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前代未聞の異能力者~自ら望んだ女体化だけど、もう無理!~(改正版)  作者: 沙風(すなかぜ)
第六章/愛のある我が家
262/267

Episode83/2.ー舞台裏・水面下(最恐と最狂)ー

(??(167.5).)

 ーー埼玉県、某所。日曜夜半。


「睦月さん、異能力組織“睦月”の麾下に入る代わり、自身の異能力を強化してほしいと懇願していた私の知人を連れてきました」


 痩せ気味の頬が痩けた二十代のまだ若い男性を連れて、同年代の男がラブホテルの一室に入る。


「ご苦労。寛ぐ許可を与えよう」


 ベッドに座り部下を待っていた、下っ腹が膨らみだらしなく見える男ーー睦月は、部下の一人に暗に休めと伝える。

 代わりに、鋭い目付きを痩せ細った男へと向けた。


「最悪精神が崩壊する可能性があるーーと、九番(くばん)経由で伝えたが、真の苦痛を耐えきる自負はあるのだろうな、貴様」

「へ? あ、あの、九番って……冬樹くんのことっすか?」


「今の会話の文脈でわからないのか? 返答もせず腑抜けた顔をしおってからに……貴様はこれからオレの部下になるのだぞ? ならば少しくらい賢くなることだ」


 だらしないお腹やサイズの合っていないスーツ等から、連れてこられた男は最初、本当にこの男が友人の使い道のなかった異能力を鍛えた者なのか疑ってしまう。


 だが、睦月の驕傲な雰囲気と傲慢な口調。そして、連れてきてほしいと頼った裏社会の異能力犯罪組織“睦月”とツテがある友人が畏敬を示す行動を見、本物の異能力犯罪組織“睦月”のリーダーなのだと納得した。


 痩せ痩けた男は、有名大学を卒業し、本来ならそのまま順風満帆な人生を歩む筈だった。

 しかし、就職先のパワハラ判定にならない叱責を男はパワハラだと勘違いし、上層部に部署を変えてほしいと懇願したものの通じず、結局は耐えられずに僅か一月余り、試用期間の序盤さえつづかずに、会社を辞めてしまった。


 その後は定職に就けないまま、パート先を転々と変えては時折無職になるのを繰り返した挙げ句、孤独のあまりに薬物に逃避し、貯金を浪費し覚醒剤を購入しては苦悩を紛らわせる行為に勤しんでいた。


 そんなある日、異能力が発現したがーー。


「あ、あの、すみません。本当に使い道のある異能力になるんすか? 俺の異能力、物質を動かせる物質干渉なんですが、浮かせられる重量が爪楊枝くらいで、頑張って十円玉を浮かすのがせいぜいなんすーー」


「阿呆が! 九番から疾うに聞いておるわ! 貴様までオレを莫迦にするつもりか!? リーダーを要す時期に、最もリーダー足る異能力者のオレの意見を足蹴にする真似をしおーーッ……」

「ひぇ!? えなんかすんません?」


 ーー神無月の様に。


 睦月はそこまで吐き出しそうになるが、自身の額を指でトントンと叩き、怒りを静めるよう努めた。

 例外を除き、睦月は異能力組織“睦月”のリーダーとして立ち振舞う。広域指定異能力犯罪組織“異能力協会”の構成員だと部下に伝える頃合いでは、まだないーーそう考えているためだ。


「すみません、睦月さん。こいつ、全然態度がなっていなくて。後で教育しておきます」

「頼むぞ? 今は人手を増やすのが先決だ。多少頭が抜けていようが、腐れポン中だろうが、手駒はあればあるだけいい」


 睦月は九番と呼ばれる男に伝えると立ち上がり、いつまでも近づいてこない痩せ痩けた男に自ら近寄る。

 男はビクッと体を揺らすが、予め冬樹ーー九番から“異能力を強化する儀式”の説明を受けていたため、その場で屈んで踞った。


「これより貴様の名前は、ここでは三十番となる。以後、名乗れ。大切に誇りにせよ」


 男ーー暗号名“三十番(さんじゅうばん)”になる男は、緊張しながら、『高卒の癖に偉そうに』と見下していた高校時代の九番の口ぶりに脳裏で悪態を吐き捨てる。

 が、しかし口にはしない。


 男は矮小な異能力を強力な異能力に昇華してもらい、がむしゃらに働き“睦月”のナンバー2になって見返してやるーーと思っているゆえの行動。表社会が認めてくれないなら、裏社会で成り上がる。そう決意したのである。


「安心しろ。廃人になった部下も、オレの麾下に入れたまま。死んだ後も番号を忘れたりせぬ」睦月は三十番の頭を両手で鷲掴む。「成功を祈るーーッ!」


 睦月が指に力を入れた途端ーー。


「ーーッ! ぁ…………ぁ……ぁぁ……あ……ぁあああああああああゃやあアアアアアアアアッッ!?」


 悪質かつ酷く醜いあらゆる角度の負の感情ーー不安、怒り、恐怖、畏れ、悲哀、絶望ーーが、数えきれない種類、三十番の脳内を一気に走り回る。

 その苦しみは、常人なら一年で体験する負の意識を、一秒で体験するかの様。睦月が一秒触れるだけで、あらゆる負の感情が、三十番の頭に濁流のように侵食し暴れ騒ぎ、喚き駆け巡る。


 睦月が精神干渉系の異能力を使ったことで、三十番は地獄の様相を全身で示す。

 触れた対象に力を込めることで、あらゆる負の感情が同時に精神を支配し埋め尽くし駆け巡り、触れている最中は一切収まることはないーーといった精神干渉系の力によるもの。


 ラブホテルのオーナーと懇意にしており、睦月の活動拠点のひとつゆえ許される行為だが、その絶叫は隣室や室外まで明確に轟いていた。


 睦月が三十番の頭を掴み二十秒ほど経過した辺りで、睦月は三十番を手離し床に放り捨て解放した。

 三十番はだらしなく唾液を口から垂らし、泡を吹いている様にも見える姿となる。


「相変わらず、精神干渉系“最狂”の異能力ですね」


「ふん。皐月が敵となった今、オレは再び、オレの感覚だけで部下の侵食率がどの程度上がったか計らなければならぬ。特殊な眼もなしに、だ」睦月は嘆息する。「だが、これで足りなければ再びやればいい、逆にいつまでも異能力が進化しなければ、こいつが死すか廃人になるだけの話だ。三十一番になる者を探すだけだ」


 睦月は己の異能力こそ、異能力協会という、あらゆる異能力者が集まる組織の頂点に立つべき力だと、そう自負している。


 負の感情の濁流を好き放題与え、例え基の異能力がいくら矮小だろうと、異霊体侵食率を強制的に進行させ、異能力を強くできるーーこの異能力こそが……と。


「九番の私が再古参というのは問題になりそうですし、まだ手駒に不安を覚えますが……やはり、例年通り“異能力協会”に関して、私以外には伝えないおつもりで?」


「最古参だった一番が殉死した今、最も長い付き合いのある部下は貴様だ。だからこそオレの本懐を伝えたのだ。一年も付き合いのない二七番、二八番、そして三十番(こいつ)にも無論、まだ伝える気なぞない。貴様も他の構成員に伝えるな」


 元々部下をあまりつくる気がない睦月だが、異能力協会に長年いれば、自然と部下を集める必要が出てくる。

 そして睦月は、自身の異能力を最大限活用するには、部下となる異能力者の異能力を、自身の異能力で精神を苦しめ、間接的に異霊体侵食率を上昇させて、異能力を成長させ指揮は己が執るーーという方法だと確信していた。

 

「承知しました。私などを信頼していただけるのは、感謝の念に堪えません」


 九番は頭を垂れて深く感謝する。


「これから如何に動きます? 最優先予定と仰られていたとおり、皐月加入に賛成しながら会議から逃れ、音信不通の卯月へ手を下されますか?」


 九番の確認の言葉に、睦月は顎を人差し指の平らで叩きながら考えるしぐさを見せる。

 やがて、静かに口を開けた。


「まだ無害の卯月か、既に有害となった皐月か、後に一番の壁となろう邪魔者の神無月かーー身内にこれほど癌が蔓延ると、オレの覇道も遠退(とおの)くな?」

「おっしゃるとおりで」


「だが、神無月は部下に自由にさせ過ぎるきらいがある。あれではいくら異能力が優れていようと部下は消耗して行くだろう。皐月は有害になったが、敵の拠点が集まる神奈川県内にまだ居るという話ではないか。なら、卯月から狙うのが最適解だ。異論はあるか?」

「私にその権利はないかと存じます」

「構わん。意見具申を許す」


 泡を吹き倒れたままの新たな部下ーー三十番を尻目に、二人は今後の行動を改めて話し合い熟考するのであった。


 非異能力者の上に異能力者が立ち、異能力者を束ねるリーダーとして異能力協会が立ち、そしてその異能力協会の頂点に己が立つには、今からどのような絵を描けばいいのかをーー。


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