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前代未聞の異能力者~自ら望んだ女体化だけど、もう無理!~(改正版)  作者: 沙風(すなかぜ)
第六章/愛のある我が家
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Episode84/2.崩壊の兆し

「じゃあ、私が異能力者になった日から、何がどうなって、こうなったのか……一からすべて打ち明けるけど……少し長くなるよ」

「……ああ。聞かせてくれ。場合によっては、おまえを助けられるかもしれない。異能力者保護団体じゃなくても、警察にだって頼れるんだ」

「…………」


 裕希姉は“それさえ不可能”と知っている。

 だからこそ、無言のまま、父さんが気づけないくらい小さく首を横に振った。




 私は、異能力者になった日から、まずは最初の事案ーー幼馴染みの友達……裕璃を救出した場面から話し始める。


 その友達、いや親友が、集団強姦の被害者になりかけたところを、同じ異能力者の後輩……一年生の友達である瑠衣と共に助け出した。

 私の複雑な心境も白状した。なぜなら、親しくなった救出者の瑠衣に恐れる眼を向けられて、怒り心頭となってしまい、裕璃との仲が破局したことが、最初の火種なのだから……。


 私が裕璃を避けるようになった日から暫くしたあと、先に私が恋心を抱いた人物を気にして、まずは最初に異能力者保護団体で勤める決意を固め、見習いとして働くことにした。


 月影日氷子という人物を自宅に招き入れたときは、純粋に異能力者保護団体としての仕事だったと話す。


 ーー愛のある我が家と(はつ)対面したのは、月影さんを異能力者保護団体に連行する最中の出来事だった。




「あのとき、愛のある我が家の当主(リーダー)含め、愛のある我が家の構成員四人と出会したんだ」

「日氷子っち……」


 裕希姉はしっかり憶えているらしい。

 一夜を同室で過ごした、月影さんの存在をーー。


「出会しただけなんだろう? そもそも犯罪組織の襲撃に遭って、よく無事だったな。だけど、それが豊花が愛のある我が家の一味になる理由につながるのか?」


 父さんだけは、母さんや裕希姉より話をきっちり聞く質問を投げてくれて、今の状況だと非常に助かる。


「うん。あの遭遇があったからこそ、私は愛のある我が家の実物を知ったんだ。実際には、すでにそのときには、異能力者保護団体と愛のある我が家は密接に繋がりがあったんだけど……それはとりあえずいいかな?」




 私はそこで、愛のある我が家、当主(リーダー)の連絡先を入手した。

 当時、神奈川県には二大特殊指定異能力犯罪組織が存在していた。

 片方は愛のある我が家と、もう片方は、すでに愛のある我が家と国直属の機関によって皆殺しにされて消え失せた“リベリオンズ”。


 愛のある我が家側と異能力者保護団体側は、少しまえに同盟関係となっていて、協力してリベリオンズを殲滅する腹積もりだったと説明する。


 リベリオンズのスパイが異能力者保護団体に紛れていて、その人物を捕らえるか、もしくは敢えて逃がして活動拠点を把握するためか。

 とにかく、愛のある我が家の襲撃により、リベリオンズのスパイは逃走し、迷惑を掛けたという理由で、嵐山沙鳥という愛のある我が家のトップから、一度だけ困った際には頼ってほしいと連絡先を入手したのだと。


 それから直ぐに事件は起こった。


 幼馴染みで大切な親友の裕璃が、高校の生徒ーー強姦しようと目論んだ三人組を、異能力者となっていた裕璃によって、殺害されてしまった。

 ニュースでも一時期報道された事件だ。




「母さんならわかるでしょ……前にテレビで報道されてたのを見て、私に声をかけたんだし。憶えているかな?」


 なぜか、私の記憶に強く残っていた。


 母さんがニュースで、私の高校で生徒が三人殺害されたという趣旨の報道を見て『こんな出来事があったのに、休校になったって話なのに、どうして昨日、直ぐに帰ってこなかったうえ、教えてくれなかったの? 大事件じゃない』と言っていたのを、答えられずに無視して瑠璃に会いに家を出た日のことが。


 私は母さんに関係ないうえ、話したら何かしら言われると考えて、端的に『この容疑者の少女って僕の友達なんだ。ごめん、あとで話すから』と、あとで話す気なんてさらさらない返事をして家から出たことが。


 なぜか今になって、明晰に想起できる。


「ゆ、豊花……? あの日の昨日……直ぐに帰ってこなかった理由に……なにかあるの? まさか、そのときに?」


 ようやく、母さんは口を聞いてくれた。

 少し考え思い出す素振りをみせる。


「直ぐに帰ってこなかったんじゃない。直ぐに帰って来られない事情があったんだ……あの日から始まったと言っても過言じゃない」

「待ってくれ、初耳なんだけど……豊花。ちゃんと説明してくれ」




 私は、母さんに言われたこと、言ったことを、なるべく正確に伝えた。


 そして、裕璃が三人組を殺害したあと、すぐに異能力者保護団体の第1級異能力特殊捜査官と、森山という異能力封じの異能力者、想い人であり親友でもある第2級異能力特殊捜査官の瑠璃が、揃って裕璃を教育部併設異能力者研究所へ連行したこと。


 その道中にリベリオンズから奇襲を受けてしまい、休校になり自宅に帰ろうとしていた私は、裕璃や瑠璃たちが拐われてしまい、人質として捕らえられてしまった話を伝えられたことも。




「そのとき、沙鳥さんの連絡先が手許にあるのを思い出して……私は愛のある我が家に助力を願った。瑠璃や裕璃を助けてほしいって」


「……そんなこと、異能力者保護団体や警察に頼ればいいだけの話じゃないか。あのな、豊花。どんな事があろうと、悪人にだけは頼っちゃダメだ。一度頼れば、それを理由に死ぬまで利用される。闇バイトがどんなに危険かわかってるだろ? その……もっと早く言い聞かせておけばよかったが」


 表社会しか知らない父さんは、真っ当な解決手段を口にする。

 けれど、日に日に裏社会の常識を浴びるほど理解していく私には、それでは意味がないのを識っている。 


「警察じゃ対処できないんだよ。世の中には、警察が手に負えない事例が山ほどある。愛のある我が家の一員として同行してきた私は、それについて父さんよりよっぽど理解してる。しちゃってるんだ」

「そんな訳、ないだろう!」


 父さんは思わず立ち上がると、両手をテーブルに叩きつけた。


「なら、どうして私は捕まっていないの?」

「は……そんなの、まだ犯罪に手を染めてないだけで……」

「異能力者は異能力を使うだけで……いや、これは長くなるからいいや」私は根拠を変えた。「私は既に、人を殺してるんだよ」

「ーー!?」


 父さんは唖然として言葉が出なくなり、母さんは下を向くと右手でまぶたを支え泣き始めてしまう。

 裕希姉だけは、殺人の現場を目の当たりにしているせいか、二人のように、今さら驚く素振りを見せない。


「じょ、冗談だよ、な?」

「パパ……嘘じゃない。これは悪夢なんかじゃない……現実なの……。ゆ、豊花は、私を誘拐した男たちを、平然と殺した。さ、三人も……」


「警さーー」

「普通に警察官の傍で、豊花は殺害するために使った刃物を、ぶらさげてたのに、警察のひと、誰一人豊花に声をかけなくて……おまけにその死体を無かった事にするみたいに、回収してた……」


 裕希姉は、未だに信じられない事態を目の当たりにしたことが、完全には受け入れられていないらしい。

 声が震えている。


「……な、なら……いや、話をつづけてくれ」

「うん」




 瑠璃や裕璃を救出するため、私を含む愛のある我が家たち集団で、リベリオンズの構成員を殲滅することには成功した。

 けれど、裕璃は姿を消していた。


 一度は力を貸すと言った沙鳥だが、二度目は話が違う。

 もしも裕璃を助けたいなら、自分たちの仲間になるよう言われた。


 逃げた裕璃が異能力者研究所に連行されたら、少年法など通じず、死ぬまで様々な心身共に拷問を与えつづけられる一生になってしまう。

 あそこが凶悪な異能力犯罪者の刑務所としての役割を果たしているのは、普通に世間に知られている。


 しかし、実態は刑務所なんてどころの話じゃない。

 あそこで繰り返されているのは、肉体的苦痛や精神的苦痛、あるいはさまざまな薬物投与。なかにはそれらを組み合わせた拷問と呼べる処置を加え、異能力者の異霊体侵食率が如何に上がるかを確かめる実験施設だと、私は知っていた。


 色んな人たちと話したり、裕璃の父親と話したりするなか、裕璃を助けたいという思いが強まった私は、最終的に愛のある我が家の仲間になる決意を固めた。と、家族に愛のある我が家に加入するまでの流れを説明し切った。


ーーあれは嵐山沙鳥が豊花を仲間にするため仕組んだことだろうがな。ーー


 ……それは、もうそんな次元の話じゃないんだよ。




「そ、それで、今はどうなんだ?」

「愛のある我が家の仲間になれば、脱退することはできない。言い方は悪いけど、家族や私の親友まで危害を加えられちゃうから、もう私は一生、愛のある我が家の一員として過ごさなきゃいけないんだ」


 ーー特殊指定異能力『犯罪』組織“愛のある我が家”の一員(仲間)として。


「だけど、家にワープ? してきた二人の話だと、六花ちゃんはむしろ、俺たちを守るためって……」

「うん。本当だよ」


 舞香から敵対組織の襲撃だと話を聞いたって言っていたじゃないか……。


「なら、俺たち家族を襲ってきたのは誰なんだ!?」

「ーー広域指定異能力犯罪組織“異能力協会”の構成員“神無月”」

「か、神無月?」


 愛のある我が家に加入したから命の危険に晒されているんじゃない。

 いま、私を、私の家族を危険な目に合わせているのは、別の犯罪組織“神無月”。


「私は神無月の部下に、麾下に入らなければ家族や友達を殺すって、暗に脅されたけど、愛のある我が家を抜けて、神無月の部下になれば、今度は愛のある我が家に私たちは殺される」


 ……最近になり、実はそこまで冷血な人間じゃないのかもしれない。

 沙鳥に対して、そのような甘い幻想を抱きつつあるけど。


「そこで私は神無月を殺そうとしたけど、部下を殺した時点で逃亡されて……そして、今に至るんだ。これが、おおよそすべての現状だよ」


 時計の短針は、既に左を真っ直ぐ向いてはいない。

 九時と十時のちょうど真ん中を指し示している。


「はぁ……は…………っ」


 母さんが座ったままよろめくと、フローリングに音を立てて倒れ込んでしまう。


「裕美花!」「ママ!」


 裕希姉と父さんは、慌てて椅子から立ち上がり母さんを囲う。


「うそ……うそうそうそ……ぜんぶ嘘。私の“息子”は、犯罪者なんかじゃないの。異能力のせいよ。ぜんぶ、豊花が異能力者なんかになったせい……犯罪者の“娘”なんて、家にはいない。ぜんぶ嘘」


 倒れて朦朧とした目線を揺らし、母さんは現実から逃避するように、すべてが偽りだと独り言を呟きつづける状態に戻ってしまった。

 私は……主因足る私は……母さんに近寄る権利がないと思い、咄嗟に立ち上がれなかった。


「やっぱり! その愛のある我が家と異能力協会の話をすべて警察に話せ! 警察は市民の味方だ! 力になってくれる筈だろう!? そんな出鱈目の話、信じるわけにはいかない!」


 母さんを必死で揺すりながら、父さんは叫声を響かせる。

 裕希姉は、母さんの傍で座り込んだまま何も言えずにいる。


 これが、もし本当に陰謀論や都市伝説程度の話だったら、私たちは……いや、私のせいで私の家族は、こんな悲惨な状況に立たされてはいない。


 なるべく淡々と事実を述べたが、それが逆効果だったのかもしれない。

 

「ーー無理。本当の話だから」

「……六花ちゃん?」


 どうやら両親の寝室に居るように言われていた六花は、私がすべて白状する光景を入り口で潜み聴いていたらしい。


 六花はリビングに足を踏み入れながら、私に代わって父さんの疑問に答える。


「国の正義側の組織ーー神奈川県警察の警視長(本部長)と、異能力者保護団体の神奈川支部長。犯罪者側の組織ーー愛のある我が家の当主、異能力結社の代表。全員、裏で繋がってる」


 六花は自身のスマホで、動画サイトに上がっているニュースを、父さんまで近づくと、屈んで画面を見せる。


『闇バイトの内部での抗争により、神奈川県川崎市ーーで、殺人事件がーー』


「な、なんだよ、これ……六花ちゃん?」

「報道規制されてる。豊花のお父さんが、外で襲われた事件」


『ーーとの通報により、誘拐された被害者は無事、警察により保護されーー』


「こっちは、裕希お姉ちゃんの誘拐の話」

「…………出鱈目じゃない。なんなの……この報道内容は……」


 裕希姉まで、事態を揉み消すかのような速報のニュースに驚愕を露にする。

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