5-5,カッコいいと思ってもそれは幻想だ!!
相手の口にした言葉に困惑したサキは、なぜ帰ることができないのか問い返してみた。しかし――依頼対象は何も答えなかった。何か特別な理由があるのではないかと思ったサキは、依頼対象に依頼者が嫌いだから帰りたくないのかと遠回しに聞いてみるが即座に否定してきた。ではなぜ帰れないのか――改めて問いただしても、依頼対象は頑なに口を閉ざしたままだった。
しびれを切らしたサキは、一呼吸置き、真剣な眼差しで依頼対象を見つめる。
「……あの、もし困っていることがあるなら言ってください。
力になれるかもしれません。私たちは何でも屋です。困っている人の力になるのが仕事ですから」
サキの真剣な声に、依頼対象は黙って耳を傾けた。
しばらくの沈黙――そして、サキの真っ直ぐな表情に心を動かされたのか、ようやく閉ざしていた口を開き始めた。
『……分かった、話そう。実は……』
一体どんな深刻な話が飛び出すのか。サキは唾をゴクリと飲み込む。
『実は、命を狙われているんだ!』
「い、命!!」
突然飛び出した物騒なワードに、サキは思わず声を裏返らせた。しかしすぐに気持ちを立て直し、勢いのまま問い詰める。
「な、なんで命を狙われてるんですか!?誰に!? どうして!?」
『それは……』
依頼対象が理由を話し始めようとした――その瞬間、依頼対象の長い耳が、まるでレーダーのように鋭く立ち上がった……次の瞬間。
ドンッ!!
「きゃっ!?」
依頼対象がサキに向かって勢いよく飛び込んできた。サキは体当たりを受け、そのまま尻もちをつく。直後――
シュッ!
どこからともなく小さな針のようなものが飛来し、依頼対象の身体に突き刺さった。依頼対象はそのまま地面に崩れ落ちる。サキは駆け寄ろうとするが、状況が飲み込めず、ただ困惑するしかなかった。その時――
コト……コト……コト……
奥の暗がりから、不気味な足音が近づいてくる。
「おやぁ〜……おっかしいねぇ〜。二匹同時に狙ったはずなんだけど。外しちゃったのかなぁ〜?」
暗闇から姿を現したのは――
黒いフードを深く被り、両手の指をモゴモゴと不気味に動かす謎の人物。
「まぁいいかぁ〜。ターゲットには命中したみたいだしぃ」
謎の人物はサキなど完全に無視し、
一直線に依頼対象へ向かう。そして――依頼対象の耳を掴み、そのまま持ち上げた。
依頼対象は反撃しようとするが、身体が痺れているのか、まったく力が入らない。サキはその光景を呆然と見ていたが、ふと我に返るり、まずい状況だと察したサキは……。
「その手を……離してくださいぃぃぃー!!」
両手を前に突き出し、勢いよく突撃した。がしかし――
「邪魔だよぉ〜」
バチンッ!
掴んでいない方の手で軽くカウンターを入れられ、サキは地面に吹き飛ばされる。
「きゃっ!!」
「全くぅ〜。何なんだいこのウサギはぁ〜」
謎の人物はサキを一瞥すると、依頼対象を掴んだままその場を離れようとした――その時。
バン!!
銃声が響き、謎の人物の背中に弾丸が直撃。衝撃で依頼対象を手放してしまう。落下する依頼対象をサキが飛び込んでキャッチ。ギリギリで怪我を免れた。謎の人物は一瞬よろけたが、すぐに体勢を立て直し、
撃たれた方向へ振り返る。その瞬間――
バン!!
今度は左肩に直撃。更にカチャっという音と共に再び銃声が鳴り響き、右わき腹辺りに直撃。さすがに耐えきれず、謎の人物はその場にしゃがみ込む。サキは何が起きているのか理解できず、ただ周囲を見回す。すると――近くのゴミ箱がカタカタと揺れ始め、次の瞬間、ゴミ箱の中から勢いよく人が飛び出してきた。サキはその姿を見て、思わず叫ぶ。
「く、クロトさん!?」
飛び出してきたのはクロトだった。
サキは一瞬安堵したが、その格好を見てツッコミを抑えられなかった。
「なんですかその恰好は!!」
クロトの服装は――
・黒いジャケットにジーンズ
・黒いサングラス
・そしてなぜかウサギの耳
さらに手には見覚えのあるライフル。
(どこからどう見てもターミ〇ーター……にウサ耳……!?)
サキの脳が処理を拒否する中、謎の人物が懐に手を伸ばし、クロト目掛けて飛びかかってきた。
「危ない!!」
大きな声でクロトを心配するサキだったが、目を赤く光らせ飛び掛かって来た人物に銃口を向け……。
バン! カチャ! バン!!
まるで映画のワンシーンかと言わんばかりに、二発の弾丸が正確に撃ち込まれた。。一発は左足、もう一発は頭部に命中し、謎の人物は気絶、そのまま後ろへ倒れ込んだ。
その光景を見たサキは、思わず口をあんぐりさせたまま固まってしまい、ほんの一瞬――ほんの一瞬だけ、クロトがカッコいいと思ってしまった……がその直後。
クロトは凄まじい勢いでサキの方へ振り返り、“ドヤァーー!!” と言わんばかりに胸を張ってアピールしてきた。サングラスの奥で目がキラキラしている。完全に「褒めて褒めて!」の顔だ。その顔をみた瞬間現実に引き戻され、サキの表情はスッと冷めた。
※ちなみにクロトが使った銃はミオ特製。狙った場所に必ず当たる“オートエイム銃”のため、クロトの実力ではありません。※
サキは呆れたようにクロトを見つめたまま、腕の中で倒れている依頼対象に気づき、ハッとしたように顔を向ける。
「ごめん! 今治すから……!」
サキはすぐに治癒能力を発動し、依頼対象の身体を淡い光で包み込んだ。
治癒が無事済んだ依頼対象は、耳をピンと立て、サキの方に顔を向け礼を伝える。次にクロトへ顔を向け、首をかしげながら尋ねた。
『ところで……あなたは誰だ?』
クロトはサングラスをクイッと上げ、妙にキメた声で答える。
「……ただの通りすがりの野ウサギだ」
依頼対象は複雑そうな顔をしたが、助けてもらったことには変わりないと判断したのか、小さく頭を下げた感謝する。そして依頼対象は、気絶して倒れている謎の人物へ視線を向ける。
『まさか、こんな奴までもが出張ってくるとは……』
その表情は、どこか深刻だった。しばらく考え込んだ後、依頼対象はゆっくりとサキとクロトの方へ振り返る。
『あんたたちに……依頼がある』
路地裏の空気が、再び張り詰めた。




