目の間に用意されていたおもちゃのハンマーを勢いよく掴み、女性の頭目掛けて振り下ろした。が、女性もまたいつの間にか用意されていたヘルメットを掴み自身の頭を護った。
「なに!」
余りにも早い身のこなしに驚くクロト。その一瞬の怯みを見過ごさなかった女性は、すぐさまジャンケンの掛け声をかけ、クロトはグー、女性はパーと今度は女性がジャンケンに勝つ。ジャンケンに負けたクロトはすぐさまヘルメットに手を伸ばし掴んだが、女性が上からヘルメットを抑え込み持ち上げられなくしてきた。
「なぁ!」
更にもう片方の手でハンマーを掴み、そのまま振り上げクロトの頭目掛けて振り下ろしてきた。
「獲ったぁ!!」
勝利を確信していた女性だったが、クロトは目の前にあったもう一つのハンマーを手に取り、振り下ろしてくるハンマー目掛けて振りかぶった。ハンマーとハンマーが衝突し、何とか頭への打撃を防いだ。
勝利を確信していた女性が今度は怯んでしまい、クロトが畳み掛けるかのようにジャンケンの掛け声をする。
人は、焦りや不安を抱えると無意識的にグーを出す傾向があり、女性もまたその例外ではない。だが、女性は先ほど同じ手を使い勝っているため、怯んでいると見せかけ頭の中でそろばんをはじいていた。
(相手は私が怯み、そのままグーを出すと思っている。だったら相手が出すのは当然パー。つまり私はグーでなく、チョキを出せばジャンケンに勝つ! そしたら今度こそその頭をかち割るわ!)
頭の中でそろばんをはじき、勝利を確信したその瞬間、相手これでもかと言うくらいの悪い笑みでこちらを見つめていたからだ。その表情をみた女性は……。
(まさかこれも罠!?)
先ほどまで考えていた策が一瞬にして崩壊するのを感じた。一体何を出せば勝てるのかもうまともに考えることも出来なくなった女性は、そのままグーを出した。がしかし、クロトはパーを出しておりジャンケンに負けてしまった。
(ま、まさかあの笑みはブラフ!?)
罠に嵌められたと思った女性だったが、いくらジャンケンに負けようが叩かれなければ負けないのなど瞬時に冷静になり、すぐさまヘルメットを手に取り頭にかぶろうとした。だが、手に持っていたはずのヘルメットが弾き飛ばされてしまった。そしてクロトの方を見ると、ハンマーの二刀流をしており、片方のハンマーでヘルメットを弾き飛ばしたようだった。そして、もう片方の手に持っているハンマーを大きく振りかぶり……そして。地面にめり込むくらいの勢いでハンマーを振り下ろしてきた。女性はそのまま顔を地面にめり込ませピクリとも動かなくなった。
しばらく沈黙の時間が流れた後、クロトはゆっくりと身体を起き上がらせた。
「勝ったぁー!」
「じゃ、ないでしょー!!」
そして勝った!と言わんばかりに両腕でガッツポーズするが、サキがハンマーでクロトの頬を殴り飛ばした。
「なんですかさっき! 私の知ってる遊びじゃないですよ。というか何全力で女性を殴っているんですか。失望しました! しばらく私に声をかけないで下さい」
その言葉を聞いたクロトは心にぐさりと見えない何かが突き刺さり、その場で意気消沈サキは、クロトを残しそのまま店を後にした。
翌日、警察署にて特務課のレイジとシオンがとある部屋にて仕事を行っていた。
「おいシオン。他の連中はどうした?」
「さぁ?いつものことじゃないですか」
その言葉を聞いたレイジは怒りを露わにさせ、他のメンバーを呼びにいくため椅子から立ち上がったその時。
「いやー、遅くなってすまんねぇー」
一人の女性が特務課に入ってきた。その声を聞いたレイジは、すぐさま声のする方へ顔を向け、挨拶をしようとした。
「はぁー、重役出勤ですよ、隊ちょ……ってなんですかその顔!!」
入ってきた人は、まるでミイラ男ならぬミイラ女と言わんばかりに包帯ぐるぐる巻きで誰だか分からない人だった。




