5-4,敵を騙すにはカモフラージュ率が大事だよね!!
遡る事数時間前……。
「だ、ダメですよ、こんな所で……! 人目もありますし……!」
「大丈夫だ、すぐ終わる」
「ああ、だめぇぇぇ!!」
昼間だというのに路地裏にて何やら善からぬ行動をしている二人?がいたように見えた――次の瞬間。
「な、なに一人で変なこと言っているんですかクロトさん!!」
サキの鋭いツッコミが路地裏に炸裂した。どうやらクロトが変声機を使って一人で二役を演じ、勝手に濡れ場っぽいセリフを言っていただけだった。※この作品は至って健全な作品です。決して如何わしい描写などございません!
「ん?なにって、そんなの決まってるだろ。濡れ場のシーンを作っているんだ!」
「……」
胸を張りながらドヤ顔でとんでもない爆弾を放つクロトに呆れた表情で無言でクロトを見つめるサキ。※大事な事なので二度言います。この作品は至って健全な作品です。決して如何わしい描写など一切ございません!!(一部の者を除いて)
その後もクロトは、濡れ場シーンがどれ程重要なものなのか懇切丁寧に説明していたが、もうこの男の対処に慣れたサキはその話を右から左へと聞き流し、聞こえないふりをした……というよりもサキにとって今はそれよりもっと重要な事をクロトに聞かないといけなかったのだ。
「まぁ今更クロトさんの考えを動向いってもあれなのでいいですが。それよりも……何なんですか、この恰好!? 凄く恥ずかしいのですか!!」
頬を真っ赤にし、バニースーツ姿で両手で体を隠すように立つサキ。そんな状況だというのにクロトは平然とした態度でサキに語る。
「何って。どっからどう見てバニーガールだけど?」
「いや、そういうことを聞きたいんじゃないんですよ!!どうして私がこんな恰好をしてるのかって聞いてるんですよ!!」
「どうしてって、さっきも言っただろ。作戦だよ作戦」
クロトの言う作戦とは、簡単に言えばお色気作戦である。今回の依頼対象は自分以外を敵だと思っていると推測したクロトは、「だったら同じ種なら大丈夫」と考え、ミオに特注でバニースーツを作って欲しい依頼……
「いや、だからそれがおかしいと言っているんでしょ!」
まだ説明途中だというのに急にサキが話に割り込んできた……まだ説明中だというのに。
「クロトさんの作戦自体には理解しましたが。どうして私なんですか?」
涙目になりながらクロトに訴えかけるサキ。するとクロトは飄々とした態度で答える。
「どうしてって、男の俺がそんなの着たら完全に不審者扱いになるだろ」
「そ、それは……確かにそうかもしれませんが」
以外にも正論な返答が返ってきて、何も言い返せなくなってしまうサキだったが、それならもっとマシな恰好とかはなかったのか?とクロトに問いただす。
するとクロトは、真剣な表情でサキの方へ視線を向け……。
「俺が見たかったから!!」
と悪気もなく堂々と言い放った……完全に私欲である。それを聞いたサキは、頬をぷくっと膨らませ、涙目になりながら無言でクロトの胸倉を掴み、ガクガクと激しく揺さぶり始めた。
「ちょ、無言でそんな激しく揺らさないで!悪かった、悪かったからとりあえず落ち着いて!」
クロトの言葉を聞き、サキはようやく手を離す。
「ふー……。まぁサキのバニーガールを見たかったというのが本心ではあるが、そのスーツにはちょっと特別な機能が備わっているんだ」
どこか自慢げに語るクロトだったが、実際に作ったのはミオなのに、なぜそんなに自信満々なのか――サキは心の中でツッコミを入れつつも、話が脱線しそうなのでぐっと我慢した。
「まぁ、騙されたと思って行ってみてくれ!」
――そして現在。
クロトの口八丁に乗せられたサキは、依頼対象のヴォーパルバニーの目の前に立っていた。しかし――
ここでサキは、作戦の致命的な欠点を思い出す。
(あれ……? そういえばこれ……ただ私がバニーの恰好をしてるだけで、根本的な解決になってないんじゃないの!?)
そう、見た目はただのバニーガール。ウサギに近づくための“同族アピール”どころか、むしろ怪しさが増しているだけである。そもそも相手は意思疎通ができないはずのウサギ。色仕掛けも何もない。結果として――ただサキが恥をかいただけだった。その事実に気づいたサキは、膝から崩れ落ち、涙をぽろぽろ流し始めた。その時――
「……おう、見ない顔だな」
何処からか渋い低音ボイスの声がサキの耳に入ってきた。その声を聞いたサキは、顔を上げキョロキョロを周囲を確認したが、誰もいなかった。
「おい、一体どこを見ている。こっちだ」
再び声が聞こえ、その方向に顔を向けると――そこには、今回の依頼対象であるヴォーパルバニー がいた。サキはしばらく放心状態になり――
「……。えー……ウサギが喋ったぁぁぁぁぁ!?!」
驚愕が一気に押し寄せ、サキは大声で叫んだ。なぜ急にウサギの言葉が分かるようになったのか分からず、サキが心の中で混乱していると――耳元から機械音のようなノイズが走った。
「……あー、あー、テステス。聞こえるかサキ?」
「く、クロトさん?」
突然聞こえてきたクロトの声に、サキはさらに慌てふためく。
どこかから様子を見ているらしいクロトが、落ち着くように声をかけてきた。
「まぁ落ち着け。深呼吸だ」
サキは言われるままに深呼吸し、ようやく冷静さを取り戻す。
「ふふふ、驚いたか?突然あのウサ公の言葉が分かって」
クロトは妙に得意げだ。
「そのスーツはな、一定の周波数に合わせると特定の動物の言葉が自動で翻訳され、こっちの言葉も伝わるようになる!」
まるでどこぞのメガネの小学生が使うネクタイのような代物だ。
「さらにその現場にあったスーツは、着ると周りから認識されるカモフラージュ率が上がって……」
「なんですか、カモフラージュ率って!!」
訳の分からない説明に、サキは反射的にツッコミを入れずにはいられなかった。サキは呆れつつも、このスーツが無駄にハイテクであることだけは理解した。
その後、「褒めてくれてもいいんだぞ?」というクロトの通信を華麗にスルーし、逆に今どこにいるのか尋ねてみた。するとクロトは、もし捕まえるチャンスがあった時、いつでも捕まえられる距離にはいると説明したが、具体的にどこにいるのかは話してはくれなかった。
サキがクロトと通信している間、ヴォーパルバニーはただじっと見ていた。そして、サキに声をかける。
『おい、大丈夫か? 突然動かなくなって』
「あ、す、すみません。はい、大丈夫です」
突然の声に驚いたが、サキはすぐに持ち直した。
『そうか、それは安心した。だが、まだ若い君がこんな所でウロウロしているのは感心しないな。早く家に帰ることだ』
サキは目を丸くした。
(え……紳士……?)
ウサギの意外な対応に驚いていると――
『先ほども、ガラの悪い三人組が私を捕まえようとしてきてな。撃退したところだ』
(……すみません、それ私たちです)
何とも言えない気持ちに陥ってしまうサキだったが、気持ちを切り替え、自分が何でも屋であること、依頼人に頼まれて来たことを説明する。ヴォーパルバニーはしばし沈黙し――重々しい声で口を開いた。
『……そうか。ボスが俺を探して……。すまないが、今はまだ戻るわけにはいかない。私には――やらねばならぬことがある』




